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第49話 合流

 クエトの身体が、地面に沈んでいる。


 呼吸は乱れ、魔力の流れも崩壊寸前。


 もはや、戦闘を継続できる状態ではなかった。


 その側に――


 静かに、影が立つ。


「終司さん」


 落ち着いた声音。


 まるで最初からすべてを把握していたかのような、揺らぎのない気配。


 エリューシア・フラウレス。


 その足元にいるクエトの身体は、完全に制圧されていた。


「……ぐ、ぁ……っ」


 クエトが僅かに身じろぐ。


 だが、その瞬間。


「動かないでください」


 淡々とした一言。


 それだけで、空気が凍る。


 見えない何かに押さえつけられたかのように、クエトの身体が完全に沈黙する。


「これ以上の抵抗は無意味です」


 感情の揺れはない。


 ただ事実を告げるだけの声音。


 それが、絶対的な差を示していた。


 終司は、その光景を見て小さく息を吐いた。


「……容赦ないな」


 エリューシアは何も答えない。


 ただ、片手を軽く上げる。


 その瞬間――


 軋んでいた天井が、ぴたりと止まった。


 崩れ落ちかけていた瓦礫が、空中で静止する。


 まるで時間そのものを固定したかのように。


 さらに、空間全体がわずかに軋み――安定する。


「空間の固定と構造の補強を行いました」


 さらりと告げる。


「これで崩落の心配はありません」


 終司は、わずかに眉を上げた。


 クエトが見せていたそれと、同じ系統の力。


 だが――


 精度も、密度も、完成度も。


 まるで別物だった。


「……お見事」


 思わず、苦笑が漏れる。


「流石は本物、だな」


 ぽつりと呟く。


 エリューシアは、ほんの一瞬だけ視線を寄越した。


「……本物、ですか」


 それだけ。


 それ以上の言葉はない。


 だが、それで十分だった。


 終司は肩をすくめ、視線を横へ移す。


 倒れたままのラルス。


「……おい、生きてるか」


「……はっ」


 かすれた声。


 だが、意識は繋がっている。


「なんとか、な……クソが……」


 薄く笑う。


「情けねぇとこ見せちまったな。笑いたけりゃ笑えよ」


「そんな趣味はない」


 終司はしゃがみ込み、軽く様子を見る。


「それにしても、よくあれで生きてたな?」


「誰に言ってやがる……」


 ラルスが鼻で笑う。


 だが、その呼吸は浅い。


 終司は一度だけ目を細め、エリューシアへ視線を送る。


「悪い、頼めるか?」


「応急処置でしたら」


 即答。


 指先がわずかに動く。


 淡い光がラルスを包み込む。


「痛みの緩和程度ですが」


「……っ、はぁ……」


 ラルスの呼吸が、わずかに整う。


「後でちゃんと、リトリさんに診てもらってください」


「……借り一つ、だな……」


「早めの返済をお願いしますね?」


「はは……お前が言うと洒落にならねぇ……」


 乾いた笑い。


 だが、それで十分だった。


 終司は立ち上がる。


 そのとき――


 上から、気配。


 一瞬。


 予感と確信が同時に走る。


「……っ!」


 視線を上げた瞬間――


「終司せんぱーい!!」


 元気すぎる声と共に、影が落ちてきた。


「馬鹿ッ!!」


 反射で踏み込み、腕を伸ばす。


 衝撃。


 そのまま抱き止める形で受け止める。


「おっとっと、ナイスキャッチです!」


 腕の中で、にぱっと笑う旭。


 まるで状況の緊張感を一切感じていない顔。


「この高さから考えなしに飛び降りるな!」


「先輩なら絶対キャッチしてくれると思ったのでー」


「思うな!」


 即座に叩き返す。


 だが、その声にほんの少しだけ安堵が混じる。


 旭はひょいと着地し、くるりと一回転してバランスを取る。


「状況は全部わかってます」


 自信満々に言い切る。


「冴鳴さんが全部共有してくれました」


「……まったく」


 終司は小さく息を吐く。


「あいつ、抜かりなさすぎだろ……」


 視線を奥へ向ける。


 静まり返った通路。


 その先にあるものは、もう分かっている。


「行こう」


 短く。


「夕緋さんのところへ」


 一瞬だけ。


 旭の表情が引き締まる。


 さっきまでの軽さが、すっと消える。


「……はい!」


 強く、頷く。


 終司はエリューシアへ視線を向ける。


「ここは任せても?」


「問題ありません」


 即答。


「ここは私に任せてください」


 一切の迷いもない。


 その言葉だけで十分だった。


 終司は頷き、旭と並ぶ。


 奥へ。


 静かな通路を進む。


 先ほどまでの激戦が嘘のような静寂。


 だが、その奥には確かにある。


 探していた存在が。


 旭の足取りが、ほんの僅かに速くなる。


 終司は何も言わない。


 ただ、その歩幅に合わせる。


 やがて――


 行き止まり。


 重厚な扉。


「……ここだな」


「……はい」


 短い返事。


 だが、その声には震えが混じっていた。


 終司は一度だけ息を整える。


 そして――


 扉に手をかける。


 ゆっくりと、押し開く。


 軋む音。


 静かな部屋。


 その中央。


 ベッドの上。


 そこに――


 静かに眠る、霧城夕緋の姿があった。


 まるで、何事もなかったかのように。


 ただ、穏やかに。


 眠っていた。


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