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「なるほど!!! この三層目は精霊による呪術だったんだ。まさか精霊を複数召喚して術を三層目に仕込むなんて、素晴らしいな」
「ああ、昨日神殿で王家の精霊と契約更新をしている最中に動いた魔力のゆらぎが、お前たちにかかっている呪いに似ていた事に気がついて、ようやく解明できた。精霊召喚士がまだ戦場で活躍していた頃の時代の遺物だ。なんとも感慨深いな。それにしてもいつの間にお前の研究室はこんなに綺麗になったんだ・・?」
扉を叩いていたのは、なんとこの国の王太子であるレイその人だった。
二人に掛かっていたしつこい呪いの正体が、ついに精霊術によるものだと判明して、馬車に飛び込んで駆けつけて来たらしい。
その後より発掘がすすんだ泉の古代遺跡は、どうやら今で言う所の結婚式場だったらしい。
壁一面にぐるりとほどこされていた魔術はすべて、二人のこれからを祝う魔術や、豊饒、子宝にめぐまれるようにという祈りがこめられたものだった。
ソフィアとブライスの間に発動していた呪いだとばかり思っていたそれは、呪いではなく祝福の精霊魔術。
婚礼の際にこの先二人が決して離れる事のないように、という太古の祝福の魔術だったのだ。
その魔法陣が、手紙の爆発の中に仕込まれていた攻撃魔法でうっすらと中途半端に発動した所に、防御魔法で対象者が決定して、その上発動した魔術がポーションによって効果が倍増され、魔法陣の途中の「絶対に離れない」という文言の部分だけがとんでもないレベルで発動してしまった、というの解析された今回の呪いのからくりらしい。
「ああ、これはソフィアが整理してくれたんだ。それにしても解呪の方法ばかり探っていたから上手く行かなかったんだ。まさかこれが精霊による婚礼の祝福だったとは・・」
「祝福も行き過ぎると呪いになるっていう、なんだか哲学みたいな話しだな」
ブライスの館の状態をよく知っているレイは、一般的な学者の研究室程度には整理整頓されたブライスの研究室を感心したように眺めていたが、気を取り直してレイは二人の間に発動している呪いを観察すると、空に魔術で紫色の弧を描いた。
そして王家由来の精霊魔法を発動させて、精霊に呪文で語りかける。
「精霊よ。王太子・レイの名に於いて太古の約束を今解除する。土は土に。風は風に、還れ」
レイの言葉に精霊が反応した。
青と黄色の光がブライスとソフィアの二人の間から発生して、光の中から数体の精霊がゴゴゴ、という大きな轟音と共にたちあがり、そして大きな風とともに旋回し、空に帰っていった。
この地の支配者である王家の血に連なる、王太子の名において、精霊との太古の契約を今解除したのだ。
「・・すごい」
ソフィアはポカンと精霊が戻っていった空を眺めていた。
王家はもともと、この地を支配する精霊と人間界の間をとりもつシャーマンの家系であったという。
王族の精霊魔法を間近に見る事ができて、魔術師を志していたソフィアの胸は感動で一杯になる。
そして、ブライスとの間に感じていた磁石にとらわれたのような不穏な力は、もう二人にまとわりついていない事に、ソフィアは気がついていた。
「マーレ子爵令嬢、少しテストをしてみよう。ブライスからゆっくり離れてみてくれないか」
「は、はい!」
前に本棚を壊す大きな事故になってしまった事を思い出して、少しソフィアの足がすくんだ。
「大丈夫だよソフィア、もし何かがあってもまた僕が君を抱きとめるから。約束するよ」
ソフィアはそう言ってヘラヘラと笑うブライスの目をみた。
ブライスの瞳は、とても優しいものだった。
ソフィアはうなずくと、少しずつ、一歩、また一歩と慎重にブライスの左手から離れて行った。
「どう? ソフィア? 何か感じる?」
「ブライス様、何も・・何もおこりません」
ソフィアはゆっくりと歩いてブライスから遠ざかって行き、ついには部屋の端の窓辺にまで辿りいた。
だが、ソフィアに怪我をさせたような強制力は何も働かない。
ソフィアはそのまま窓辺でじっとして、何事かが起こるのを待っていたが、窓の外ではちゅんちゅん、と小鳥の鳴き声がひびくだけで、何事もソフィアの身には起こる事はなかった。
「・・・やったか」
「やった!!!!」
「「「成功だ!!」」」
3人は抱き合って喜んで、解呪の成功を大いに喜んだ。
(これで・・やっと一人で御不浄にいけるわ!! お風呂も着替えも洗顔も・・一人でできるわ!!!)
感動にうちふるえてガッツポーズしているソフィアの隣で
「ブライス、解呪が成功した今なら草案の立案者として明日のお前の出席が叶う!!恋愛にうつつをぬかしていると油断していたお前が急に会議にあらわれたら、魔法理論武装の準備をしてきていない反対派の連中を一網打尽にできる! 今すぐに王宮にきてくれ!!」
「わかった!!!」
レイとブライスの二人はそう言って、ひらりと二階の研究室の窓から飛び降りると、ソフィアには一切振り返る事なく、馬車に飛び乗って風のようにブライスの館を後にした。
ソフィアは一人で、研究室に残された。




