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(むさ苦しい所だと、そうブライス様もおっしゃったのに)
館の中にねじり入ったはいいものの、宰相もさすがブライスの館の中がここまでの酷い状態とは思っていなかったらしい。
あぜんと周りを見渡して眉をしかめた宰相は、ハンカチで神経質そうに鼻をつつんで、
「ああ、本当にこれは酷い状態だ・・一体何をどうしたらこんな、館の中騎馬隊が暴れていった後のような状態になるんだ・・こんな所に人が住んでいるなど信じられん・・おほん、だがまあ君はどうやら元気なようだね。 なんだか君はずっとカーテンが気になっているようだが・・」
非常に狡猾で聡い宰相の事、普段であればカーテンの前でもぞもぞしているブライスの行動を即座にあやしんで、なにか探りを入れるであろう宰相だが、あまりの館の汚さに度肝を抜かれていて、カーテンに突っ込んでくる事はなかった。何か汚い物でもカーテンの後ろに隠しているかと思ったのだろう。
「ええ。お陰様で元気ですよ。法律の草案を出してから、妙な脅迫付きの手紙はいつもよりよく来るようになりましたがね。この前なんて手紙に爆発物が入っていました。まともに食らっていたら間違いなく死んでましたね」
「ほう、それはずいぶん物騒だね。身の回りの事は気をつけていたほうがいい」
「そうですね、何時誰かから毒を盛られないとも限らない」
「そんな恨みを買うような事ばかりをしているようだね、君は。命が惜しければ人から愛される生き方をするべきだ」
「ははは、ご忠告痛み入ります」
2人の間の見えないバチバチとした火花を感じながら、だがソフィアはブライスの後ろの玄関の側のカーテンの裏で、脂汗をかいていた。
(とは言ったものの・・どうしよう、どうしよう・・)
今までの経験則でいうと、最大二分は2人の体を離しておける。
着替えの時にさっと袖から手を抜いたり、ちょっとサンドイッチのパンを利き手で切るには十分の時間だ。
だがその時間を超えたその瞬間に呪術は発動して、ものすごい強制力を発揮して二人の間をつなぐのだ。
いつの日だったか、ブライスが研究室で集中している時にソフィアが本棚の整理をしていた事がある。
研究を邪魔したくなかったソフィアは少し整理しては、またブライスの腕にもどって引っ付いて、また整理に赴いて・・を繰り返している間に整理に夢中になったソフィアに、強制力が発揮してしまったのだ。
「きゃあああああ!!」
「ソフィア、危ない!!」
結果、呪いが発動して真っ直ぐにブライスの元にソフィアが飛んだものだから、二人の間を遮っていた本棚にソフィアは体当たりしてバキバキにしてしまって、体中あちこちに打ち身と切り傷でひどい目にあった事があった。
ぶつかったのが木製の本棚だったからよかったものの、これが鉄製の本棚だったらソフィアはおそらく大怪我していただろう。
強制力はものすごく、柱を掴んだくらいではあらがう事はできない。
宰相はブライスとは長話をするつもりでやってきたらしい。
中に案内しないブライスを待つことなく、自分で勝手に客間に向かって、どっかりと本だらけのソファに座ってしまった。
売られた喧嘩は買うタイプらしいブライスも、ヘラヘラとした仮面をかぶりながらも、宰相の前にどっかりと座って、宰相の目を離そうとしない。
時間はどんどんと残酷にも過ぎてゆく。
ソフィアの体の毛がブライスの方向を向き始めた。もう少しで呪いが発動する。
これはまずい状況だ。
(まずいわ、ブライス様に妙な呪術が掛かっている事がこの宰相様に明らかになったら、ブライス様を陥れる材料にされてしまうわ!!)
だらだらとカーテンの後ろで脂汗をかいて事の成り行きを見守っていた哀れなソフィアの体は、ほどなくして呪いの強制力によってぐいん!と体がブライスの元にひっぱられたのだった。




