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翌朝。
(全く、眠れなかったわ・・)
痛む頭を抱えて、ちゅん、ちゅんという鳥の声に、ソフィアはなんとか無事に朝がきた事を知る。
なにせこの大嵐の後のような汚部屋の真ん中で、最高級のベッドで、銀の彫刻のように美しい男と手を繋いで同衾したのだ。
学生時代は勉強ばかりで、異性と一切お付き合いをした事のないソフィアは、異性耐性がゼロ。
だというのに初めてダンス以外で手を握った異性の相手が、これほどの宝石のごとく美しい男で、そして(もちろん何もなかったのではあるが)ソフィアは手をつないで同じベッドで眠っているのだ。
あの後ブライスが寝てからどうにかこうにか荷物から着替えを取り出して、ブライスに背中を見せて大急ぎで着替えたものの、いつブライスが目を覚ますかソフィアは気が気ではなかった。
なんとか頑張って広いベッドの一番端と端で寝るように距離をとってみるも、両手はつながってしまっているので両腕の距離くらいしか二人の間は明かない。
(夫以外の男性の前で着替えて、同じベッドで眠るなんて・・ああ、泣きたい・・私もうお嫁にいけないわ・・)
借金だらけの貧乏子爵家のソフィアに嫁ぎ先などこれからも無いだろうから、そんないらない心配はしなくてもよいのだが、それとこれとは話しが別。
男性に不慣れな乙女のソフィア、この状況は心臓に悪いどころかもう緊張で一ミリも動けなかったのだが、その緊張とはまた別に、部屋をぐるりと見渡すとあちこちにえげつない魔術がほどこしてある本や書きかけの魔法陣、得体のしれない魔道具がごろごろとしている部屋で眠る羽目になって、これまた別の理由で生きた心地がしない。
「ふわー、ああもう朝か、やっぱりベッドで寝るとよく眠れるんだな」
「オハヨウゴザイマス・・・」
不安と緊張と羞恥のギンギンの目で一睡もできないで朝を迎えたソフィアとは違って、お隣の美しいかんばせの魔術師様は実によく眠れた様子で朝からご機嫌の様子だ。
(いっそ憎たらしいわ。こっちがこれほど緊張した夜だったのに、よく眠れたなんて・・私を女性として全く認識していないからというのは知っているけれど・・それにしてもブライス様は眠そうな顔も色っぽいわね、朝から色気ダダ漏れなんて、なんて眼福なのかしら。本当にこれで少しでも性格がマトモであれば、どれほど女性に人気になるかしら)
ソフィアの心に去来するものなど何も知らないブライスは、うーん、と伸びをすると、
「おはようソフィア、よく眠れた? ちょっと仕事が溜まってるから、着替えが終わったら悪いけどすぐ研究室につきあってくれ。朝食は研究室で仕事しながら摂る」
そう言って、ブライスはまた昨夜と同じように元気にポイポイ!と寝間着を脱いで、ソフィアの眼の前で服を着替え始めた。
「ぎゃああ!! だから!! ブライス様!!」
嫁入り前の娘とは思えないような、カエルを踏みつけたような声でソフィアは叫んだ。
「おっと、そうだった。君は女の子だった。ごめんごめん」
そうおざなりにブライスは謝ると、ほんの申し訳程度に後ろを向いて、また遠慮なく下着姿だ。
(駄目だわ、ブライス様に、一般的な常識を求めるなんて無理だった・・ここは私が工夫しないと毎朝朝からブライス様のストリップショーを見る羽目になってしまう・・それにしてもブライス様って色白で体は細身だけれど、結構立派な筋肉があるのね・・かっこいい・・じゃなくて!!! 首元にほくろ・・じゃない!! もう、これじゃ私まるで痴女じゃない!!! 何かいい方法・・そうだ)
脂汗のソフィアは部屋中を見渡して、部屋のはじっこに立てかけられてあった、魔術の実験の際に障壁として利用したらしい魔術の入った衝立をずるずると引きずってきて大声で宣言した。
「ブライス様!!! お互いこの状況の中、一緒に生活しなくてはいけないのです。まず最低限の生活のルールの取り決めをしましょう! とりあえずこれから着替えをする時はこの衝立の向こうから手だけだして着替えをして下さい!! それ以外の場所では服を脱がない!! いいですね」
そう言うと、ドン!と下着姿のブライスの目の前に衝立を立てた。
えー、と頭をぼりぼりと掻きながらブライスは言った。
「ソフィア、それは面倒くさいよ。僕は君が僕の着替えを見ていても別に気にしないよ・・」
ソフィアは半泣きで叫んだ。
「ブライス様が気にならなくても、至近距離でブライス様に裸になられたら私が気になるんです! それからブライス様、私もブライス様の前で着替える必要があるんです。これから毎日私の着替えを覗くおつもりですか?」
そこでようやくブライスは、うら若き女性であるソフィアもブライスの前で着替えをしなくてはいけない事に思い至ったらしい。
プシュッと急に赤い顔をして、
「わ、わかった」
それだけ言って大急ぎで衝立のすきまからソフィアとつながったままの手を出し、後ろ向きで着替えを済ませると、
「む、向こうを向いているから君も着替えるといいよ」
といって耳まで真っ赤になったまま後ろをむいてくれて、本当にようやくソフィアは無事着替えを済ませる事ができたのだ。
この無駄に美しい変人は、どうやらウブなところがある様子。
衝立の向こうでつながっている手が少し熱くなっているのを感じながら着替えて、ソフィアは心の中でつぶやいた。
(悪い人ではないのよね、ブライス様。でもこれから一体どういう生活になるんだろう・・王太子殿下、早く解呪して・・)




