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「えー!!お、王太子殿下それは困ります! 私にも仕事があります! 私からの仕送りが途絶えたら我が家は破産します!」
大人しく事のなりゆきを見ていたソフィアが思わず叫んだ。
「こ、これご令嬢、名乗りもせずに恐れ多くも王太子殿下になんという口を!」
王太子の執事のセバスチャンの声が飛んできた。確かに王太子に向かって許しもなく発言するなど、一般的には貴族の淑女の風上にも置けない野蛮な行為だ。だが、ソフィアは本当にそれどころではない。
「名乗らずに失礼しました! マーレ子爵令嬢、ソフィア・ド・マーレと申します!! 発言を!どうぞお許し下さい!」
だがいつになるか分からない解呪まで研究所の仕事を休むなど、マーレ貧乏子爵家が干上がってしまう。死活問題だ。
弟の学費の納入はあと数カ月後なのだ。
レイは手を挙げてセバスチャンを静かにするように合図すると、言った。
「マーレ子爵令嬢、発言を許す。だが今、我々は切羽詰まっている。どうしてもあの法案を立法させたいが、今の状況だとおそらく可決か否決かは五分五分の確率だ。
草案の立案者に正体不明の呪いがかかったなど、賛成派の貴族議員達の票にどのような影響をおよぼすか一つの憂いも残すわけには行かない。巻き添えを食った君には申し訳ないが、君には一時的に姿を隠してもらう」
「でも!! 法案が一体何かはしりませんが、私にとって子爵領への仕送りはもっと大切なんです!!」
なにせ己の進学を諦めて、それどころか貴族女性としての結婚適齢期を逃してでも仕事して必死で少ない給料を仕送りに宛てているほどに子爵領の財政は切羽詰まっているのだ。
ソフィア仕送りが止まれば弟は貴族学校への学費が捻出できず入学ができなくなる。
貴族学校で学ぶことができなかった貴族の子弟に、貴族としての未来など無い。
レイは少し考えて、だが決定事項として言った
「君には迷惑を掛けて申し訳ないが、しばらくは我々に協力してくれ。セバスチャン、マレー子爵令嬢の実家への仕送りが滞らないように、休業の保障と特別賞与も追加で彼女の口座に振り込んでおいてくれ。君が表に出てこれない間、子爵領に不便のないように手配する」
セバスチャンが言った。
「承知しましたレイ殿下。 魔術研究所にはブライス様に急な魔術解析の依頼があって、殿下の命で研究している、マーレ子爵令嬢はその関係で臨時でブライス様の個人秘書として私に採用された・・とでも言っておきましょう。では女子寮の寮長にも伝達しておきます。振込の口座についてですが・・」
のんびりとブライスが口をはさんだ。
「ああセバス、それがいい。隠遁先は目立たないように、王都の外れの僕の自宅にしておこう。郵便も食事と一緒に僕の自宅に転送する手配もお願いするよ。転送の前にセバスが一旦鑑定魔法で手紙を鑑定して、ちょっとまずそうなのは下処理しておいてよ。また爆発があると面倒だ」
「かしこまりました。では鑑定を終えたものから順にご自宅に転送しておきます」
ソフィアの頭の上でどうやら色々な事が次々と決定してゆく。ソフィアの意思などはお構いなしの様子だ。
(送金するお金は大丈夫そうね・・よかった・・? ちょっと待って・・・)
実家に今まで通りの送金が約束された事で少し心が落ち着いたが、次の大きな疑問が頭をもたげてくる。
ようやく少し気の毒そうにソフィアの方を向いたレイが、言った。
「マレー子爵令嬢、すまないがこの法案の立法化は私とブライスの悲願なんだ。悪いが立法化まで我々に付き合ってくれ」
「しばらくって、あの、い、いつ解呪されますか? あの・・私、それまではまさか、これからブライス様とぴったりくっついたままブライス様のご自宅で一緒に生活を送る羽目になってしまった・・という事でしょうか」
その言葉にレイもセバスチャンも答える事はなく明後日の方向を向いて、ただブライスだけが、
「ああ、そうだ、君の名前はソフィアだっけ? やっと思い出したよ。心配しないで、うちは広いから君が来ても大丈夫だよ! 君は紅茶にはミルクを入れる方? これから仲良くやっていこうね!」
とヘラヘラと笑った。
(やっぱり!!!)
ソフィアの目の前が真っ暗になってチカチカと星がでてくる。
ヒソヒソとレイとセバスチャンの二人が話している声が耳に届いてきた。
(あのド変人と24時間一緒なんて・・おいたわしい)
(気の毒に・・セバスチャン、せめてマーレ子爵令嬢への特別手当を・・手厚く・・な)




