第41話 類似した構造
さらに地下道を進む。
淡く発光する壁が、青白く視界を満たしていた。
――コツ、コツ。
単調なはずの通路。
だが。
終司の視線は、周囲を細かくなぞっていた。
「……静かすぎてつまらねぇ」
ラルスがぼそりと呟く。
「襲撃も急にピタッと止まったぞ」
「……ああ」
短い返答。
その声に、わずかな違和感。
「おい」
ラルスが横目で見る。
「さっきからお前何考え込んでんだよ」
終司は答えない。
ただ、歩調を少しだけ落とす。
壁。
床。
分岐。
配置。
その一つ一つを、確かめるように。
「……まさか」
小さく、呟いた。
「……あ?」
「もしそうなら」
首を振る。
「……試してみるか」
「はっきりしねぇやつだな」
ラルスが肩をすくめる。
その時。
『兄さん』
通信が入る。
『この先、右に曲がってください。そのまま進めば――』
「……いや」
終司が遮る。
『……はい?』
「ルートを変更する」
一拍。
ラルスが眉をひそめる。
「おい、ナビを無視すんのか?」
「気になることがある」
終司は、冴鳴の指示とは逆方向へ足を向ける。
「よし、こっちだ」
『兄さん? そちらは最短経路では――』
「大丈夫だ」
言い切る。
迷いはない。
ラルスがニヤッと笑う。
「いいねぇ」
「何がだ」
「そういう直勘をばちばちに働かせるやつだよ」
「勘じゃない」
短く返す。
「俺が考えてる通りなら」
そのまま進む。
数秒。
十数秒。
そして――
端末の反応が、大きく動いた。
『……っ』
冴鳴の声がわずかに変わる。
『距離、大幅に縮まりました』
「思った通りだ」
終司は止まらない。
「冴鳴、このまま行く。距離のチェックを頼んだ」
「おいおいマジかよ」
ラルスが笑う。
「なんか法則でもあんのか?」
「違う」
一拍。
「俺はここに来たことがあるんだ」
『兄さん』
冴鳴の声が、少しだけ真面目になる。
『まさか、この区画は……』
終司は、少しだけ黙る。
そして。
「……冴鳴」
『はい』
「七年前のあのフォーラムの会場」
一拍。
「一階フロアの構図データを引き出せるか?」
わずかな沈黙。
だが、すぐに。
『出来ます』
即答だった。
『過去の事件資料は持っていますから』
「この地下道のマップと照合してみてくれ」
『了解です』
間髪入れずに処理が走る。
その間も、二人は進み続ける。
足音が速くなる。
『……出ました』
冴鳴の声。
ほんのわずかに、温度が下がる。
『構造一致率、九十七パーセント。この地下道は七年前に魔女狩り事件のあった、あの場所で間違いありません』
「そうか。ありがとな」
「はっ」
ラルスが笑う。
「何だよ、あの事件にも絡んでやがったのか?」
「当日現場に居たってだけだ。付き添いだったけどな」
「なんでもいいぜ? これでクエトの野郎に一気に追いつけるんだからよ」
『兄さん』
冴鳴が続ける。
『ルート、再構築しました。ナビ、継続しますよ』
「流石に早すぎないか?」
『サポートで兄さんの遅れを取るなんて私のプライドが許しませんから』
「はは、冴鳴らしいな。それなら、このまま頼む」
一拍。
『では――そのまま直進。次の分岐を左です』
ナビが変わる。
さっきまでとは違う、より最適化されたルートで。
「なあ」
ラルスが口を開く。
「お前、あの事件から生き延びたってことだよな?」
「……一応、な」
一瞬の沈黙。
だが。
終司は、前を見たまま言った。
「足を止めるなよ。無駄口を叩いてる暇はないぞ」
「分かってるよ。それで、クエトの野郎はどこに向かってるんだ?」
「あいつが向かっているのはおそらく」
終司は続ける。
「魔女狩り事件……最終局面の現場。爆心地だ」
「はっ……最高じゃねぇか」
ラルスが低く笑う。
「あの野郎、そんなところで祈りでも捧ぐつもりなのかねぇ」
「祈り……か」
「まぁ、あの黒装束の連中が襲ってきた時点で善行ってわけじゃねぇわな?」
軽く拳を鳴らす。
「ははっ、まあこっちは荒事大歓迎なんだがよぉ」
『兄さん』
冴鳴の声が再び入る。
『目標との距離、さらに縮まっています』
「どれくらいだ」
『このペースなら――』
一拍。
『接触まで、あと数分です』
空気が変わる。
「行くぞ」
「ああ、早く行こうぜぇ」
足音が、加速する。
――コツ、コツ、コツ。
過去と重なる通路を。
記憶の中の地図をなぞるように。
真っ直ぐに。
その先にいる相手へと。




