第九話 感謝はする。けれど、お前と恋人になるつもりはない!
「くっ! やれ」
アーロイドにそう言われて一気に襲い掛かる連中。
俺たちも戦うが、思っていた以上にシャルフの実力は確かだった。
一々、
「銀薔薇剣舞」
「銀薔薇斬撃乱打」
と、技名を名乗る事がはてしなくうっとうしいが実力は確かだった。
それに、どう言う理屈なのか斬撃が飛んでいるのである。
遠距離攻撃も近距離攻撃も可能。
ばらまく薔薇の花ビラも(どこから出しているのかは、つくづく謎だが……)目隠しやら目くらましになって居る。……まあ、薔薇の方は狙っているのかどうかはいささか謎だが……。
そう思っている中だった。
「ええい! ふがいない連中め」
と、アーロイドが怒鳴るように言う。
「門下生どもだけならまだしも、息子共まで……。
銀薔薇のシャルフならまだしも、女ごときをとっとと殺せないとは……。
まったくもって腑抜け共目。使えないな」
忌々しげに言うと、倒された一人を蹴り飛ばす。
酷いな。と、俺は顔をしかめる。
別に門下生を気絶させたのは、俺達なのだがその行動を良いとは思えない。曲がりなりのも(たとえ、どんな外道な目的であれ)目的が一緒である以上は、仲間と呼べるはずだ。
仲間だろうが、チームだろうが協力者だろうが……。
とにかく、そんな相手を使えない。と、言って蹴り飛ばすやつは、俺善悪判定によって悪と任命される。異論があるなら、言ってみろ。
聞くが、反論して終わりだ。
「ならば、みせてやろう。
我が最終究極奥義」
最終究極奥義……。早熟で小学校四年生から限度で高校三年生まで、大学生になったらアウト! の、病状台詞だ。
とは言え、そんな事を思っている余裕は無い。ここで、最終究極奥義と言う言葉は、おそらくはごっこ遊びの台詞ではない。
「なっ、最終究極奥義だと!?
正気か?」
と、声を上げるフィリ。
「知って居るのか?」
「話だけでは……。
だが、こんな町中で使うような技ではない。私だけではなく、周囲の門下生……いや、この街の住民にも大量の被害が出る。
間違いなく数十人の死者がでるぞ」
「本気で正気かよ!?」
フィリの言葉に俺は叫ぶ。
どんな技なのかは、具体的には解らないが……その技の具体的な要素は解らない。解らないが、……人気がない場所……まあ、人一人を殺そうとしている。
目撃者を追い払っているだろうが、それでも死者が出ると言う言葉。それを考えるならば……とんでもない術を使おうとしている事だ。
そんな中で必殺技を放とうとしていた。
「唸れ業火よ。灼熱よ。我が拳に宿れ」
「「うわっ。恥ずっ」」
なにやら口上を言い始めたアーロイドの言葉に俺と薫の口から出た言葉は、一致した。 なんというか、中二病てきな感じだ。子供向けのアニメの主人公とか、漫画の主人公が必殺技を話す前になにやら語り始める感じのあれ。
アニメの声優や劇をしている人が語るならば、俺もどうも思わない。俺だって、そこで恥ずかしい。だとか、いい年してとかは言わない。
けれど、実際の死闘でそんな事を言い出せば恥ずかしい奴(もっと言えば、イタいやつ)と、言う印象しか出ない。
「あれは、魔法詠唱か」
「ああ。意味はあったのか」
意味が無くあんなことを言っていたら、本気で正気を疑っていた。いや、こんな町中で数十人の死者が出るような技を使おうとしている時点で、正気を疑うが……。それとは、違う正気を疑う。
だが、
「おい。フルーが今までそんな詠唱をしていたのを聞いた事が無いぞ」
「大丈夫です。
一定以上の魔法じゃないと、詠唱は破棄できるんです。
それに、私はドジをして噛む方が多いんで破棄しているほうが成功率が高いんです」
相変わらずのどじっ子スキルが足を引っ張っているな。
俺の突っ込みに対するいつもの大丈夫じゃない大丈夫です。に、呆れる中で、
「そ、そんな冗談じゃない。俺はまだ死にたくない」
と、逃げ出す奴ら。別に逃げようとするのを止める気は無い。
だが、
「一つ聞くが今、ぶん殴っても大丈夫か?」
基本的に、アニメやら劇ならばヒーローが名乗りを上げたりなにやら必殺技の準備……。なんとか戦隊とか何とか仮面とかは、高確率で必殺技に時間をかける。
なにやら仰々しい武器を手に出して、なにやら名乗りやら口上やらをあげる。子供の頃は、あれが格好いいと思っていたが、大人になれば冷静に思う。
うん。あの間に、攻撃しちゃだめなのかな? と、……。
そりゃ、まあ。あの必殺技の名乗りの最中に攻撃した場合、そりゃ卑怯というものである。ヒーローがすごい必殺技を放とうとしていて、その最中に敵が殴り飛ばしてヒーローが死んだら、まずクレームが出そうだ。もちろん、逆に敵がすごい技を出そうとしている最中に、攻撃しても同じだ。
だが、あいにくと現実ではそんなお約束を守ってやる理由は無い。けれど、フィリもシャルフも動かない。……まあ、お約束を律儀に守っているだけと言う可能性もあるが……。
「いや。あの技を放っている最中は、周囲に見えないが熱のバリアがある普通に近づけば、焼け死ぬぞ」
ああ、近づけない理由があるのね。
「魔力を蓄えるのに時間がかかる場合、詠唱を唱えるのは詠唱中にバリアがあるからだ。一定以下の場合は大した事のない魔法だから、バリアも大した事は無い。
だが、時間がかかればかかるほどバリアも強い」
「なるほど」
俺は頷くと、近くにあった木片を投げると木片はぶつかる前に発火して消し炭になった。おそらく、近づいても良くて全身、大やけど。下手すれば焼死体か……。
とは言え、だからといって何もしないのは嫌だ。
「フルー。あれをどうにか出来る魔法は」
「大丈夫です。成功した事はありませんけれど、知って居ます」
だから、それは大丈夫じゃないぞ。と、フルーの言葉に俺は頭痛を覚えた。
成功していない魔法を発動させたところで、一か八かの博打だ。これが、漫画やアニメの主人公ならば、主人公補正と言うご都合主義、あるいは大人の事情で成功するのだが、現実と言うのは残酷だ。
そんなご都合な事が起きるならば、まず呪われて異世界に転移すると言うような悲劇なのか喜劇なのか解らない状況に陥るわけがないのだ。
かといって、このままというわけにはいかない。フルーの呪いがどの程度の品かは解らない。たとえば、体を一瞬で塵にするような火力で焼けば復活は出来ない可能性はある。 なによりも、フルーの呪いは自分の身を守り自分に敵対する相手を殺す呪いだ。つまり、俺たちを……フルーの友人を守る呪いではない。
つまり、俺たちは高確率で死ぬのである。俺たちだけではなく、巻き添えを食らった村人たちまでもだ。別にあった事もない人間のために命を捨てるような上等な人間では無い。だが、だからといって見捨てて気分が良い。と、言うような外道ではない。
そう思っている中で、
「灼熱の太陽のように拳よ。赤く染まれ。
熱を持ち、全てを穿つ力を我が右手に」
と、中二病を煩ってないと恥ずかしくて言えないような口上を語り続けているアーロイド。だが、そろそろ口上……もとい、詠唱も終わりに近づいてきただろう。
「ど、畜生!」
俺はそう怒鳴るのと、
「いやだ。死にたくない」
と、俺のそばにいた門下生だが取り巻きだが……いや、違う。たしか、フィリの兄貴だ。泣きべそをしながらションベンを足り流しつつ(こう言う所は、兄妹だ)俺を突き飛ばしたのだ。アーロイドの方へ
「ちょっ!」
何をしやがる! と、怒鳴るよりも押されて俺はアーロイドに向かう。
灼熱の熱気が俺を感じる。だが、勢いは止まらない。
「この、バカ野郎!」
何に大してなのかは俺自身も良くわからないが、とにかく怒声を上げながら俺は目の前に居たアーロイドをとっさに背中にあったハリセンでひっぱいた。
なんで、ひっぱたいたのか? と、聞かれても困る。
おそらく混乱していたのだろう。
人間、混乱しているとわけのわからない行動を取ることがある。火事になって家からとっさに持ちだした物が財布でも預金通帳でも、金目の物でもなくマクラを持って逃げ出してしまう。そして、ただうろうろとしている人と言うのが居るだろう。
俺も混乱していて、とりあえず持っている武器? を、使おうと思ったのだろう。
と、そんな呑気な事を考える事が出来たのはだいぶ、後になってからだ。
俺は、ハリセンでアーロイドを思いっきりひっぱたいた。
「くらえ! 必殺! ごっ―――」
ごっ? なんだったのかは、謎だが俺のハリセンを思いっきり食らってアーロイドは舌を思いっきり噛んだ。
自殺の仕方に舌を噛む。と、言う事があるぐらい舌と言うのは人体の急所だ。
それを、思いっきり噛んで激痛と共に動きが止まる。それと、同時に俺はとっさにかかと落としを食らわせる。なんで、炎が無いのかは解らない。
解らないが、とにかく今はそれどころではない。
思いっきり、蹴り飛ばした瞬間にアーロイドは地面に倒れる。
「おりゃ、おりゃ。おりゃ」
と、俺はヤクザよろしく倒れたアーロイドを気絶するまで、延々と踏んだり蹴り飛ばしたりしたのだ。卑怯とは言わないで欲しい。たしかに、自分でもどうかと思う行動だったが、俺も恐怖で錯乱していたのだ。
ふと、気が付くと相手は気絶していた。微妙に血が流れているが、……命には別状が無さそうだ。……衛兵とかに言われたら、正当防衛を主張しよう。
そんな中で、こっそりと逃げようとする連中、
「ちょっと待て」
と、それを止めたのはフィリだ。
「な、なんのつもりだ? フィリ」
「なんのつもりだ? だと? 命を狙っておいて、トップが死んだら逃げ出す。情けない。
なんで、こんな流派を名乗れないことに劣等感を持っていたのか……。自分を恥じてすらいるよ。オレはな。
だが、お前らはどうやら恥じる心すらないようだ。いや、恥じる程度の自分を見る事もできない。どうやら、我々は自分を見ると言う事をおろそかにしていたようだな」
と、フィリは言う。どうやら、南東道場での特訓は良い結果を生んでいたらしい。まあ、武道と言うのは武術と言うよりも、礼儀作法の側面も大きい。
たとえば、弓道と言うのは実戦では使えないと言われて居る。礼儀作法が酷く、必要であり実際にやっていたら時間がかかって相手に射貫かれることもある。
剣道と言うのも型と言うか、規則や決まりがある。
ルールがあるというのは、ある意味では礼儀だ。己を律すると言う意味を持った武道。それは、自分と向き合うことなのだ。
と、偉そうに思って見るが実のところ、師匠からの受け入りである。
「黙れ。女風情が」
と、一人が言うと集団で襲い掛かろうとして、
「待て!」
と、言ったのはシャルフだ。
「話はさっぱりと解らないと言うか、最初から事情はさっぱりだが」
考えて見れば、こいつは事情も知らずに美人が居るからと言う理由だけでこちらの味方になったんだよな。助けて貰っておいてなんだが……こいつはひょっとしてバカなんじゃないんだろうか?
「どうやら、彼女は女性のようだ。
武道家を名乗って起きながら、多勢に一人を戦うとは……誇りがないのか?」
同感であるそりゃ、ゲームで立った一人で敵を倒していくゲームもあるが、あれはゲームだけだ。コンティニューも復活の呪文もないのならば、そんな無謀なことはしたくない。
そして、して欲しくないと言うのが本音だ。
「だから、こうしようじゃないか」
と、シャルフが言うのは一対一の勝負だった。魔力を使わない技術だけの勝負。
代表と言うのは、フィリの長兄……つまり、俺の足下で気絶してついでに縄で縛られて蓑虫状態になって居るバカの長男である。
年の頃は、二十代後半ぐらいだろうと、思っていたら丁度、二十歳だった。
老け顔と言う言葉が俺の脳裏に浮かんだが、それを必死で飲み込んだ。
ムカつく奴だが、老け顔呼ばわりだけは失礼だろう。
女を軽視するが、父親を人質に取られたことと高名なシャルフの口添えで技術勝負となった。まあ、技術とは正確に言えば魔力抜きのために腕力も者を言う。
そう言う意味では、おそらくフィリの長兄……名前をアーゲルドと言う自分が絶対に勝利できると思い込んでいる様子だった。
たいして、フィリには気負いはない。
短い間だったが、南東道場での修行がどう言うふうになったのか? わかりそうだ。と、俺が思っていると、
「ところで、僕の恋人にならないかい」
「助けてくれた事には感謝するが、断る」
シャルフの言葉に俺はそう即答した。




