第十一話 とりあえず一息ついた……のは、良いがストーカーは迷惑だ。
「どう言う意味……ですか?」
と、最初に口を開いたのは薫だ。
「あなた方も理解した。フルーのそばにいると危険だと言う事をです」
「ま、たしかにな」
そのラフェレアさんの言葉に頷く。
「私個人としては、フルーを殺すと言うのは反対しています。
ですが、そう言う思想がある事。そして、それを止めきることが出来ない者達が沢山、居るのも事実なのです。その上に、フルーを狙っている存在はフルーを殺そうとしているこの者たちだけではありません」
「殺そうとしている者だけじゃないって、そりゃ、どう言う意味だ?」
ラフェレアさんの言葉に疑問を口にするのはフィリだ。
「……フルーが言って居たな。
呪いを統べる魔女王を崇めている連中が居るとな。
考えて見れば、俺が手に入れたこのハリセン。
……呪いを統べる魔女王が復活するためにも用意した呪いを唯一、破壊するための武器。
その武器を手に入れようとしている連中が居た。
それも、これを破壊するためにだ。
つまり、呪いを統べる魔女王が復活して欲しいと願っている存在がいるというわけだ」
簡単な答えである。
「その通りよ。ハリセンを手に入れようとした者達は、フルーの正体を気づいて居なかったようね。けれど、その派閥の中にはフルーを確保しようとしているものがいる。
呪いを統べる魔女王が復活するための道具としてね」
つまり、フルーは二つの派閥から狙われているのである。
一つは、世界の平和のためにフルーを殺そうとしている派閥。
もう一つは、何を思ってかまでは謎だが呪いを統べる魔女王の復活を願う者だ。
ただし、どちらにしてもフルーは幸せになれない。そして、前者の方は時にフルーを殺すために周囲を平気で犠牲にする。更に言えば、フルーが殺されかけた場合、周囲の人間に対する被害はただ事ではない。対して、呪いを統べる魔女王を復活させようと企んでいるほうもフルーには生きて居て欲しい。と、思っているだろうが生きて居れば大した問題は無いと思っている可能性が高い。ひょっとしたら、四肢を切り落としても呪いを統べる魔女王なら大丈夫。と、思っている可能性もあるし、大丈夫の可能性もある。
そして、呪いを統べる魔女王がフルーの周囲の人間の身の安全を考える。なんて、ことはもっと無いだろう。と、言う事は確実だ。
「つまり、フルーのそばに居る。と、言う事は身の危険があると言う事ですね。
まあ、そこまで解って居て俺たちが一緒に居ることを止めなかったのはどう言う理由ですか?」
「それに関しては、重々に悪いと思っている。あの街への出入りは厳しくしている。
フィリもその厳しい審査をくぐったのだ。
まあ、その内容は呪いを統べる魔女王に対する思想だけに重視していたが……」
「なら、フルーを街の外へと連れ出すのに怪しめよ」
「一般には知られていない。逆にそこで断れば、知らない人間に怪しまれる可能性が高まる。それに、断れなかったんだよ」
と、俺の言葉にラフェレアさんが反論する。
まあ、文句と言うか皮肉はこの程度で良いだろう。
「……まあ、文句はもう良いですけれど本題ですね。俺はフルーの相棒を止めるつもりはありませんよ」
と、俺はラフェレアさんに断言した。
「理由はいくつかあります。
まず一つ。俺は、フルーと一緒に行動をすると自分で決めました。
フルーが訳あり、と言う事もなにか事情がある。それは、内容までは解って無かったけれど、うすうすは解って居たことです。
まあ、それで俺たちに害があるなら話は別でしたけれど、フルーは俺たちの呪いを解こうと必死です。
次の理由ですが、おそらくですが呪いを統べる魔女を強制的にどうにかしようとしている存在。復活を望む存在も遅かれ速かれ、俺を狙うと俺は推測しています」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
俺の言葉に薫がストップをかける。
「なんで、フルーだけじゃなくて由紀まで狙われるのよ?」
「正確に言えば、ハリセンの持ち主が狙われるんだよ」
と、薫の質問に俺はけして離れないハリセンを見せて言う。
「呪いを統べる魔女王に対する切り札。
魔女王を復活させないことを望んでいる。
フルーを殺すのが困難だが、もしかしたらこのハリセンを使えばフルーを『殺す』事が楽になるかも知れない。と、考えるかも知れない」
まあ、ハリセンで人を殺すのは難しいだろうが……。
それを考えて、このハリセンを作ったと言うフルーの祖父はハリセンと言う形にしたのかもしれない。剣や銃(この世界に銃があるかどうかは謎だが)、弓矢にハンマー。そう言ったはっきりと、相手を殺す事も可能な武器ではない。
そんな品として作ったのかも知れない。
だとしたら、このデザインも多少は許す事が出来る。
……あくまでも多少だが……。
「で、このハリセンの所有者になりたい。
だが、今の所有者はこの俺だ。
では、どうするか?
一、俺を説得してフルーを殺すようにする。
二、俺を洗脳したりしてフルーを殺すようにする。
三、俺を殺してハリセンの新しい所有者になる」
その言葉に沈黙がまたもあたりを支配する。
「まず、第一の手段だが……。俺は嫌だね。
そもそも、この世界じゃどうだか知らないが、俺たちの世界の日本人と言うのは基本的に人殺しと言うのは忌避するもんなんだよ。そう言う社会と文化で育ったんでね。
だから、なにを言われても俺がフルーを殺す事はまずありえない。
で、第二の手段。これは、まあ……俺自身が気をつけるだけだ。だが、俺はこの世界の魔法や常識に対しては無知だ。なら、逆にフルーのようにその世界の魔法などに詳しい人間がいたほうが速い。
第三の俺を殺しては……まあ、気をつけるしかないな」
「けれど……フルーも狙われているなら余計に」
「逆に集まっていた方が楽さ。
ラフェレアさんが守ってくれる。
そう言う言葉を信じているならば、逆に護衛対象がバラバラに行動されるより、一緒に行動してくれた方が助かるだろうし、陽動なんかの心配もない。
万が一、罠だとしてもバラバラに行動されて各個撃破される方が厄介だ」
「で、次に呪いを統べる魔女王を復活を望んでいる連中。
逆にそいつらにしてみれば、フルーを殺したくなく捕獲したい。
逆に言えば、そいつらをおびき寄せる手かがりだ」
俺の言葉に今度はフィリが怪訝な顔をした。
「おびき寄せてどうする?」
「まず、呪いを統べる魔女王を復活させようとしている連中と言うのは、おそらく犯罪者。と、言うか正確に言えばカルト集団だろう」
「カルタ集団とはなんですか?」
俺の言葉にフルーが尋ねる。
「カルタじゃなくてカルトだ。
別にいろはカルタをしているだけなら、何もしねえよ」
フルーの言葉にツッコミを入れる。まあ、この世界にカルタがあるかどうかは解らないが……。ついでに、最近では正月にカルタをする人間と言うのも少ない。
百人一首なんぞ、言葉しかしらず百人一首をしろ。と、言われたら全力で無理だ。と、断言をする自信がある。
「カルト集団というのは、わかりやすく言えば狂信者たちだ。神様とか、教祖様とか……わかりやすく言えば、自分たちが信じて居る存在のために、命をも自分たちの意志で捨てて、他人をも殺すと言った犯罪を平気でやる集団の事を言う」
厳密に言えば、違うのかも知れないが基本的には間違っていないだろう。
「あなた達の世界にもそう言う存在が?」
「ああ。いるぜ」
と、俺は頷く。
宗教の主張と言うのは、古今東西、厄介な事この上無い。
日本では、多神教……それも、八百万と言うとりあえず沢山と言う考え肩をするので、神様と言うのは普通に認めた。だが、一神教……キリスト教などでは神様を唯一にして全知全能と考えて居たので、それ意外の神は神様を名乗る不届き者つまりは、悪魔。と、考えて戦争があったらしい。
まあ、現代ではそう言うのは表立ってない。とは言え、宗教と好みのスポーツとそのスポーツの贔屓のチームの話題は、騒動の種である。
とは言え、それより呪いを統べる魔女を信仰する集団は質が悪い。どちらかと言うと、エセ宗教家がお金などのために、時に他人を殺す。そんな相手に見える。
「なら、関わらない方が身のためだと思うぜ」
「嫌でも関わるならば、関わるしかないだろ。
それにだ。そいつらが呪いを統べる魔女王を信仰しているならば、そいつに対して知識があると言う事だ。
ひょっとしたら、正規の連中が知らないような事を知って居る可能性がある」
そもそも、フルーの事だって極秘のはずだ。
その極秘の知識があるのだから……。
「ひょっとしたら、このハリセンを使わなくても呪いを解呪する方法。
あるいは、呪いの魔女王をどうにかする手段なども知っている可能性がある。
それは、なくても百の呪いの種類を知って居る可能性がある」
「なるほど、その情報を利用して逆にこちらを有利にたとうと言うのですね。ですが、それはあなたに危険が迫りますよ」
「どうせ、呪いを解かないと俺が困るし沢山の人が現在進行形で困っている。それに、たとえ隠して居たとしても、人の口に戸は立てられない。
なら、覚悟をもって迎え撃つ。それに、俺はお姫様じゃないんだ。
必要なら戦うさ」
覚悟なんて出来ている。
その言葉に、
「解りました」
と、ラフェレアさんが言うと、
「では、カオルさんとフィリアさんはどうしますか?」
と、カオルとフィリに尋ねた。
結論として、フィリもカオルもフルーのそばから放れなかった。
二人とも、フルーや俺に恩やら借りがある。と、言って居た。
まあ、そもそも二人とも場合によってはその組織のブラックリスト(?)に入っている可能性が高い。まあ、そんなこんなでさしたる収穫も無いわけではなく、フィリの実家に対する因縁を絶ち斬り、前へと進めた。
余談であるが、フィリの実家はかなり廃れたそうだ。そりゃ、そうである。町中で周囲を巻きこむような技をトップが使ったのだ。
悪事千里を走ると言う格言の通り(諺だったかも知れない)悪い話しはあっという間に広まった。そして、有名だった道場や流派はあっという間に不人気となった。
「あまりにもあっけないものだな」
と、道場に居着いて一から自分の武術を作る。と、南北道場の正式な(?)居候となったフィリが複雑そうな表情で言う。まあ、フィリの気持ちもわかる。
今まで、自分を縛り付けがんじがらめにして重しとなっていた流派。栄華を誇っていたその流派がわずか数日で無名になったのだから……。
「信頼と言う石を積み重ね高い確固たるものを作るのは不可能に近い。なぜなら、積み重ねるのは困難であり、たとえどれほど高くしっかりと積み上げたとしても、少しの風で信頼は崩れてしまう。と、言う言葉がある」
「へえ。感慨深い言葉ね」
俺の言葉に薫がそう言えば、
「いや。今、俺が考えた言葉だ」
「随分と長い言葉を言うんですね」
俺の言葉にがっくりと疲れた表情をするフィリと薫とは対照的に、呆れたように言うフルー。
「良いことを教えてやる。なにか格言めいた事を言うときは、とりあえず長い台詞を言うと、なんとなく重厚で偉い言葉に聞こえるんだ」
「自分が考えた言葉だと言われると、急に軽くなるけれどね」
俺の言葉に薫がどこか呆れたように言う中で、
「ああ。大丈夫ですよ。私の麗しき薔薇姫。
あなたの言葉、その一言はまるで天上に住まう天使達の歌声。
あなたの話すその言葉の重さは女神の祝福を賜る言の葉。
あなたの言葉、ただそれだけで光輝く宝石よりも素晴らしく価値のあるものです」
「由紀兄貴。ああ、綺麗だ。ああ、素敵だ。
由紀兄貴の言葉はやっぱり魅力があって格言がある。ああ、ずっと一緒に聞いていたい」
「とりあえず、帰れ。ストーカー共」
鍛錬……型の動きをしている中で、窓に張り付いてみているバカ二人を見ずに俺は言う。
あの事件の弊害は、シャルフである。俺に惚れたと言って、ついて来たのである。シャルフはフルーの事情を聞かされてないが、俺とフルーは命を狙われている。と、聞いてならば、僕が守ってあげる。と、言うありがちな台詞をのたまった。そして、俺は断った。
だが、聞かずに自主的な護衛と言う名のストーカーと化している。そして、俺のストーカーが現れて、吉成までもストーカーとなった。
そして、
「ああ、吉成君を誑かす……目狐お義兄さんめ」
と、俺をにらみ付けて蛇の髪の毛をうごうごとうごめかすメデューサのような黒長さん。
……なに? このカオス? と、言いたくなるような状況だ。
しかも、そのストーカーの存在が誘発となったのか、誘爆と言うべきか……。最近になって告白が増えてきた。フルーによると、
「おそらく、恋をされると女性が美しくなる。と、言うのでしょう」
それを言うなら恋すると女は綺麗になる。だ。と、思ったがなにも言わない。とにかく、この調子だとストーカーが増えそうだ。と、俺はさすがに深々とため息をついた。




