表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/55

第32話 情報収集

 廊下を歩く足音が、静かに響く。


 エリューシアとリトリの二人と別れてから、しばらく。


 旭の先導で、生徒からの情報収集を続ける。


 二人は人気の少ない校舎の一角を歩いていた。


「……なんか、ちょっと安心しました」


 ぽつりと、旭が言う。


「ん?」


「さっきまで、空気重かったじゃないですか」


「ああ」


「だから、ちょっとだけ」


 小さく笑う。


「先輩と二人だと、話しやすいなって」


「そうか」


 終司は短く返す。


 その時、廊下の向こうから歩いてきた生徒と目が合う。


 一瞬の沈黙。


 露骨に逸らされる視線。


 すれ違いざま、小さく舌打ちが聞こえた。


「……あー」


 旭が苦笑する。


「やっぱり、変に意識されてますねー」


「みたいだな」


 終司は気にも留めない。


「流石に勢い任せに勝負を仕掛けてきたりするやつは、あいつ以外にはいなさそうだ」


「さっきの三人はちょっと危なかったですけどね?」


「軽く捌いただけだよ」


「軽くって……」


 呆れたように息を吐く。


「廊下の端に転がってたじゃないですか……」


「手加減はしたよ」


「してあれですか……」


 肩を落とす旭。


「もうちょっと穏便にお願いできますー?」


「前向きに検討しておく」


 あまり期待のできない返答だった。


「ところで、さっきの生徒が言ってた話だけど」


「ああ、あの……」


 旭が思い出したように言う。


「最近は聖堂に行く人が増えてるって話ですよね」


「それだ」


「何人かの生徒にそれとなく聞いてみましたけど、やっぱり同じでした」


「体調を崩したら聖堂へ……か」


「はい」


 旭は少し考えるように視線を落とす。


「それがここ最近急に、です」


「時期が合うな」


「お姉ちゃんがいなくなったのと……財前くんたちの件も」


「……ああ」


 一拍。


「聞いた人たち、みんな同じこと言うんですよねー」


 旭は困ったような表情を浮かべる。


「なんとなく、そうした方がいい気がしたって」


 終司の足が、わずかに緩む。


「普通なら医務室へ向かうはずだが……」


「そう、聞いてみても」


 一拍。


「言われてみればそうですよねって反応でしたねー」


「自分で選んでる自覚がない」


「はい」


「でも、それを選んでる」


「……はい」


 小さく頷く。


「クエト先生のところへ行けば大丈夫、って」


「誰かに勧められたわけでもないのか?」


「それも聞きましたけど」


 首を横に振る。


「"気付いたらそう思ってた"って感じでした」


「……刷り込みに近いな」


「え……」


「理由がないのに、選択だけが一致してる」


 一拍。


「不自然だ」


 旭の表情が少しだけ強張る。


「それって……」


「まだ断定は出来ない」


 終司は淡々と遮る。


「ただの偶然かもしれない」


「……はい」


 納得はしていない顔だった。


 だが、それ以上は言わない。


 終司はそのまま歩きながら言う。


「旭は学院長の話、どう思った?」


「え?」


「さっきの会合だよ」


「あ……」


 少しだけ考える。


「……何か知ってる感じはしました」


「ああ」


「でも、動けない……レナルス教があるから」


「そうだ」


 短く言う。


「クエトが何もしてないなら問題ない」


 一拍。


「だが、もし関わってるなら」


「相手は宗教組織の人間……」


「そういうことだ」


 旭の表情が少し引き締まる。


「学院としては、下手に手を出せない」


「でも……」


「疑ってはいる」


 終司は言い切る。


「おそらく、最初からな」


「……え」


「学院も馬鹿じゃない。旭から相談を受けて、裏では動いていたはずだ」


 一拍。


「夕緋さんの件も、他の失踪も」


「じゃあ、どうして……」


「踏み込めなかった」


 静かに答える。


「相手がクエトだからだ。レナルス教の祭司……だから、確証がなければ触れられない」


 一拍。


「だから外へ回すことにした」


 視線が、わずかに旭へ向く。


「君を使って」


「……私を」


「学院の人間ではなく、しがらみもない」


「調査のプロで、魔法の知識にも精通している……だから終司先輩を……」


 旭は少しだけ俯く。


「……なんか」


 一拍。


「思ってたより、大きい話になっちゃいましたね」


「人が居なくなっている時点で、小さい話じゃない」


「そうなんですけど……」


 小さく息を吐き、顔を上げる。


「それでも」


 視線は真っ直ぐだった。


「私は、お姉ちゃんを見つけたいです」


「分かってる」


 終司は短く返す。


「事情はどうであれ、やることは変わらない」


 それだけ。


 余計な言葉はない。


 けれど、十分だった。


「……はい」


 しっかりと頷く。


 その時――


 小さな音が鳴る。


 旭がポケットから端末を取り出す。


「あ、エリューシア先輩からです」


 画面を確認して、少しだけ表情が引き締まる。


「……戻ったみたいです」


「クエトか」


「はい。聖堂に」


 一拍。


 空気が、切り替わる。


「行くか」


「はい」


 迷いはなかった。


 二人は顔を上げる。


 傾き始めた陽の下――


 そのまま歩き出す。


 夕方の聖堂へ向けて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ