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第25話 学生会長

 エリューシアの端末にポイントの位置を送り、彼女の先導で学院を巡る。


 いくつかのポイントを調査し、三人は学院の中心部へと足を進めていた。


 途中で立ち寄った場所はどれも、聖堂ほどの違和感はない。


 わずかな魔力の残滓や、人の出入りの痕跡はあったが――決定打には欠ける。


 だが、それでも無駄ではない。


 何もないという事実もまた、情報の一つだった。


 先ほどまでの人気のない区画とは違い、徐々に周囲に人の気配が増えてくる。


 遠くに見える校舎の影。


 開けた中庭。


 行き交う生徒の姿も、ぽつり、ぽつりと増えていく。


 それに伴い、空気も少しだけざわつきを帯びていった。


「……なんか、急に人増えましたね」


 旭が周囲を見回しながら言う。


「学院の中心に近づいてきてるからだろうな」


 終司は前を見たまま答えた。


 エリューシアは相変わらず先頭を歩いている。


 無駄のない足取り。


 迷いのない進行。


 時折、ほんの僅かに進路を調整するその動きから、最短経路を選び続けているのが分かる。


「こちらです」


 短く告げる。


 端末に送ったポイントを、そのままなぞっているのだろう。


 説明も最小限。


 だが、それで十分だった。


「あ、会長」


 すれ違いざま、声がかかる。


 男子生徒が軽く頭を下げた。


「こんにちは!」


「はい、こんにちは」


 エリューシアも同じように短く返す。


 足は止めない。


 だが、視線だけは一瞬きちんと相手に向けていた。


 それだけで、相手は満足したように去っていく。


「慕われてるんだな」


「それはもう」


 旭は笑みを浮かべる。


「エリューシア先輩の人気は凄いんですから」


「そうなのか?」


「特級序列第一位。四耀で学生会長……それに加えてあの容姿ですからねー」


 ひそひそ声になる。


「中には怖いって思ってる人もいますけどね?」


「旭さん、聞こえていますよ?」


 間髪入れずに返ってきた。


「ひっ」


 旭が肩をすくめる。


「す、すみません……!」


「いえ、事実ですから」


 淡々とした声。


 だが、どこか慣れている響きでもあった。


「でも、頼られてるのは本当ですよ」


 旭はすぐに言い直す。


「困ったことがあったらとりあえず会長に聞け、みたいな空気ありますし」


 一拍。


「……あと、面倒ごとを一番早く片付けてくれる人でもありますね」


「それは、分かる気がするな」


 終司はラルスとの一件を思い出しながらそう言った。


「だから、怖いけど頼るみたいな感じです」


「褒められているのか、貶されているのか分かりませんね?」


「褒めてますよ!?」


 即答だった。


 終司は小さく息を吐く。


 前を歩く背中を見る。


 エリューシアは振り返らない。


 それでも、周囲への意識は切れていないのが分かる。


「あ、ほら」


 旭が小さく顎で示す。


 少し先で、女子生徒が手を振っていた。


「エリューシア先輩ー!」


「……どうしましたか」


 呼ばれて、足を止める。


 今度はしっかり向き直った。


 わずかに姿勢が整う。


 対面する相手に合わせて、無意識に応対の形を変えているのが分かる。


「この前の件、ありがとうございました!」


「いえ、無事に終わったようでなによりです」


「ほんとに助かりました! また何かあったら相談してもいいですか?」


「私に出来ることでしたら」


「はい!」


 ぱっと表情が明るくなる。


 それだけで満足したのか、そのまま去っていった。


「……見ましたか? あんなのが毎日ですよ」


 旭が素直に感心する。


「毎日ではありませんよ」


 即座に否定。


「あははー、全部聞こえてる……」


 旭は苦笑した。


 と、その時だった。


「……あれ?」


 視線が横に逸れる。


 少し離れた場所で、男子生徒が壁に手をついているのが見えた。


 呼吸が浅い。


 足元も、少し不安定だ。


 周囲の生徒も、少し距離を取っている。


「ちょっとあの人……」


 言いかけた瞬間には、エリューシアが動いていた。


 迷いなく進路を変える。


「大丈夫ですか?」


 静かな声で声をかける。


「あ……会長」


 相手が驚いたように顔を上げた。


「すみません、ちょっとふらっとしただけで……」


「顔色が優れないようですね」


 距離を詰めすぎないまま、様子を見る。


「少し休んだ方がいいかと」


「いえ、大丈夫です」


 苦笑気味に首を振る。


「最近ちょっと寝不足で……それだけなんで」


「……そうですか」


 それ以上は踏み込まない。


「無理はしないでくださいね」


 一拍。


「もし症状が続くようであれば、リトリさんのところへ」


「ああ、医務室ですよね……」


 少し安心したような顔になる。


「分かりました。これ以上やばくなりそうなら行きます」


「はい」


 短く頷く。


 それで会話は終わりだった。


 エリューシアはそのまま戻ってくる。


「すみません。お待たせしました」


「あの生徒、大丈夫そうか?」


「学術祭も三日後ですから、皆さん少し無理をされてるようで……」


 エリューシアはあっさり答える。


 だが、その視線はわずかに周囲へ向いていた。


 同じような兆候がないか、確認するように。


「毎年この時期だと、珍しいことではないのですが」


「でも、ちょっと多くないですか?」


 旭が少しだけ声を落とす。


「最近は顔色悪い人もちらほら見かけますし」


「……はい」


 否定はしなかった。


「軽度の体調不良を訴える生徒が増えていますね」


「やっぱり」


「今はまだ、そこまで重い症状の報告はありませんが……」


 一瞬だけ、言葉を切る。


「……なんか、嫌な感じですよね」


 旭が小さく呟く。


「原因は?」


「現時点では、主な原因はまだ」


 即答だった。


「……そうか」


 終司は小さく息を吐いた。


「よし、次のポイントへ行くか」


「はい」


 エリューシアが即座に答える。


「次が、最後の場所ですねー。ここまでは大きな手がかりはなし……と」


「そうだな」


 終司も同意する。


「あとはそこを回って――」


 言いかけて、少しだけ考える。


「その後は、あいつのところか」


「あ」


 旭が顔を上げる。


「そういえば、いかなきゃでしたね……」


「そろそろ冷めててくれてるといいんだけどな」


 さっきの熱はもうないはずだ。


「……確かに」


 旭も納得したように頷く。


「では、この地点を確認後はラルスさんのところへ向かうということで」


 エリューシアがまとめる。


 自然と、方針が決まる。


「はい!」


 旭が元気よく返した。


「それで、今あいつはどこに?」


「確認しますね……ラルスさんは今」


 一呼吸置く。


「食堂、みたいです」


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