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第73話 教祖の死

 フィールドでは次の試合が始まっていた。


 巨大な第三訓練場全体が熱狂に包まれている。


 観客たちは歓声を上げ、上空の投影魔法へ視線を向ける。


 だが、その喧騒とは裏腹に。


 終司たちの周囲だけは妙に静かだった。


「……それで?」


 終司はフィールドを見たまま口を開く。


「冴鳴に伝言を頼むわけでもなく、わざわざ直接言いに来た理由はそれだけじゃないんだろ?」


「もちろん」


 ワルクスは小さく笑った。


 白スーツの青年は軽く周囲へ視線を流す。


 誰もこちらを気にしていない。


 観客たちの意識は完全に試合へ向いていた。


「この学院では、外部との連絡を止められているだろう?」


 終司は頷く。


 学院内では通信は大幅に制限されている。


 外部への情報流出を防ぐためだ。


 特に今回は政府関係者も多い。


 警備体制は通常以上に厳重になっている。


「君は特例みたいだけどね」


 ワルクスが言う。


「冴鳴くんとの通信だけは許可されてるんだろう?」


「ああ。夕緋さんの捜索の件で学院長から特別に許可されてる」


「とはいえ、通信は通信だ」


 ワルクスの声が少し低くなる。


「盗聴される可能性はゼロじゃない」


「だから直接伝えに来たってことか」


「そういうこと」


 終司は小さく息を吐いた。


「相変わらず慎重だな」


「仕事柄ね」


 ワルクスは肩をすくめる。


「特に今回は、妙に嫌な空気がする」


 その声音には軽さがなかった。


 終司も自然と表情を引き締める。


「レナルス教が関わっているからか?」


「それもある」


 ワルクスは頷く。


「本当は君の事務所へ行ったんだよ。直接話した方が早いと思って」


「……ああ」


「そしたら留守でね」


 ワルクスは苦笑する。


「だから冴鳴くんへ連絡したら、今は学院にいるって教えてくれたわけだよ」


「なるほどな。ところで、教祖の死因は?」


「魔法による殺害」


 ワルクスは即答した。


「しかも、かなり高度な術式だ。普通の魔法使いじゃまず無理だろうね」


「犯人は?」


「不明。容疑者も……まあ、挙げればキリがない立場の人間だからね」


 観客席では歓声が上がる。


 誰かが派手な魔法を放ったらしい。


 だが終司の意識は、もう試合へ向いていなかった。


「死亡してから一週間以上……か」


 終司は目を細める。


「例の祭司は拘束してるんだろう?」


「ああ」


「その祭司なら、何か知ってる可能性があるね」


「素直に話すタイプには見えなかったけどな」


 その答えにワルクスは肩をすくめた。


「だだ、少なくともあの男は単独で動いてたわけじゃない気がするね」


「根拠は?」


「タイミングだよ」


 ワルクスはフィールドを見下ろしたまま答える。


「今、学院は学術祭期間中だ」


「外部の人間が大量に出入りしているな」


「そう」


 ワルクスは頷く。


「学院側は当然、クエトの事件を隠してるはずだ。来賓が来るタイミングでそんな不祥事を表に出すわけがない」


 終司は黙って聞いている。


「でも逆に言えば」


 ワルクスの声音が低くなる。


「クエトへ接触しようとする人間がこの期間中に現れたなら――そいつは内部事情を知ってる可能性が高い」


「……教祖殺害に関わってる側か」


「少なくとも、無関係ではないだろうね」


 旭が不安そうに口を開く。


「そんな人、本当に学院へ来るんですか……?」


「可能性の話だよ」


 ワルクスは柔らかく笑った。


「でも、こういう時に人は動く」


 終司は小さく息を吐く。


 面倒な話になってきた。


 しかも学院内部だけでは終わらない。


 外部勢力まで絡み始めている。


「だから気を付けろってことか」


「うん、そういうこと」


 ワルクスが素直に頷いた、その瞬間だった。


 訓練場全体を揺らすような歓声が響く。


 空気が変わった。


「あ」


 旭が声を上げる。


「エリューシア先輩ですよ」


 フィールド入口。


 そこから、一人の少女が姿を現していた。


 薄桃色の髪に整った容姿。


 静かな表情。


 だが、その姿が見えた瞬間、観客席の空気が明確に変わる。


 歓声の質が違った。


 まるで主役の登場を待っていたかのような熱量。


「……来たね」


 ワルクスが静かに呟く。


 その視線は、完全にエリューシアへ向いていた。


「今、この学院で……いや、世界最強の魔法使いだ」


 フィールド中央へ歩いていくエリューシア。


 歓声はまだ止まらない。


 だが当の本人は、周囲の熱狂など気にした様子もなく静かに立っていた。


「……最強、ね」


 終司は小さく呟く。


 彼女は目立つ。


 容姿や強さだけではない。


 存在そのものが、人を惹き付けている。


「とんでもないな、彼女は」


 その呟きに、終司は答えない。


 だが視線だけは、ずっとエリューシアへ向いていた。


 そして、フィールド中央で、試合開始の合図が鳴り響いた。

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