幕間
夕緋を抱えたまま、終司たちは地下を後にした。
途中、エリューシアがクエトを拘束した状態で合流し、さらにラルスも回収される。
崩落の危険があった天井は、エリューシアの空間固定によって完全に安定化されており、撤収に支障はなかった。
「……本当に規格外ですねー」
思わず漏れた旭の一言に、エリューシアは特に反応を示さない。
当然のことをしたまで――そんな顔だった。
ラルスは簡易的な治療を受けたものの、自力で歩くのは困難な状態だったため、学院の医療部へ連絡し担架で運ばれることになる。
そして――
地上へ。
夜気が、わずかに冷たい。
「……戻ってきましたね」
旭がぽつりと呟く。
終司の腕の中で眠る夕緋を、何度も確認するように見つめながら。
「……ほんとに、戻ってこれたんだ」
その声は、心底ほっとしたような響きだった。
「まだ終わってないぞ」
終司が淡々と言う。
「リトリのところに運ぶまでが仕事だ」
「はーい」
軽く返事をしつつも、旭の視線はずっと夕緋に向いたままだ。
そのまま一行は医療棟へと移動し、夕緋はすぐにリトリのもとへと運び込まれた。
診察の結果は――命に別状なし。
魔力の遮断による昏睡状態。
時間経過、もしくは原因の完全排除で目覚める可能性が高い。
「擬似的な魔力損失なら、きっと大丈夫。私がなんとかしてみせるよ」
リトリのそれを聞いた瞬間。
旭はその場に座り込んで、しばらく動けなかった。
「……よかったぁ……ほんとに……」
涙を拭いながら、それでも笑っている。
そんな様子を一度だけ見て――
終司は静かに背を向けた。
「学院への説明は俺がいくから、旭はここに居るといい」
「……はい!」
振り返った旭の顔は、さっきまでよりもずっと明るかった。
「お姉ちゃん、起きたら絶対びっくりしますよねー」
「だろうな」
「その時はちゃんと説明しないと……あ、でも先輩のことどう紹介しようかな……」
「悩むところはそこか?」
「大事ですよ!?」
そんなやり取りを最後に、旭はそのまま病室へ残った。
扉が静かに閉まる。
廊下に出たところで――
「終司さん」
呼び止める声。
振り返ると、エリューシアがそこに立っていた。
「お疲れのところすみませんが、私と一緒に学院長室へ来ていただけませんか?」
「そのつもりだよ」
短く返す。
エリューシアは一歩だけ近づく。
「それと」
ほんの僅かに、視線を細めた。
「今回の判断……的確でした。終司さんがいなければ、状況はもっと悪化していた可能性が高いです」
淡々とした評価。
だが、それは紛れもなく認めている声音だった。
「……褒められるとは思わなかった」
「事実を述べただけですよ」
即答。
ブレない。
終司は小さく息を吐く。
「それで、クエトは?」
「本校舎で拘束しています。魔法も封じてありますから大丈夫かと」
一拍。
「……ですが」
ほんの僅かに間を置く。
「油断はできませんね。あの能力は、不明な点が多すぎます」
「同感だ」
終司の視線が、わずかに落ちる。
エリューシアはそれに対して何も言わなかった。
ただ――
「それでは、報告に行きましょうか」
それだけを告げて、背を向ける。
終司もそれ以上は何も言わず、歩き出した。
並んで進む。
無言のまま。
だが、不思議とそれが苦ではない。
やがて、重厚な扉の前に辿り着く。
「……入るか」
「はい」
短い応答。
そして――
終司は、その扉に手をかけた。




