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第98話 反撃開始

 黒衣の男達が終司を取り囲む。


 逃げ道はない。


 全員の銃口が一斉にこちらへ向けられていた。


 終司は肩を竦める。


「随分と物騒だな」


 誰も笑わない。


 ガルナスだけが静かに終司を見つめていた。


「お前の言うことを鵜呑みにするほど愚かではない」


 終司は眉を上げる。


「と言うと?」


 ガルナスは一歩近付く。


「地下で落としたと言う話が虚言で、まだお前が持っている可能性は残っている」


 終司は小さく息を吐いた。


「安心しろ」


 ガルナスは淡々と言う。


「抵抗しなければここで命までは奪わん」


「信頼出来るか」


「出来なくても構わん」


 終司は内心だけで時計を思い浮かべる。


 あと少し。


 ほんの少しでいい。


 時間さえ稼げれば。


「調べろ」


 二人の黒衣が終司へ歩み寄る。


 その時だった。


 一人の部下が駆け込んでくる。


「ガルナス様!」


「どうした」


「地下からそれらしいものは見つからなかったそうです!」


 終司は表情を変えない。


「全域を確認しましたが、それらしい物は発見出来なかったと!」


 ガルナスはゆっくりと終司を見る。


「……そうか」


 その視線には、先程よりも明確な確信が宿っていた。


「これで可能性は一つ減った」


 終司は苦笑する。


「おいおい、こんな短時間で調べ切れるわけがないだろ。ちゃんとよく探したのか?」


 ガルナスは首を振る。


「お前自身を調べて無ければ、また念入りに探すだけのことだ」


 黒衣達が一斉に距離を詰める。


「まずはジャケットを脱げ」


「断ると言ったら?」


「撃つ」


「即答か」


 静かな声だった。


 迷いも躊躇もない。


 終司はゆっくりと両手を上げる。


「怖いな」


「もう一度だけ言う」


 ガルナスが問う。


「ジャケットを脱げ」


「断る」


 終司は笑う。


「……そうか」


 ガルナスは静かに頷いた。


「なら、死ね」


 その一言で空気が凍る。


 黒衣達が銃を構え直した。


 安全装置が外される乾いた音が連続する。


 旭の顔から血の気が引いた。


「先輩……!」


 夕緋は腕時計を握り締める。


 文字盤へ視線を落とす。


 あと数秒。


 あと少し。


 終司は動かない。


 ただ静かに立っていた。


 ガルナスが右手を上げる。


「三」


 誰も息をしない。


「二」


 終司は目を閉じる。


 約束通りなら――。


「一」


 夕緋は時計を見る。


 針が、ちょうど重なった。


 終司は口元だけで笑う。


「――ゼロ」


 ガルナスの腕が振り下ろされた。


「撃て」


 轟音。


 数十発の銃弾が一斉に終司へ襲い掛かる。


 その瞬間だった。


「――守護盾プリヴェンティア!!」


 夕緋の澄んだ声がアリーナへ響き渡る。


 終司を中心として、淡い黄金の光が球状に広がる。


 透明な結界。


 無数の魔法陣が幾重にも重なり合い、一瞬で形成された絶対の防壁。


 次の瞬間。


 ガガガガガガガッ!!


 銃弾が全て結界へ弾かれ、火花を散らした。


「……なっ!?」


 黒衣達が一斉に目を見開く。


「魔法が……!」


「何故だ!」


 ガルナスも初めて表情を変えた。


 終司はゆっくりと目を開く。


 目の前には、一枚たりとも傷付いていない黄金の結界。


 その向こうで、夕緋が静かに微笑んでいた。


「間に合いました」


 終司も笑う。


「完璧なタイミングだ」


 そして胸いっぱいに息を吸い込み、アリーナ全体へ響く声で叫んだ。


「全員聞いてくれッ!!」


 その声に、生徒達も魔女狩りも動きを止める。


「もう魔法は戻った!! 反撃開始だッ!!」


 一瞬の静寂。


 そして、アリーナ中で一斉に魔力が噴き上がる。


 拘束されていた魔法使い達の身体から、失われていた魔力が奔流となって溢れ出した。


「やっとか!」


「待ってたぞ!」


「ぶっ飛ばせぇぇぇ!!」


 絶望に沈んでいた空気は、一瞬で歓声へ変わる。


 終司は結界の中で静かに笑った。


「さあ」


 その視線はガルナスへ向けられる。


「これでお前たちのアドバンテージは無くなったな」


「抜かせ……ッ!」


 先ほどの余裕はガルナスの表情からは消えていた。

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