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朝食がおわってからしばらく。
一旦集中ゾーンに入ると、もう何も見えなくなるタイプらしいブライスは、もうそれから一言もソフィアと口を訊くこともなくただモクモクと目の前の書類に取り組んでいた。
その隣に座っているソフィアは、同じく一言も発する事なく、だが先ほどから赤い顔をしたり青い顔をしたりして、じっと脂汗を流して一人で戦っている。
(知ってるわよ。これは我慢でどうにもできるものじゃ無いこと。でも・・・)
そう。ソフィアが一人で戦っているのは、御不浄の問題だ。
昨日からこれまで、呪いが発動して強制的に引っ付いてしまう前の少ない時間を最大限に活用して、大急ぎで着替えの時は袖に手を通したり、顔を洗ったりと、なんとか2人でどうにかやってきたのだが、どうしても避けられない問題があった。
だがいつかやってくるであろうこの問題に、まだうら若き乙女であるソフィアは、向かいあう勇気もなかった。
仕事に集中しているブライスはそんなソフィアに気が付くわけもない。
コチコチと柱時計の秒針の音が憎い。
(もうダメ・・もう限界)
乙女の複雑な羞恥心と、このまま限界を超えて人としての尊厳が傷付けられるのとを天秤にかけたソフィアは、ついに重い口を開いた。
「ブ、ブライス様」
「ん? 何?」
涼しい顔をして書類から顔を上げる事もなく、ブライスは答えた。
「わ・・私・・ご・ご・・」
恥ずかしくて消え入りそうな声でソフィアはなんとか単語を口にしようとする
「何? はっきり言って。今忙しいんだ」
少しイライラした様子のブライスに、ソフィアはカチン、と頭にきた。
(そのくらい察してよ!!この朴念仁!!)
そして、怒りで恥ずかしさも忘れて大声でブライスに怒鳴った。
「私、ご・・御不浄に行きたいです!!!!!!!」
先ほどまで真剣に書類と向き合っていた美しい銀のユリのような顔が、驚いたようにゆっくりとソフィアの方にかたむけられて、ソフィアの方を向いてゆっくりと瞬きをした。
ソフィアはその美貌に泣きそうになってしまう。
(やだ・・何でこんな時だというのに、私はこんなに恥ずかしいのに、ブライス様はこんなに色気たっぷりキラキラのイケメンなのよ!! 私恥ずかしくて死にそうだわ)
そしてソフィアの言葉にやっと何を言っているのか、言葉を消化したブライスはヘラリと笑うと、
「ああ! ごめん、でも女の子がそんな大声で言わなくてもいいよ。そうだね、どうしようか、一緒に入る訳にも行かないしね」
そういってうーん!とその場でゆっくりと伸びをした。
(だれがそんな事を大声で言わせたと思っているのよ!!!)
「い、いいから!!! 早くきてください!」
ソフィアはときたら、もう膀胱が限界を超えていて、これ以上1秒も待てないのだ。
ソフィアは伸びをしているブライスの腕を乱暴に掴むと引っ張って、全速力でなんとかご不浄に駆け込んだはいいが、扉をしめようとしても、ブライスと腕がつながって、つっかえて閉められない。
(どうしよう・どうしよう・・!!!)
この歩く宝石のような美しい男の前で扉を開けたまま用を足すなど、死んでも無理だ。ソフィアはパニックだ。
(どうしよう・・・ええと・・しょうがない、どうとでもなれ!!)
ゴオオ!!!
危機に切羽詰まって焦りにあせった必死のソフィアは、その場で強力な雷の魔術を放って扉に拳大の大穴を開けて大声で怒鳴った。
「ブライス様は穴の向こうから手を出して!! 私の手とつながったらすぐに回れ右してください! 今すぐ!! 早く!! 」
「は・・ハイ!!」
バタン!!!!
あまりのソフィアの鬼気迫る迫力に怖気づいたブライスは、ただ言われたようにするしかない。
力技で扉に開けた穴から手をつなぐ事で、ようやく扉を閉める事ができたソフィアは、その場で遮音・消臭の空間魔法を展開して、なんとか人間としての尊厳は傷つけられずにすんだのだ。




