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待ちかねていたニュースがやってきたのは突然だった。
ドンドンドン! と先日宰相が訪れた時の同じ勢いでブライスの館の扉が叩かれた。
「ありゃ。 また宰相様ですかねブライス様」
当初に比べると、もうすっかり綺麗に整えられた研究室で、新たな研究室の書籍の分類法をブライスと相談しながら試していたソフィアは、窓の方をちらりと見ながらそう言った。
この新しい方法であれば、ブライスのように、人より三倍は早く回る頭の回転にカスタムされた分類法になるはずだ。ソフィアが見つけた論文に書いていた、他国の分類学の権威の新しいメソッドだ。
「もし宰相だとしたらいい根性だ。魔術師の蜜月を邪魔する者は、馬に蹴られて死んでしまえということわざがある。あれほど宰相の前でいちゃついて見せた我々を、よくまた邪魔しようと思うものだ」
その言葉にソフィアの頬が火照るが、気をとりなおして右手を見つめると続けた。
「・・ついに明日が法案の会議なんですよね。会議までに呪いが解呪できたらよかったのですが」
「レイが上手くやるよ。立案者の僕が恋愛ボケになっているという設定は本当に都合がよかった。本来ならば立案者の僕が必ず出席しなければいけない会議への出席も、魔術師の恋煩いとの事で大目にみてもらえた。そうでもなければ僕は、君とつながっている腕を叩き切ってでも会議に出なければいけなかった」
あのブライスが、研究所の下働きの子爵令嬢と熱愛中だという噂は一気に王国を駆け巡った。
噂が回った方が、屋敷にこもりきりで宮殿にも研究所にも全く姿を見せようとしないブライスの近辺をさぐろうとする連中を煙に巻くのに好都合だし、法律の草案の立案者であるブライスが今、研究所にも出てこず恋愛にうつつを抜かしている状態であるという設定の方が、反対派の油断を招く。
万が一ブライスがソフィアと手がつながってしまっている所を誰かに目撃されても、ただの恋人同士の睦み合いに見えて、よもやブライスが解呪が非常に難しい呪いにかかっているなど、誰も疑わないだろう。
「君が宰相の前で、咄嗟に僕の恋人役を担ってくれたおかげで、外からの邪魔の心配が少なくなったよ。あれからも僕が書類に集中できるようになったのは、君のおかげだ。本当にありがとう」
「それは光栄です。ブライス様には解呪まではこのままの状態で耐えていただかないといけませんからね。でも本当は会議にご出席されたかったでしょうに、間に合わなくて残念でしたね。」
「確かに出席してこの法案の魔法学的な根拠を主張したかったけれど、僕は僕の能力が及ぶ限りで書類を準備したからもう後悔はない。 呪いに一緒にかかったてしまったのがソフィアで本当によかった! これがもし他の女性だったら、きっと僕はいまごろ責任を取って結婚しろだとか、実家に挨拶だとか、そういう話しになって書類の準備にに没頭なんて絶対にできないでいたよ」
そう嬉しそうに屈託なく笑うブライスに、ソフィアの心はなぜか、散り散りに裂けていくような痛みを覚えた。
「・・・ははは、そうですね。私であれば、そんな・・そんな心配はいらないですものね」
ドンドンドン、ドンドンドン
扉を叩く音は収まるどころかどんどんと強くなってくる。
そしてついに、しびれを切らせたらしい。
怒鳴り声が聞こえてきた
「ブライス! 私だ、あけろ! 解呪の方法がわかった!」




