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「へえ、この国も変わりそうだね」
「王太子殿下様の悲願だったものね、この法案の立法化。これは相当貴族院の反対にあったろうに、よくぞやりとげたよ。」
「この案の立法化には王太子殿下だけでなく、草案を立案された筆頭魔術師のブライス様が毒殺されそうになったほどの曰く付きの法案だからね。悲願がかなって本当によかった」
「それにしてもいい男だね、この魔術師様! まるで役者のように美しいね」
王都の広場では大々的に号外が配られていて、道行く人々は皆興味深そうに号外を読んでは思い思いの感想を話し合っていた。
号外はブライスと、王太子レイの作り上げた魔法法案が、貴族院の会議で可決されて、立法化された事が大々的に報道されていた。この法案の可決によって、この国では魔法の門戸が身分を問わず、全ての王国民に開かれたのだ。
これほどの画期的な政策の立法化は、大陸広しといえどもこの王国がはじめての事となる。
興奮気味に新聞の記者にこの国の未来の魔法学にについての夢を語るブライスの号外の姿絵は、いつものヘラヘラとした軽薄な笑顔ではなく、輝きと自信に満ちた筆頭魔術師としての美しい笑顔だった。
明日にはこの思い切った法案の立法化の件で、あちこちの海外からの使節が視察と意見交換にやってくるという。
ブライスとレイが多忙を極めている様子が記事から伺い知れる。
(おめでとう、ブライス様)
ソフィアはそっと手にした号外を折りたたむと、少しだけ泣いた。
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ソフィアはブライスとレイが窓を飛び降りたあの日からすぐに、ブライスの館から姿を消した。
ブライスには、一つ、まだ気がついていない事がある。
それはブライスを守る為にソフィアが身を投じた嘘のスキャンダルで、ソフィアが支払った代償だ。
高位貴族であるブライスとの恋愛スキャンダルの相手を演じた未婚女性であるソフィアは、この件で乙女としての名誉は地の底に落ちた。
例えブライスがスキャンダルは法案の成立の為の演技だったと声明をだしても、一旦貴族女性に傷ついた名誉が回復する事はない。スキャンダルの相手であるブライスと結婚する以外にソフィアの名誉が回復する事はない。
貴族社会とはそういう世界なのだ。
それでなくとも貧乏な実家にあと6年は仕送りしなくてはいけない身で、持参金なし、若さなし、その上乙女の名誉まで傷があるソフィアに、今後結婚を望む奇特な紳士が現れる可能性など、この件で完全に木っ端微塵に吹き飛んだ。
遠い実家にも、これからスキャンダルが伝わるだろう。
この件で相当の迷惑がかかるはずだ。
(夢ばかり見ているお父様もお母様も、どれだけ驚いて悲しむかしら。私の結婚の望みなんて最初からほとんどなかったけど、全く無くなってしまったというのは、それにしても辛いなあ)
ソフィアは全てを納得した上で、ブライスを守る事を自分で決めたが、心が痛む事に変わりはない。
ソフィアの隣を歩いてゆく仲の良さそうな親子連れの姿を見て、涙が少し滲んできた。
朴念仁だが心の優しいブライスの事だ。
ソフィアの犠に気がついたら、結婚したくもないソフィアとでも結婚をしようと、そう責任を取って言いだすだろう。
(僕に恋しないでね)
ヘラヘラと笑いながらそういうブライスの横顔がちらつく。
(私にはもう何もないけれど・・でも、好きな人に私と不本意な結婚をしていただくほど、私惨めではないわ)




