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第24話 手がかりを求めて

 三人で歩き出してから、しばらくは誰も口を開かなかった。


 砂利を踏む足音だけが、一定のリズムで続く。


「……リトリ先輩、大丈夫かな」


 ぽつりと、旭が呟いた。


 声は小さいが、この静けさの中ではやけに響いた。


「さっき、ちょっと元気なかったですよね」


 終司は視線を前に向けたまま、短く息を吐く。


「そうだな」


 それだけで、十分だった。


「医者として、目の前の患者をどうにもできなかった」


 一拍。


「その答えを、別の形で出されたんだ。思うところはあるだろうな」


 ――魔法からの解放。


 クエトの言葉が、頭の奥に引っかかっている。


 "救い"として語られたそれが、本当にそうなのか。


「納得できるかどうかは、別の話だ」


「……そう、ですよね」


 旭は小さく頷いた。


 どこか、悔しそうな表情。


「リトリ先輩、すごく優しいですから……」


「それだけじゃない」


 終司は即座に否定する。


「リトリは、自分の領分にはかなり厳しいタイプだ」


 曖昧な結果で満足するような人間ではない。


 だからこそ。


 今回の件は、優しさよりも敗北感に近い何かを残している。


「……なるほど」


 旭が納得したように息を吐く。


 その時だった。


「ですが」


 前を歩いていたエリューシアが、静かに口を開いた。


 振り返らないまま。


「今回の件が、正しいことだったのかどうかは分かりません」


 二人の視線が向く。


「自分の魔力を手放す……それはつまり、自分が魔法使いであることを否定するということです」


 淡々としている。


 だが、その言葉には明確な芯があった。


「……そう、ですね」


 旭も同意する。


「この学院で過ごした時間は、簡単に手放していいものではないと思います」


 努力も、積み重ねも。


 すべてを含めて"魔法使い"なのだから。


「……同感だ」


 終司も短く返す。


 その横顔を見て――


 旭はふと、違和感を覚えた。


 会話の流れ。


 間の取り方。


「……あの」


 おずおずと口を開く。


「お二人って……もしかして、前から知り合いだったりしますか?」


 一瞬。


 空気が、わずかに止まった。


 砂利を踏む音だけが、やけに大きく聞こえる。


「学院長の弟子って聞いてますし……その、エリューシア先輩とも何か繋がりがあるのかなって」


 核心に触れる問い。


 ほんの僅かな沈黙。


「――幼馴染なんだ」


 あっさりと、終司が答えた。


「えっ!?」


 旭の声が裏返る。


 思わず足を止めかけて、慌てて歩調を合わせる。


「え、えええ!? そうなんですか!? 全然そんな感じしなかったんですけど!?」


「そうか?」


「そうですよ!? なんかこう……もっとこう……」


 言葉を探して、空中で手を泳がせる。


「距離が近い感じとか、そういうの全然なくて……!」


「それは、そうだろうな」


 終司は肩をすくめる。


 その隣で。


 エリューシアは、わずかに視線を逸らした。


 ほんの一瞬だけ。


「え、エリューシア先輩は覚えてるんですか? その……昔のこと」


 恐る恐る、旭が尋ねる。


「いえ」


 即答だった。


「昔の記憶はありませんので……」


 淡々とした声音。


 そこに迷いはない。


「あ、そ、そうでしたね……確か事故で……」


 旭の表情が少し曇る。


「じゃあ、終司先輩のことも……」


「お名前と、昔のことを少し」


 一拍。


「学院長から説明は受けていますから」


 それは、事実としての理解。


 そこに、感情は含まれていない。


「……そっか」


 旭は小さく呟いた。


 そして、ちらりと終司を見る。


「終司先輩は、それでいいんですか?」


「何が?」


「その……覚えてもらってないこと、とか」


 まっすぐな問い。


 だが。


「ああ、構わない」


 終司の返答は、あまりにもあっさりしていた。


「昔がどうだったかなんて、今の彼女には関係ないよ」


 迷いのない言葉。


 割り切りではない。


 ただの事実認識。


 一瞬だけ。


 エリューシアの足が、わずかに緩んだ。


 だが、それもすぐに元へ戻る。


「……やはり、あなたはそう言いますよね」


 静かな声で、そう返す。


 それ以上は、何も言わない。


 旭はそのやり取りを見て――


「……なんだか、大人って感じがします」


 ぽつりと呟いた。


 少しだけ、感心したように。


 終司は何も返さない。


 ただ前を見る。


 エリューシアも同様だった。


 だが、空気は僅かに変わっていた。


 言葉にはならない何かが、一つだけ共有されたような。


 短い沈黙。


 それを切るように。


「ところで」


 エリューシアが話題を切り替えた。


「ラルスさんの件ですが、すぐに接触するのは避けた方がいいと思います」


 足を止めずに、淡々と続ける。


「先ほどの戦闘直後です。あの状態の彼に再度接触するのは、お勧めできません」


「……だろうな」


 終司も同意する。


「あの人、完全にスイッチ入ってましたよね……」


 旭が苦笑混じりに言う。


「はい」


 一拍。


「時間を置けば、少しは落ち着くかと。少なくとも、会話が成立する程度には」


「なるほど……」


 旭が頷く。


「じゃあ、先に他の場所を回るのが良さそうですね?」


「はい」


 エリューシアは短く答える。


「彼の居場所なら分かりますし、最後で問題ないかと」


「……ちょうどいい」


 終司は視線を前へ送る。


「回れるだけ回ろう」


 短く言い切る。


「ラルスの件も含めて、まだピースが足りないしな」


「はい!」


 旭が力強く頷いた。


 三人の足取りが、わずかに速くなる。


 向かう先は、まだ見えない。

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