第十話 心の強さから生まれる勝利 それは、めでたいがまだ解決はしていない
シャルフの前に立ちふさがるアーゲルド。
「なあ。あいつ、強いのか?」
と、俺は今さらながらの疑問を口にする。
「大丈夫です。
アーゲルドと言えば、私もあった事があります。
あの流派に向かったときに、私の頭の上に石を積めた花瓶を落とした方です」
「……えっと、お嬢さん。何が大丈夫なのかな?」
フルーの言葉にシェルフが一筋の汗を流す。
「いや、その……まあ、とにかく実力は知って居るのか?」
なにが大丈夫かなんて俺だって解らないが、聞いた所で解らない気がするので諦めてフルーに話の続きを促す。
あの流派は名が広がっているらしく、その後継者の最有力だけ合って実力は確からしい。さすがに最終奥義は使わない様子だが、その実力は確からしい。
たしかに筋肉もしっかりと着いているし、なによりも無駄のない筋肉だ。ボディービルダーみたいにただ体に筋肉をつけることだけを目的にしている無駄な筋肉ではない。身体能力を上げていく上でついた引き締まった筋肉。
体格だけならば、同じ格闘技をする者としてほれぼれとする憧れる体つきだ。ただし、精神面と言うか性格から実際には軽蔑の対象になる。
わかりやすく言えば、俺はあいつが嫌いである。
とは言え、普通に戦った場合は言ってはなんだが、フィリが負けるだろう。言ってしまえば、フィリは基本の技しかしらない。だが、あいつらは魔力を使った言ってしまえば本格的なものが解る。
……わかりやすく言えば、格闘技で通信教育を受けた人間と本格的な道場で通った人間ぐらいの差があるのだ。
もっと、わかりやすく言えばゲームで言うとただ普通の技しか使えない格闘家とMPを使って攻撃力を上げる特殊なスキルもちの格闘家が戦う。
プレイヤーの腕前によっぽどの差がない限り、勝敗は簡単だ。
だが、その条件と言うか大きなアドバンテージである魔力を使った技の使用を禁止している。……その技を使った場合は、本気で卑怯者と思う事にしよう。
そんな中で、開始と言う言葉が響く。俺は、余裕で見ている他の門下生やフィリの(一応)兄たちを見る。あいつらは、アーゲルドの勝利を疑っていない。
だからこそ、何もしていないが……負けそうになれば何をするか解らない。武道はスポーツと言う意味合いが強い俺たちの世界でも、八百長やら裏細工と言う言葉がある。まあ、どちらかと言えば漫画やアニメの中での出来事のほうが傾向が強いが……。
綺麗で潔白だけの世界ではないのだ。こいつらが、衝動的に何かしないのか? と、俺は警戒しながら相手を見る。
……何名かが俺と視線があって、頬を染めて目線をそらすのは……。あえて、考えないでおこう。不愉快なので……。
そう思っている中で、試合と言うか勝負が進む。
アーゲルドは……言ってしまえば、最初に出会った時のフィリと同じく力押しだった。おそらく、あの流派はとにかく力で攻めるスタイルなのだろう。対して、フィリはそれを流れる水や風のように避けている。
それに対してヤジを飛ばす連中が居るが、フィリの戦法は正しい。
女性が男と力と力でぶつかり合ったとしても、勝てる保証は無い。いや、まず勝てないだろう。そもそも、それで勝てるならばとっくに勘当されずにいたはずだ。
だからこそ、女性である優位性を考えて居る。女性と言うのは、基本的に体が柔らかい。俺も、女の肉体になってそれに驚いたものだ。
「見事な技ですね。美しい。
もちろん、あなたの美しさに比べると劣りますが」
「根本的に美しいの種類が違うだろうが!
ついでに、美しいと言われても嬉しくないね」
俺の顔を撫でるシャルフの手をはね飛ばして、俺は冷たく言う。
そもそも、武道の美と女性の美と言うのは違うと思う。つか、仮面で顔を一部だけ隠して居てハリセン背負った美少女は、美人と言うよりも変とか怪しいと言う言葉の方が似合うべきなのだ。
まあ、たしかに鏡で見た俺は自分でいうのもなんだが美人だった。とは言え、俺はそこで自分が美人と行って自惚れるほどナルシストでもない。
つーか、この外見は俺の外見ではないのだから……。
整形して美人になったようなものだし、整形したくてしたわけでもないのだ。
何より、肉体と精神の性別があっていないのが大きい。
そのため、俺としては容姿をどれだけ誉められても嬉しくないのだ。
とは言え、あの技術を美しいと評するあたりは評価に値する。……ただし、言うと有頂天になって調子に乗りそうなので言わないでおく。
しかし、フィリの技術は確かだ。この世界では魔力があるためか、体術の技に関しては俺たちの世界に比べると大きく劣る。だが、それを俺たちの世界で学んで来たのだ。
どうやら、それはフィリとあったのだろう。元々、魔法を教えて貰えなくても強くなろうとしていたために基礎の鍛練を延々と続けていたためだろう。
無駄のない最小限の動きで、相手の攻撃を避けて受け流す。柔軟な動き。体力を賞もさせない戦い方だ。対して、アーゲルドの戦いは力任せであり、無駄に体力を消費している。
「くそ。大きな事を言っておきながら、逃げる事しかできないのか」
と、息を切らしながら言う。
今までのフィリならその言葉に我を忘れて飛びかかっていただろう。だが、
「そのような挑発はもうきかない」
と、言うと同時に一気に懐に入り足払いをかける。
普段ならば、大丈夫だったかも知れないがあいにくと相手は体力を消耗させている。消耗した体力が酷く消費しており、足をもつれさせる。
その瞬間に後ろから行き、押し倒す。押し倒すと行っても体重を乗せて相手をうつぶせ状態にした事である。体重のかけ方を気をつければ、まず人間は背中に乗った人間から逃れられない。逃れるには、手を使う必要がある。だが、フィリはその腕を掴み後ろに上げて関節技を決めている。関節技と言うのは綺麗に決まればまず力業では抜け出すことが出来ない。
「そこまで!」
シャルフが俺の口説くのを止めて(余談だが、しつこくくどき続けていた)そう宣言する。……俺たちだと平等じゃないと言う理由で、こいつに任せていたが……。
どうやら、最低限の事はしていたらしい。
「この勝負! フィリの勝ち」
「ふざけるな! こんな卑怯なまねが勝利と認め」
「卑怯!? なにを言っている」
アーゲルドが立ち上がって言えば、シャルフが反論する。
「実戦でお前達は負けたら、相手を卑怯者と言うのか?
否、違う。それにルールを受け入れたのはお前達だ。
これ以上、見苦しいまねを美しい女性のまえでするな」
「……美しくない人の前だったら良いのか?」
シャルフの言葉に俺はツッコミを入れてしまう。そこに、
「それまでだ!」
と、言う声が響いた。
そこに居たのは、ラフェレアさんだった。
その周囲には衛兵が沢山いる。
衛兵の……鎧の中で豪華な人が宣言した事で周囲の空気が変わる。
そして、あっという間にフィリの父親とその一派を連れて行く。
「遅くなってごめんなさい」
と、ラフェレアさんが言う。
そこに、
「おや。あなたは、魔法教会のラフェレア=ヴェルドラ=エレメレア様ですね。
お初にお目にかかります。私、シャルフ=マニーロ=カスケイドと申します。
魔法女帝と呼ばれるあなたと、このような場所で会えるとは思いもよりませんでした」
と、シャルフが話しかける。
今回は気取った話し方ではない。いや、大仰なしゃべり方であるが、礼儀のあるまるで貴族のようなしゃべり方だ。つか、ラフェレアさんの名前ってそんな名前だったのか。つか、なんだ魔法女帝って……。と、言うツッコミが脳裏に広がる。
「なあ。なんだよ? 魔法女帝って……」
「知らなかったのか? ラフェレア様の異名だ。
魔道に長けたエルフの血を引いている事から、天賦の才能を持つラフェレア様は今では、全ての魔法使いたちの恩師でもある存在だ。そのために、魔法使いたちの女帝と呼ばれているのだ。言っておくが、そうそう会えるような人物ではない。
国王すら一目おく存在なんだぞ」
「すごいんだな」
だが、それで納得も出来た。ラフェレアさんはフルーに好意的だった。いや、フルーを殺すと言うのを反対していると言うほうだろう。もちろん、フルーが呪いの魔女王になれば、戦うだろうがそうならない方法を探している。
その意志を尊重している者達がいて、フルーは堂々と殺されずに済んでいるのだろう。
「こちらこそ、かの有名なカスケイド家の公爵家のご子息。
銀薔薇のシャルフと言えば、魔法使いにも名を馳せております。
この度は、彼女たちを助けて頂きありがとうございます」
「いえいえ。美しい女性を助けるのは紳士として当然の義務。なにより」
ラフェレアさんの言葉にシャルフはそう答えると、俺の手をとり、
「僕の恋人が危機に陥っているのです。
守るのが恋人の勤め」
「いつ、俺がお前の恋人になった!?」
どげし!
俺は瞬時に恩人を蹴り倒した。
つか、公爵って……あまり詳しくないが貴族の爵位だよな?
俺は貴族を蹴り飛ばしたらしい。
……そこは、深く考えないでおこう。
脳裏に不遜とか不敬とか言われて、手が後ろに回ることもあるが……。だからといって、身分がよければ女がいくらでもなびくと言うのは、間違いだと思う。
俺は一人一人の人権が認められて、身分平等の世の中で生きた現現代日本人なのだ。
事実、衛兵たちもスルーしてくれているのでどうやらたいそうな問題では無さそうだ。「それで……なにが、起きたのか……説明してくれますよね」
と、俺はラフェレアさんを見る。
相手が俺が思っていたよりも、地位の高い人物だったと言う事は驚きだが、いまさら態度を変えるのも失礼だと思う。公的な場ならば、ともかく普段どおりにしても問題がない場所ならば、態度を変えない。それになにより、どうしても聞きたい事があるのだ。
案内されたのは、魔法教会……ではなく、一目で高級店とわかるような立派なお店だ。ちなみに、シャルフは事情聴取などで別行動だ。
そこで、個室に案内される。店員も行儀が良く店のウエーターと言ってもゲームで言う冒険者を相手にする店員……。イメージとしては、酒場のおばちゃんやオッちゃんと言うイメージから外れた……どちらかと言うと、執事やメイドに近い。
断じてアキバ系の店に入ったら、
「お帰りなさいませ。ご主人様」
とか、言ってオムライスに謎の呪文を唱えながら絵を描いてくれるメイドさんではない。 影となり静かに身の回りを世話をすると言う人だ。ただし、料理を運ぶと言う事だけに特化している印象もある。
そこの個室……秘密裏に相手をするための印象を与える。そこで、紅茶……だろうお茶を出される。俺が茶を飲んでみれば、なんとも甘い香りが口の中に広がった。
一口で高級品だと根っから庶民のバカ舌でも解る。
「まずは、ヨシキにカオル。そして、フィリア。
あなた方三人に謝罪するわ。
これは、魔法使いたちの問題でもあるのに、無関係の……得に、ヨシキとカオリは只でさえ、呪いの形で迷惑をおかけしているのにさらに迷惑をおかけしました」
そう言って謝罪するラフェレアさん。
「実は、皆様方に隠して居た事があります。
実はフルーの母親は」
「その事なら、フルー当人から聞きました」
皆まで言わせず俺は言う。
なるほど……。その話をするために個室をしたのか。
ちなみにウエーターやウエイトレスも居ない。だが、どこに耳があるかは解らないので、知って居るならば知っていると伝えて、皆まで言わせないでおく。
「そうですか……。それで、助けてくれたのはお礼を言います」
と、俺の言葉に頭を下げる。
「とにかく、俺たちは納得しましたがフルーの親の事を極秘にしているのは正解だと思います。人と言うのはそう簡単に割り切れるものではありません。
得に俺たちの街には被害者が多すぎます。
一人の憎悪も恐ろしいものとなりますが、集団となりますとわずかな憎悪が狂気に変わります。その場合、フルーへと襲い掛かって……何が起きるか解りません」
「その口ぶりでは、フルーにある呪いの効果もみたのですね」
と、俺の言葉にラフェレアさんは言う。
「はい。幸運にも生きて居られましたが……何度も共にいて、生きて居られる保証はないでしょう」
「それなら、解りました。まず、謝罪をします。
私があの待ちにいて、目を光らせているならばまず大丈夫だと私は思っていました。
ですが、わざわざ街から外に出して行動するとは……。本来ならば、私も一緒に行くつもりでしたが、裏工作で私を別行動させたのです」
少しは怪しめよ。と、思ったが黙っておく。
聞いた所によると、呼んだのはフルーを殺さないと言う意見で一致している派閥……鳩派と呼ぼう。その中でも知り合いだったらしい。
だが、その人物もフルーを殺すべきだと言う過激な事を考えて居る一派……鷹派と呼ぼう。の裏工作だったらしい。
そして、その鷹派の中心人物の一人がフィリの父親だったと言う分けである。
「まあ、町中であのような技を使った以上、公的な罰を与える事になります。
それで、皆様はこれからどうするつもりですか?」
ラフェレアさんにそう言われて、俺は沈黙した。




