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第71話 対戦開始

 司会の合図と共に、第一試合の選手たちがフィールド中央へ姿を現す。


 観客席から歓声が上がった。


 上空に展開された投影魔法が、選手の名前と順位を映し出す。


「本当に競技大会みたいだな」


「本格的ですよねー」


 旭は慣れた様子でフィールドを眺めていた。


「選手も観客も、テンション上がってますし」


 その言葉通り、試合が始まった瞬間から観客席の熱量は凄まじかった。


 対戦が始まるや否や、炎弾に風刃が入り乱れる。


 互いに距離を取りながら、精密に魔法を撃ち合う。


「ちゃんと戦術を組み立ててるな」


「上位ランカーですからね」


 旭が頷く。


「そう簡単にはここに上がれませんよ」


 終司も静かに目を細める。


 魔法の練度は確かに高い。


 学院らしい、洗練された戦い方だ。


 結果としては、風魔法を主体とした男子生徒が勝利。


 決着がついた瞬間、歓声が訓練場全体へ響き渡る。


「盛り上がってるな」


「まだ一回戦なんですけどねー」


 旭は楽しそうだった。


「後半になるともっと凄いですよ」


 第二試合も始まる。


 こちらは近接型同士らしく、開始直後から距離を詰めた激しい打ち合いになった。


 強化魔法を纏い硬化した拳。


 短剣型の魔法具を使い、放たれた雷の衝撃波。


 離れたこの場にすら振動が伝わってくる。


「……なるほど」


 終司は腕を組む。


「流石は第二世代だ。魔法の威力が違う」


「それはそうですよ」


 旭が苦笑した。


「元々普通の魔法使いより強力な魔法が使えるのに、学院で鍛え上げられてますからー」


 第二試合は、最後に放たれた雷撃魔法で決着。


 観客席が再び大きく沸く。


『続いて第三試合――』


 司会の声が響いた瞬間。


 周囲の空気が少し変わった。


 歓声とざわめき……そして、期待。


「あ」


 旭が小さく声を上げる。


「リトリ先輩ですよー」


 フィールドの入口。


 そこから、白衣姿の少女がゆっくりと歩み出てきた。


 透き通った水色の髪に、柔らかな雰囲気。


 リトリ・スルスだ。


「ああいうところに立ってるのを見ると、違和感が凄いな」


「でも、リトリ先輩は四耀ですよ?」


「それは分かってる」


 だからこそ、逆にどう戦うのか気になっていた。


 対戦相手の男子生徒も、明らかに緊張している。


 彼も学院の上位ランカーで、実力者なのだろう。


『――試合開始!』


 開始の宣言。


 その瞬間だった。


 ぱきり、と。


 乾いた音が響く。


「……何だと」


 終司は思わず目を細めた。


 次の瞬間には。


 対戦相手の足元から、一瞬で氷が広がっていた。


 床と空気……周囲数メートル。


 全てが白く凍り付く。


 男子生徒は反応すら出来ていなかった。


 両足を完全に氷で拘束され、その場で動きを止められている。


 訪れる静寂。


 観客席すら、一瞬息を呑んだ。


 フィールド中央のリトリだけが、いつも通りの柔らかな表情で立っている。


「降参してくれないかな?」


 穏やかな声。


 まるで診察でもするような口調だった。


「これ以上やると、たぶん怪我させちゃうから」


 対戦相手の男子生徒は青ざめていた。


 冷気だけで理解したのだろう。


 力の差を。


「……ま、参りました」


『勝者、リトリ・スルス!』


 歓声が爆発する。


 だが、その熱狂以上に。


 観客席には妙な緊張感が残っていた。


「……一瞬だったな」


 終司が静かに呟く。


「相手は四耀ですからねぇ」


 旭は苦笑していた。


「リトリ先輩って、いつも無駄に戦わないんですよ」


 なるほど、と終司は思う。


 相手を傷つける前に終わらせる。


 リトリらしい戦い方だ。


 だが同時に、圧倒的だった。


 技術に出力に制圧速度……全てが別格だ。


「あれで本気は出してないんだろうな」


「模擬戦ですし」


 旭はさらっと言った。


「本気を出したら訓練場ごと壊れますよ、多分」


「さらっと怖いことを言うな」


 終司が小さく息を吐いた、その時だった。


「――隣、座ってもいいかな?」


 不意に、落ち着いた男の声が聞こえた。


 終司は視線を向ける。


 そこには、一人の男が立っていた。


 白いスーツに整った顔立ち。


 陽光を受けて輝く金髪。


 柔和な笑みを浮かべているが、その瞳だけは妙に鋭い。


 いかにも上流階級――そんな雰囲気を纏った男だった。


 終司はその男の顔を見ると、首を縦に振って返した。


 男はそれを見て、小さく笑った。


「ふふ、ありがとう」


 そして当然のように、終司の隣へ腰を下ろす。


 白スーツの男は、フィールドを見下ろしながら静かに口を開いた。


「直接会うのはしばらくぶりだね、終司」

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