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第99話 戦いの理由

 反撃は一瞬だった。


 魔法を取り戻した生徒達は一斉に術式を展開し、黒装束達を次々と制圧していく。


 実力者揃いの魔女狩り達も決して弱くはない。


 だが、魔法使い達を無力化出来るという前提が崩れた今、その優位は失われていた。


 激戦の末、立っていたのはただ一人。


 ガルナス・アルゼクシア。


 拳を握り締めたまま、静かに終司達を見据えている。


 誰も不用意には近付かない。


 その武だけは、今なお健在だった。


「……もう、やめて下さい」


 静かな声が響く。


 来賓席から一人の女性がゆっくりとアリーナへ降りてくる。


 中央都市代表である六条七理。


 七年前の魔女狩り事件で命を落とした政府代表、六条大聖の娘だった。


 終司は彼女の傍に控える。


「これ以上は、危険です」


 七理は終司へ小さく首を振る。


「大丈夫です」


 そう言って、ガルナスの前まで歩み寄った。


 二人の間には、数歩ほどの距離。


「私は貴方に問わねばなりません」


 七理は真っ直ぐにガルナスを見つめる。


「あなた達は政府に捨てられたと……そう思っていたのですね」


「思っていた、ではない」


 ガルナスは即答する。


「捨てられたのだ」


 七理はゆっくり首を横へ振った。


「いいえ、違います。父は、そんなつもりはありませんでした」


 ガルナスの眉が僅かに動く。


「当時、魔法使いを軍へ配属するに至った理由は二つあります」


 七理は指を二本立てる。


「まず、冷遇されていた魔法使い達に正式な職と地位を与えること」


 七理は静かに続けた。


「そして、長年戦場に立ち続けてきたあなた達を、前線から退かせるためです」


 周囲も静まり返る。


「教官、政府職員、部隊指揮官……これまで国を守ってきた兵士達には、新しい役職を用意する。その方針は既に決まっていました。伝達もされていたはずです」


 ガルナスは乾いた笑いを漏らした。


「だから何だ。それは戦場を知らぬ者の理屈だ」


 拳が僅かに震える。


「俺達は武人だ。命を懸け、国を守ってきた。その誇りだけで生きてきた」


 拳を強く握る。


「それを突然、代わりを用意したからお前たちは不要だと言われ納得出来るものか!」


「ですが」


「違う!」


 怒声が響いた。


「政府は俺達から武と誇りを奪ったのだ!」


 七理は俯く。


 ガルナスはなおも続けた。


「悪意が無かった。そんなことはどうでもいい。結果として仲間は職と誇りを失い、家族をも失った」


 静寂が落ちる。


 七理が静かに口を開く。


「それでも、貴方たちのやったことは間違っています。魔法使いを……人を殺める理由にはならない。なってはいけないのです」


 ガルナスはゆっくり目を閉じた。


「だから、俺が今度こそここで終わらせるのだ。魔法という存在そのものを」


 その言葉に、一人の少女が前へ出た。


「……でしたら」


 透き通る声。


 淡い薄桃色の魔力が足元へ静かに広がる。


 エリューシアだった。


 ガルナスの表情が変わる。


「……エリューシア・フラウレス」


 エリューシアは静かに一礼する。


「終司さん、間に合ったみたいですね。良かったです」


「君のおかげだ。流石だよ」


「リトリさんにもその言葉、伝えてあげてくださいね?」


「ああ、勿論だ。それで、ここからどうするつもりだ?」


「私に、考えがあります」


 すっと、ガルナスへと身体を向ける。


「過去の私が、貴方たちの中に消えない敗北を残したというのなら――その因縁に決着をつけられるのは、私しかいません」


 その言葉に、ガルナスは苦笑した。


「そうだな。お前を殺せると証明出来れば、他の魔法使いなど有象無象に過ぎん」


 ガルナスは静かに続ける。


「武が……鍛え抜いた肉体が。積み重ねた技が魔法などという超常の力に敗れるなど認められん」


 エリューシアは身構える。


「来い。今度こそ武が敗北したわけではないと証明してやる」


 エリューシアは静かに頷いた。


「あなたが納得するまで……何度でも、お相手します」


 学院最強の魔法使いと、武の頂点。


 過去で止まっていた因縁が、今ここで再び交わろうとしていた。

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