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(ああ・・僕はついにやってしまった!! 気をつけていたのに・・・)
外は真っ暗だ。ブライスが前に窓の外を見た時は、まだ朝日の光だったじゃずだ。
今日はどうやらブライスは研究に夢中になってしまい、朝から夜中まで、食事の休憩もなしに研究に打ち込んでしまった様子だ。
ブライスは辺りが真っ暗になってから、ようやく隣で本を突っ伏して寝ているソフィアに気がついて、飛び上がるほどびっくりした。
哀れソフィアはブライスに巻き込まれて一日中ただじっとブライスの横にいるしかなかったのだろう。
それでもブライスの研究に邪魔にならないように、健気に何も言わなかったのだ。
「ソフィア!! ねえ起きて。本当に悪かったよ。僕は研究に没頭すると、昼も夜も忘れてしまうんだ。・・お腹すいただろう、本当にごめん。僕はあまり気がきくタイプではないから、やりたい事があれば殴ってでも教えてほしい、できるだけ善処するから。本当にごめんよ」
自分の失態のせいで事故に巻き込んでしまって、ソフィアはブライスの隣から一切自由に動けないで、友人にも会えないし外歩きもできない状況だというのに、全くブライスときたらソフィアに本当にひどい扱いだ。
ーーー大変な迷惑をかけている自覚はある。できるだけ丁寧に扱いたいという思いもある。
すうすやと幸せそうに眠るソフィアの顔を眺めながら、ブライスは泣きたい気持ちになった。
(だが、今はそれどころではないんだ)
悲願だった魔法法案の立法化が目前に迫っている。
ブライスに今できる事は、全力で法案の立案の裏付けとなる資料の作成をする事。そして可決までは投票権のある貴族議員たちに、草案の立法者であるブライスのこの妙な呪いのかかった姿を晒さないで、ただじっとしている事。
(だからといって、ただ巻き込まれただけの被害者のソフィアには可哀想な事をしてばかりだ)
ソフィアは貴族令嬢だ。
ブライスの知っている貴族令嬢というのは、朝から何時間もかけて身支度を整えて、商人を呼んでお買い物をしたり、刺繍をしたり詩を書いたり。昼から何時間もかけてお茶の時間を楽しんで、夜はお芝居や舞踏会に赴くというものだ。
少なくともブライスの母は、そういう暮らしをしていた。
だというのにソフィアはブライスのせいで朝に髪もろくに結うこともできない。
申し訳なくなって魔術で結ってあげたら、こちらがドキリとするほど可愛い笑顔で、顔を真っ赤に紅潮させて喜んでくれた。
身支度など、おそらくブライスと同じ時間しかかけてやっていないだろう。地味なワンピースをさっと着るだけで、ソフィアが化粧をしている所も見たことはない。
お芝居につれていく時間もないが、ソフィアに連れて行ってくれといわれた事もない。
健気にブライスの仕事を理解して、状況を受け入れて、ブライスの邪魔にならないようにただじっと隣にいる。
(僕はなんて酷い人間なんだ。そんなソフィアが何も言わない事を良いことに、ついに今日は食事も満足にさせなかっただなんて)
ブライスは罪悪感で目の前が真っ暗になる。
芝居やお買い物どころか、今日はついに、食事すら満足に取らせてやらなかった。これでは牢獄に閉じ込められている方がまだマシな扱いではないか。
だが何度か揺り起こして、やっと目を覚ましたソフィアはこういった。
「あ、ブライス様、おはようございます・・ふわあああ、別に大丈夫ですよ、私ずっと読みたかった研究書がこの部屋に山積みだったので、集中できて結構願ったりなので」
(・・えっと・・)
ソフィアが目覚めたら、今度こそついに愛想をつかされるか、グズグズと泣かれるか、怒鳴られるか、それともものすごく高い宝石を強請られるかとブライスは覚悟していた。
だが当のソフィアは令嬢らしからぬあくびをすると、今日はそういうわけで夕食はサンドイッチでいいですね、と顔についたよだれの跡を拭うと、さっさとサンドイッチを作ってくれた。




