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ブライスの自宅は、高級住宅地から少し離れて奥まった場所にある。
緑豊かな閑静な場所の石造りのこじんまりとした素敵な館だ。
ツタが壁を囲んで、いかにも高位貴族の魔術師が住まう高級感と静寂さと重厚感のある、美しい館で、貧乏子爵家のあちこちにガタの来ている屋敷が実家のソフィアは一瞬、胸が踊った。
(・・ちょっと散らかってるって・・先程ブライス様おっしゃったかしら)
だがギギギ、とブライスが玄関のドアを開けた直後から、そんなうっすらとした今後の暮らしへの昂揚感は木っ端微塵に砕かれた。
本、紙、何か壊れた瓶に、漏れ出したポーションが乾いた跡。
脱ぎ散らかした服に、うず高く積まれた本。
ブライスが案内してくれ館の中は、研究室と全く同じかそれ以上のすさまじい空間だったのだ。
(セバスチャンさんが言っていたのはこれの事もあるわよね、絶対)
ソフィアはセバスチャンとレイのなんとも気の毒そうな目線を思い出す。
「ここが居間で、奥がお風呂。お手洗いはその隣だよ。あ、そこにガラスの割れた瓶があるから踏まないように気をつけて。台所はその奥だ。君はコーヒー派? 紅茶派? 」
ブライスはどうやらソフィアに飲み物を入れてくれる様子だ。
だが埃の積もった台所は、ここ数年は少なくとも使われている気配はない。
ブライスはふう、と埃のつもったやかんを一吹きすると、水を一瞬で魔術で満たして、火を起こした。
ソフィアはその見事な魔術に感動しつつも、おずおずと言った。
「えっと、紅茶派です・・ブ、ブライス様、あの、メイドとか執事とか身の回りのお世話をする方はいらっしゃらないのですか」
「ああ、実家から押し付けられたメイドが何人かがいたんだけど、みんな辞めてもらった。連中がいるとやれ掃除だの整理だのでうるさくて、僕が求めている研究に没頭できる静かな生活をさせてくれないんだ。
それに一度僕が研究所に行っている間に勝手に部屋の掃除にはいられて、大切な研究を触られて台無しにされた事があったんだ」
ブライスは戸棚のあちこちを探して、あったあったと、紅茶の茶葉をみつけてソフィアに紅茶を入れて手渡してくれた。
そういえば魔術研究所でも勝手にブライスの研究室の書類の位置をうごかして掃除したメイドが即日解雇になった事をソフィアは思い出した。
そしてブライスは台所の椅子に腰掛けて言った。
「ソフィア、これからの生活の事はまた今度考えるとしてとりあえず食事にしよう。僕はもう腹が減って敵わない。ソフィアも夕食はまだだよね。好き嫌いは?」
どうやらソフィアの名前は覚えてくれたらしい。一つ進歩と考えて、ソフィアはため息をついて言った。
「ええ、私は好き嫌いはないですがけれど・・ブライス様、このお屋敷には料理人はいないのですよね、お食事はどうなさっているのですか」
「転移魔法で宮殿の台所から食事をここに運ぶように手配しているんだ。今日から2人分をお願いしているから、心配いらないよ」
そう言うと、ブライスは何やらブツブツと呪文を唱えて、白い指に青い光をまとわせて、空間に青い光で魔法陣を描いた。
次の瞬間、紙につつまれた加工肉の塊や生野菜、パンなどがブン、と青い光と共に魔法陣の向こうの空間からテーブルに届けられた。
「きゃああ!!!」
転移魔法は高位魔法の中でも最高位に属する。
さきほど王太子の部屋への人二人の転移魔法を展開したばかりだというのに、何事もなかったかのように物質転移の転移魔法を展開するブライスの底しれぬ魔術の力に、ソフィアの胸が熱くなる。
(この方は、やはり真の天才魔術師なんだわ)
「君の分もある。遠慮なく食べるといい」
そういってブライスはバサバサとテーブルの上に積まれていた本やら書類やらを適当に床に落として、そのままガツガツとパンを一斤そのままかぶりた。
ブライスのあまりの食事に目を丸くしたソフィアは言った。
「えっと・・今日はもうお腹いっぱいで・・ありがとうございます・・あの、ブライス様はいつもこんな食事なのでしょうか?」
「こんな? ああ、そうだね、僕は食事をしている時間があれば研究していたいから、早く食べられるものであればなんでもいいんだ。転移魔法で送る事ができる食事で、片手で食べられる様なものを適当に送ってもらうようにしている」
「あの、ブライス様、毎日それでは体を壊します。せめて料理人に通ってもらって、スープとかなにか温かい食事を摂らないと・・」
ブライスの健康もそうだが、こんな食事、主にソフィアのメンタルが壊れてしまう。
ソフィアは食事が一番の楽しみなタイプなのだ。
「うーん、そうだね。でも僕は人が僕の生活圏に入ってくるのが本当に苦手なんだよ」
そしてブライスは一頻り食べ終わると洗浄魔法の応用したものを展開して食べ残しや食べこぼしを一瞬できれいにすると、満足したのかまたにっこりと笑って、
「今日はもう遅いからもう寝よう。いろんな事は明日また考えよう。寝室はこっち」
そう言ってスタスタとソフィアの手を取って二階へ案内してくれた。




