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ドンドンドン!!ドンドンドン!!
「あれ、ブライス様お客様かなんかですかね」
聞き慣れない音が、屋敷の玄関から聞こえてくる。
ソフィアがこの家に住むようになってから今まで一度も聞いたことのなかった音だ。
目の前の書類から目を離さずに、ブライスは言った。
「放っておけばいい。この家まで前触れなく訪ねてくるヤツなんて、ほぼロクでもない連中しかない」
ドンドンドン! ドンドンドン!
「借金取りかもしれませんよ。出たほうが良いです。実家に来る借金取りはいつもあんな感じのノックをしますよ」
「馬鹿をいえ、ソフィア。僕の生活は破綻しているけれど、僕自身は金持ちだ。いったい幾つの魔法特許を保持していると思っている。おそらく僕個人の財産はレイの個人財産に匹敵するか少し足りないくらいだ」
まるで他人事のようにそう言うブライスは、玄関の対応をする気は全くないらしい。
(借金取りでないなら一体だれかしら・・)
そう思って窓から外をちらりと見たソフィアは、真っ青になった。
屋敷の前に止まっている立派な馬車の家紋。
玄関の前にはシルクハットとステッキ、見事なヒゲにひょろと高い身長の紳士。
間違いない。
「ブブブブライス様、あ、あれは宰相閣下その人では・・」
外でガンガンとブライスの家の扉を叩いていたのは法案立法の反対派の最大派閥の長、宰相その人だ。
その単語を耳にしたブライスは、さすがにガタリ、と椅子から立ち上がった。
「くそ、一体なんでこんな時にこんな所に・・・会わないというわけにはいかないが・・」
そうブライスは口ごもると、ソフィアと引っ付いて離れてくれない己の左手をじっと見た。
宰相は、ブライスが決して弱みを見せてはいけない相手だ。
妙な呪術にかかってしまってソフィアとくっついているブライスの今の姿を宰相に見せたら、一体どんな事を理由に法律の立法化の流れから引き摺り下ろされるかわかったものではない。
「ブライス様、二分以内であればなんとか私、お側から離れられます」
ブライスの表情から全てを察したソフィアは、ブライスの目をしっかりと見ていった。
だがブライスはソフィアから顔をそらして言った。
「無理だ。二分以内で話しが終わる訳ない、あいつは狡猾でヘビのように聡い。そして僕はウソがつけないんだ、今まで何度アイツにやりこめられてきたか」
「ブライス様、私がなんとかしますから、ともかく玄関に行って下さい!」
ぐいぐいとソフィアはブライスの背中を押して玄関に連れて行くと、ブライスとつながった手のまま、玄関横のカーテンの後ろに隠れた。
宰相は公爵家の出身だ。ブライスよりも身分の上の公爵に無礼を働けば、ブライスですら実家にどのような影響を及ぼす結果になるのかは、想像に難くない。
覚悟を決めたブライスは、先程までの不安顔にいつものヘラヘラとした笑顔を貼り付けると、ガンガンと音を響かせる扉をガチャリ、と開いた。
「いやあ宰相閣下。どうされました、急にこんな所まで先触れもなく」
「いやああブライス、研究所の方に来ていないときいたものだからね、君の身になにかがあったのかと思ってね」
嫌な笑みを浮かべた宰相は、過去に起こったブライスの毒殺未遂の首謀と黙されている人物だ。
二人の間にバチバチと、見えない火花が散る。
おそらくは、悪質な手紙爆弾をブライス宛てに仕込んだのはこの宰相の配下のものだ。
手紙爆弾を受け取ってから研究所にでてこなくなったブライスの様子を探りに前触れもなくやってきた、という所だろう。
「ご心配おかけして申し訳ないです。僕はこの通り元気にしていますので! ではそろそろ研究に・・」
扉を閉めようとしたら、宰相が足をがし!と扉の間にはさんで、ジリジリと中に入り込もうとする。
「ブライス君、折角この私がこんな所まできたんだから、ちょっと積もる話しでもしようじゃないか。君の立案しようとしている法律についても、是非君から直接聞きたい事があるしね」
ブライスはぐぐぐ! と扉を押し戻しながら、
「う、嬉しいですが、こんなむさ苦しい所に宰相をお入れする訳には参りません、次回! 掃除がおわったらお招きしますので、今日の所はどうぞ! お引き取りを」
「冷たいなあブライス君。そうはいかないよ。最近研究所にきていないというし、君の母君も心配しているから様子を見にきたんだよ。じゃあ中に入らせてもらうよ」
そういって細い体をぎゅぎゅ!とねじり込ませて、宰相は館の中に入ってしまった。




