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びゅん、と大きな音がして、呪いが発動してしまった。
見えない火花で発火しそうな勢いで睨み合っている宰相とブライスの間に飛び出してしまったソフィアは、ソファに座っているブライスの膝の上に勢いでのっかってしまったのだ。
「えーと・・ 」
一触即発とばかりに睨み合っていた二人の間に割って入った、ソフィアの登場というあまりに予想外の出来事に口をあんぐりさせている宰相と、すっかり呪いの事を失念していたらしい、驚きのあまり時が止まってしまっているブライスの2人の前で、ソフィアはこの場を収めなくてはいけない。
(さささ宰相様の前で、ブライス様のお膝に座るだなんて、私もう絶対お嫁にいけない・・もう、本当に顔から火が出るくらい恥ずかしい・・って、それどころではないわ、どうしよう、どうしよう、このままではブライス様の夢が私のせいで潰えてしまう、考えるのよソフィア、考えなさい・・)
ソフィアはブライスの膝の上で人生最速の高速で頭を回転させると、えい、と腹をくくった。
そして今までの人生で一番の勇気を奮って出して、しなしなとブライスに抱きついて、人生で一度も作った事のない史上最大の甘えた声で
「ブ・・ブライスさまああ、まだお話終わらないんですの? 私さみしくなってしまいました」
とかましたのだ。
ソフィアの脇から、滝のような汗がだらだらだ。
学生時代は魔術の勉強しかしてこなかったようなソフィアに、男相手にしなを作るような、酒場の女性のような技が備わっているわけがない。魔術バカだったソフィアには、そもそも異性との交際経験すらない。
ソフィアは、それでも恋で盲目になっているお色気バカ女のキャラクターを腹からうおおお!とひねり出してきて、このブライスの危機を、バカップルの可愛い恋人の役を死に物狂いで演じて救おうとしているのだ。
(ブライス様、本当に! 頼みますから乗っかって下さい!! 法案の成立が掛かっています!!)
普段は節度を持ってブライスに接する、ソフィアにあるまじきこの行動にブライスは相当びっくりしたのだろう。
ブライスは一瞬彫像のように固まっていたのだが、そこは王国で最も知能のすぐれていると称される男の事、ソフィアの捨て身の行動の意味を理解して、茶番に乗る事にしたらしい。
「・・ああ僕の可愛いソフィア、可愛い僕の子猫ちゃん。ごめんねさみしい顔をさせて」
そう言って宰相にみせつけるようにゆっくりとソフィアの頬を撫でて続けた。
「宰相、お恥ずかしながら僕は人生で一番の恋をしている最中なんです。愛おしい恋人と一刻でも離れていたくなくて、研究所に我儘を通してもらって、内密でしばらくここで二人っきりで過ごさせてもらっているんです。本当に正直言って邪魔しないでいただきたいなあ!!
宰相もご存知でしょう、高魔力の魔術師は滅多に恋におちないが、落ちたら地獄の底まで落ちるほどの激しい恋をすると・・ああ、それで、この僕の蜜月を邪魔してまで宰相は、法案の話しがしたいのでしたね」
そう言うと、今度は宰相に見せつけるように遠慮なくソフィアの頬に口づけした。
(ぎゃあああああ!! ブライス様やりすぎ!!! さ、宰相様の前でもう私、絶対にお嫁にいけない!!)
「ひゃい、えっと、ああ、そうだね」
今回の宰相の急なブライス訪問の目的は、手紙爆弾の後、研究所に一切顔をださなくなったブライスの様子を探りにきた事は明白だ。
そしてブライスの近辺のスキャンダルをさぐって、使える材料は全て使って法律の立案を回避する。
もしも目論見通りに爆弾で重傷をおっていたのであれば、それを材料に賛成派を脅迫できる。
他にも仕込んだ色々な罠のどれかにひっかかっていたのであれば、立案者の王太子の危機管理責任が問える。
だが宰相は、あまりに予想外のブライスの答えと、目の前でいちゃいちゃするバカップルにすっかりと毒気をやられてしまったらしい。
滅多に無いことだが、高魔力の魔術師が本気の恋に堕ちると、ズブズブの恋となる事は有名で、この王国では魔術師の蜜月とよばれている。有名な話しなので、宰相は何も疑う事はなかった。
宰相は予想が完全に明後日の方向にはずれてしまい、当初の勢いはすっかり削がれてしまって、
「・・ともかく、あの法案は王太子殿下の命とはいえ、立法化させるにはまだ時期尚早だ。えっと、お幸せに・・」
とすごんでは、だがすごすごと尻窄みに大人しく帰っていった。
高位魔術師の存在は非常に貴重な上、魔力が遺伝する関係で、子供が生まれにくい。
この所のブライスの家ごもりの理由が、滅多にない魔術師の恋わずらいだとしたら、例え宰相であれなんとなくお祝いモードになってしまうのは当然の事なのだ。
バカップルのフリをして、腕を絡ませたまま無事宰相をお送りした2人は、玄関の扉を閉めた瞬間その場に二人して、魂が抜けたように倒れ込んでしまった。
「ソフィア・・なんとかあのヘビのような宰相を切り抜けた。奇跡だ。君に感謝するよ。本当に・・助かったよ」
「いいいいいえいえいえ、御役に立てて光栄です、ハイ、ダイジョウブです」
ソフィアはまだブライスが先ほど口づけた、火の様に燃える頬の熱を感じて息も絶え絶えだ。
ズキズキと、もう無視できない胸の痛みに気がついたソフィアは、必死で自分に言い聞かせていた。
(だめよソフィア、絶対に、絶対にだめ)




