表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見えない彼女と、見えてない俺  作者: ニィギンヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

見えない何かと、見えている勘違い

 人間というのは、不思議なものである。



 一度「違和感」に気づいてしまうと、



 それ以降、すべてが“そう見えてしまう”。



 例えば。



 昨日の出来事。



 綾瀬が、何もない空間に向かって優しく話しかけていた件。



 あれを見てしまった俺は。



 今日という一日を、完全に台無しにされている。



 精神的な意味で。



 まず朝。



 教室に入る。



 綾瀬はいつも通り、窓際にいる。



 問題はここからだ。



 視線が気になる。



 何がって?



 綾瀬の視線である。



 正確に言うと、



 “俺ではないどこか”を見ている視線である。



 これが非常に気になる。



 気になるが、聞けない。



 聞いたら終わる気がするからだ。



 主に俺の社会的な立ち位置が。



「おはよ」



 一応、声をかける。



「……おはよう」



 返ってきた。



 珍しい。



 いや、珍しすぎる。



 挨拶が返ってくるというのは、それだけで事件である。



 これはもう、



 ニュースにしてもいいレベルだ。



 ただし誰も興味を持たない。



 悲しい現実である。



「今日、機嫌いいな」



 軽く言ってみる。



「普通」



 即答。



 知ってた。



 だが。



 問題はそこじゃない。



 その瞬間。



 綾瀬が、ほんの少しだけ——



 視線を俺の横にずらした。



 俺の横。



 つまり。



 何もない空間。



 いや、正確には。



 “俺には何も見えていない空間”である。



 ここで一つ、仮説を立てよう。



 綾瀬は、



 何かが見えている。



 そしてそれは。



 おそらく。



 俺には見えない。



 ここまではいい。



 問題は次だ。



 その“何か”は、



 果たして安全なのか?



 ということである。



 この時点で俺は、



 かなり余計な心配をしている。



 だが、それに気づくのはもう少し後の話だ。



 その時。



「ねえ」



 綾瀬が言った。



「今日、放課後」



 俺を見る。



 いや、正確には。



 俺と、その横を見ている。



「時間ある?」



 これは。



 事件である。



 先ほどの挨拶どころではない。



 緊急速報レベルである。



「……あるけど」



 返事が一瞬遅れたのは仕方ない。



 人間、想定外の事態には弱い。



「じゃあ、一緒に来て」



 短い。



 相変わらず短い。



 だが内容は濃い。



 非常に濃い。



 要約すると。



 放課後デート(仮)である。



 括弧が重要だ。



 なぜなら確定ではないからだ。



 というか、たぶん違う。



 だが。



 俺の脳は、都合よく解釈するようにできている。



 人間だから仕方ない。



「どこ行くんだ?」



 一応聞く。



「いつものとこ」



 知らない。



 全く知らない。



 “いつもの”という単語を、ここまで信用できないと思ったのは初めてである。



「……分かった」



 とりあえず了承する。



 断る理由もないし、



 何より。



 気になるからだ。



 非常に。



 この時点で俺は、



 完全に罠にかかっている。



 誰の罠かは分からない。



 だが、確実に何かに引き寄せられている。



 そして放課後。



 俺は、綾瀬の後をついて歩いていた。



 無言で。



 ひたすら無言で。



 気まずいとかそういう問題ではない。



 これはもう、



 仕様である。



 やがて辿り着いたのは。



 昨日と同じ、公園。



 人はいない。



 静かだ。



 そして。



 綾瀬は、ベンチの前で止まる。



 昨日と同じ場所。



 同じ位置。



 嫌な予感しかしない。



 むしろ良い予感が一つもない。



「……来たよ」



 綾瀬が言う。



 誰に?



 という疑問は、もはや野暮である。



 答えは決まっている。



 “何か”に、だ。



 そして。



 綾瀬は、俺を見る。



 いや。



 俺“と、その横”を見る。



「この人」



 短く言う。



 紹介している。



 誰に?



 考えるな。



 考えたら負けだ。



「……いい人だから」



 フォローされた。



 誰に対して?



 知らない。



 だが。



 評価されているのは確かである。



 これは喜ぶべきなのか、恐れるべきなのか。



 判断に困る。



 その時。



 風が吹いた。



 強くはない。



 でも。



 確かに。



 “何かが動いた”気がした。



 もちろん。



 見えない。



 何も。



 だが。



 綾瀬の表情が、変わる。



 柔らかく。



 優しく。



 まるで——



 大切な存在を見るように。



 そして。



 次の瞬間。



 綾瀬が言った。



「……触ってもいいよ」



 誰に?



 もういい。



 分かっている。



 俺には見えない何かに、だ。



 そして。



 その“何か”は。



 こちらに近づいてきている気がした。



 非常にまずい。



 直感がそう言っている。



 だが。



 逃げるわけにはいかない。



 なぜなら。



 ここで逃げたら、



 一生気になるからだ。



 人間は、未知よりも後悔の方が怖い。



 たぶん。



「……あのさ」



 俺は言う。



 覚悟を決めて。



「それ、何なんだ?」



 聞いてしまった。



 ついに。



 やってはいけない質問を。



 綾瀬が、こちらを見る。



 少しだけ、驚いた顔。



 それから。



 いつも通りの無表情に戻る。



 そして。



「……見えないの?」



 静かに言った。



 この瞬間。



 俺は確信する。



 これは。



 想像以上に面倒な話に巻き込まれている。



 そして同時に——



 とんでもない勘違いをしている可能性にも、まだ気づいていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ