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「ソフィアへ。元気にすごしているか。食事は毎日食べているか。お前が送ってくれたお金で洪水で落ちた橋がようやく再建できた。これで物流が半分は回復してくれると信じている」
セバスチャンにお願いしていた荷物が今朝ようやくブライスの館のソフィアの元に届いた。
細々とした身の回りの物で不便していたので、とても助かる。
荷物の中には寮に届いていた、子爵領の父からの手紙も入っていた。
ソフィアはもちろん家族に今のソフィアの状況を伝えていない。
伝えた所でどうしようもないし、ブライスとレイの立案した法案の立法化までは、迷惑がかからないように誰にもこの状況は言えずにいる。
職場の友人たちにも、ブライスに急な機密の仕事が入って、身の回りの世話を任せられていると説明してあるし、恋人もいない。ソフィアの仕事はそもそも研究所の雑用係なので、特にその説明で問題はなかったとセバスチャンは伝えてくれた。
朝食を終えて研究に没頭しているブライスは、今難しい計算式にとりかかっている様子で、隣で座って手紙を読んでいるソフィアの様子は全く目に入っていない様子だ。
ソフィアは静かに手紙を読み進めていった。
(やっと復興が進んだのね)
「お前の頑張りのおかげで、後もう少しでトビーの貴族学校の入学金が収められるよ。入学金を収め終えたら一安心だ。お前には苦労をかけるが、あと6年、トビーが学校を卒業するまでは仕送りを頑張ってほしい。それまでになんとかして子爵領の経営を立て直す」
あと6年。
ソフィアはため息をついた。
宮廷魔術師の夢を諦めた上に、これから6年間もソフィアには仕送りが待っている。
仕送りが終わったその頃にはもうソフィアの結婚適齢期はとうに超えているし、弟のトビーの学費はなんとかソフィアが仕送りをするものの、教科書や制服、他出費がかさむのが貴族学校というものだ。
ソフィアが仕送りを続けなくてはいけない6年の間で、父が、ソフィアの為の結婚支度金をコツコツ用意などできるはずがないだろう。
手紙は続いた。
「いつも早くいいお嫁さんになりたいと言っていたお前に苦労をかけてすまない。トビーが卒業したら、次はお前に良い嫁ぎ先を見つけてやるから、頑張ってくれ。お前のように心優しい子が結婚相手を探しているとなると、大行列が発生するぞ!」
(もう学校を卒業して3年も働いて、ここからあと6年か。全部の支払いがおわるころには私は27歳になっているわね。27歳の持参金なしの貧乏子爵令嬢と結婚してくれる人なんて、そう簡単に見つかるわけないわ)
見通しの甘さから、子爵領の経営を投資の失敗でめちゃくちゃにしてしまった父の言う事は、いつも夢物語のようだ。父は人柄はいいのだが、現実からすぐ目をそらして理想ばかりに逃げる。
若い頃は詩人になりたかったらしい。
(私に奇跡的にお相手が見つかったとしても、現実的に考えて、誰か髪が薄くてお腹が出ている、20歳以上年上の方の後妻ってとこが関の山ね。きっと私と同年代位の連れ子がいるだろうけど、仲良くできるかしら。せめて優しい人だといいけれど)
強い結婚願望があるものの、父母よりはよほど現実的に己の未来を見据えているソフィアは、そっとため息をつきながら手紙を閉じると、己の左隣で書類に没頭している、若く美しい男の顔を見た。
(何時見てもうっとりとするほど美しい横顔だわ。まるで銀でできた彫刻のよう)
こんな若く、美しい男がソフィアの未来の夫になる可能性は無い。
己の夫になるであろう、年を重ねて髪もうすくなったであろう男の姿を想像して、ソフィアは再び大きなため息をついた。




