第83話 事情聴取
地下施設から連れ出された後。
終司とラルスは、そのまま学院警備部の管理区画へ移送されていた。
学術祭の賑わいとは対照的に、管理棟の内部は静まり返っている。
白い壁に無機質な照明。
足音だけがやけに響いた。
「ったくよ」
隣を歩くラルスが不機嫌そうに頭を掻く。
「助けた側が事情聴取とか意味分かんねぇぞ」
「諦めろ」
終司は短く返した。
「地下施設が半壊してるんだ。何も聞かない方がおかしい」
「半壊させたのはあの野郎だろ」
「お前もやってただろ」
「細けぇことはいいんだよ」
ラルスが鼻を鳴らす。
だが、その態度とは裏腹に警戒はしているらしい。
歩きながら周囲へ視線を向けていた。
やがて案内された部屋へ入る。
広くも狭くもない会議室。
長机に向かい合う椅子。
その奥には学院職員と思われる男達が数名座っていた。
全員知らない顔だ。
少なくとも教師ではない。
「ご協力感謝します」
中央の男が口を開く。
柔らかい口調。
だが、目は笑っていなかった。
「まず確認したいのですが、地下施設へ侵入した理由を教えてください」
「侵入ではありません」
終司は即答する。
「調査です」
「何の調査でしょうか」
「学術祭に乗じてクエトが襲撃される危険があると情報を得たので、その調査を」
男達が顔を見合わせる。
「どこからその情報を?」
「外部協力者とだけ」
終司はそれ以上は言わない。
「その協力者の名前は?」
「守秘義務がありますので、申し上げることは出来ません」
「……そうですか」
空気が少しだけ重くなる。
ラルスが横で吹き出した。
「ははっ、簡単に言うと思うんじゃねぇよ」
「あなたは静かにしていてください」
「俺に指図すんじゃねぇよ」
職員の額に青筋が浮かぶ。
終司は黙って様子を見る。
質問内容がおかしい。
聞くべきことはいくらでもある。
だが連中はそれに全く触れない。
まるで別の話へ誘導したがっているようだった。
「では質問を変えます」
職員が資料を開く。
「地下施設で発生した戦闘について説明してください」
「部屋に入ると、突然背後に黒衣の男が現れました」
「それが襲撃者、ですか?」
「はい」
「特徴は?」
「黒衣に仮面をつけて素性を隠していました。そして、魔法使いではありませんでした」
男達の動きが僅かに止まる。
終司は見逃さなかった。
「異常な身体能力を持っていました。クエト祭司が言うには、彼は魔女狩りだと」
沈黙が数秒続く。
「祭司の証言ですか」
「彼はそう言っていました」
再び沈黙。
職員達はメモを取る。
だが、やはり何かがおかしい。
終司は違和感を覚えていた。
「なぁ」
ラルスが突然口を開いた。
「クエトはどうした?」
「現在保護していますよ」
「あいつから直接話を聞かねぇのか?」
「必要な手続きがありますので」
「ふざけんな」
ラルスの声が低くなる。
「今一番事情知ってんのはあいつだろうが」
「後日確認します」
「後日?」
ラルスが笑う。
だが目は笑っていない。
「今日襲われたばっかなんだぞ」
「危険性を考慮しています」
「だから話を聞けって言ってんだよ」
机を叩こうとして。
終司が軽く手で制した。
「落ち着け」
「あ?」
「無駄だ」
終司は職員達を見る。
「……学院長に話を通してもらえますか?」
部屋の空気が変わる。
「学院長、ですか。学院長は現在お忙しく――」
「これ以上は、学院長を通して話をさせてもらいたい」
終司は遮った。
確信が強まる。
何かを隠している。
しかも、相当大きな何かをだ。
隣でラルスが舌打ちした。
「ちっ、おい終司」
「なんだ?」
「これ、俺らが疑われてんのか?」
「そうみたいだな」
「意味分かんねぇ」
ラルスは椅子へ深く座る。
「襲撃者をぶっ飛ばしてやったのは俺らなんだけどなぁ?」
「それを証明出来ないからな」
「クエトに聞けよ。もしくは、監視カメラの映像とかあんだろうが」
「確認する気がない……いや、する必要がないんだろ」
終司の言葉に、職員の一人が僅かに眉を動かした。
やはりおかしい。
地下施設で起きたことを調べたいなら、まずクエトへ聞くはずだ。
だがそれを避けている。
理由は一つ。
聞けないからだ。
あるいは――聞かれたくないから。
終司は静かに息を吐く。
嫌な予感がしていた。
これまでの事件が、全部が一本の線で繋がり始めている。
その時だった。
不意に、背後で小さな音がした。
終司は反射的に振り返ろうとする。
だが、遅かった。
後頭部へ衝撃。
凄まじい一撃だった。
「――ッ!?」
視界が揺れる。
椅子ごと身体が傾いた。
ラルスの怒鳴り声が聞こえた気がした。
何だ。
誰だ。
そう思った時にはもう遅い。
意識が急速に沈んでいく。
遠ざかる視界に霞む音。
白い天井だけがぼんやり見えた。
学院側は何かを隠している。
そして、どうやら自分達は知り過ぎたらしい。
次の瞬間。
終司の意識は完全な闇へ沈んだ。




