第33話 合流
聖堂へと続く石畳の道。
夕方の光が、長く影を伸ばしていた。
空気は穏やかだが、どこか張り詰めている。
「終司くん」
先に来ていたリトリが、軽く手を上げる。
その隣にはエリューシア。
変わらず整った立ち姿で、こちらを見ていた。
そして――
「遅ぇぞ」
壁に寄りかかるように立っていたのはラルスだった。
腕を組み、いかにも退屈そうに足先で地面を叩いている。
「別にお前は待ってなくても良かったんだが?」
「つれないこと言うなよ」
にやりと笑う。
「こんな面白そうな場面で、俺が外すわけねぇだろ?」
「……はいはい」
終司は短く返す。
「それで?」
ラルスが視線を全員に巡らせる。
「てめぇらは収穫あったのかよ?」
「……あるにはある」
終司が答える。
「決定打には欠けるけどな」
「こっちも似たようなものだよ」
リトリが肩をすくめる。
「医務室に来てた子たちの記録、ざっと見直してきたんだけどね」
一拍。
「ここ最近で、途中から来なくなった子が何人かいる」
「医務室へ通うのをやめた、ってことか」
「うん。それも、まだ症状が回復したわけでもないのに」
「その生徒たちが、聖堂に流れてるってことか」
「おそらくね」
軽い調子だが、目は笑っていない。
「強制された形跡はありませんでしたか?」
エリューシアが問う。
声は静かだが、芯がある。
「ない」
終司が即答する。
「少なくとも、本人たちは自分で選んだと思ってる」
「……そうですか」
わずかに視線を落とす。
「ですが、不自然です」
顔を上げる。
「同様の症状を訴えた生徒が、例外なく同じ行動を取っている」
「しかも理由が説明できない、でしょ?」
リトリが付け足す。
「かなり気持ち悪いですよねー」
旭が肩をすくめる。
「聞いた子、みんな同じ反応でしたし」
「なんとなくそうした方がいい気がした……か」
終司が確認する。
「医務室じゃなくて、聖堂を選ぶ理由にはならないなですよねー……」
小さくため息。
「はっ」
ラルスが鼻で笑う。
「つまり、そう動かされてるってことだろ?」
雑に言い切る。
「断定はできない」
終司は淡々と返す。
「あくまでも可能性は高い、だ」
「十分だな」
ラルスは軽く肩を回す。
関節が鳴る。
「あとはぶん殴れば何か吐くだろ」
「待て」
即座に止める。
「今回はそういう話じゃない」
「ちっ」
露骨に舌打ち。
「つまんねぇな」
「……でも、ラルスくんの言ってることも一理あるよ」
リトリが苦笑する。
「状況としては、何もないとは言い切れない黒に近いグレーだし」
「ですが、確固たる証拠がない以上、学院は動けません」
エリューシアが言う。
「動けば、問題が大きくなるだけです」
一拍。
「レナルス教との関係もありますから」
空気が、わずかに重くなる。
「だから、私たちが確認するしかないってことですね」
旭が言う。
少しだけ強い声。
「確認、ねぇ」
ラルスが視線を細める。
「具体的にはどうするつもりだよ?」
一瞬の間。
誰もすぐには答えない。
だが――
「考えはある」
終司が口を開く。
全員の視線が集まる。
「ラルス」
「あ?」
「お前を俺にけしかけてきた事実を突きつける」
「……ああ」
ラルスの口角がゆっくりと上がる。
「結局あのネタが一番効くってことかよ」
「効果はある」
終司は短く言う。
「少なくとも、ただ相談に乗っていただけという立場では説明がつかない」
「確かにね」
リトリが頷く。
「わざわざ外部の人間の情報を流して、しかもラルスくんをぶつけるなんて」
「理由もなくやることじゃないですよね……」
旭が小さく呟く。
「しかも、ラルスくんみたいなタイプに敢えて流した……意図的、だね」
「いずれにせよ、関与は否定できないかと」
「これを偶然とは言わせない」
終司が小さく言う。
その声音は静かだが、はっきりしていた。
「何にしてもだ」
ラルスが笑う。
「気に入らねぇなら、直接聞きゃいい」
「そうだな」
終司は頷く。
「この件は、明確にクエトからの働きかけがある」
「完全に無関係とは言えない材料にはなると思う」
リトリが言う。
「はい」
エリューシアも同意する。
「少なくとも、何もしていないという説明とは矛盾が生じますしね」
「そこを突く」
終司が言い切る。
「正面から、ですね」
旭が小さく言う。
「いいじゃねぇか」
ラルスが楽しそうに笑う。
「話が早ぇほうが助かる」
「無茶はやめてくださいねー?」
旭が釘を刺す。
「しねぇよ」
ラルスは軽く手を振る。
「多分な?」
「不安しかないんですけど……」
小さくため息。
「何にしてもだ」
視線を前へ向ける。
聖堂。
静かに佇むその場所。
「……行くか」
終司の一言。
それで十分だった。
五人は、そのまま足を踏み出す。
夕暮れの中――
真実を問いに行くために。




