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第62話 愛の唄

 ドガンッ!! 尻の下から突き上げる様な力を感じ、床が急速に上昇し始めた。部屋もガタガタと小刻みに振動している。どうやら海底から出て海中を浮上し始めたのだろう。


「このまま無事に浮上出来るといいですね」

「ああ鏡矢。だがすでに第三台場は爆撃で吹っ飛んだみたいだぞ」

「えっ? それじゃ風花様達は!?」

「大丈夫だ。皆、無事に逃げられたみたいだな。まだ放送が継続している」

「それならよかった……」

「ふん。人の心配をしているヒマはないぞ。浮上したとたんここも爆撃されかねんのだからな。それで孝由。脱出の算段はあるのか?」

「……予め用意してというのは無理ですね。デリバリーポッドもこっちの座標が変っちゃってますから再計算とプログラミングにそれなりに時間が必要ですし……出たとこ勝負で、走って外へ逃げるのがせいぜいかと」

「それでも何もしないよりはマシか。座して死を待つのは私の流儀ではない」

 そう言ってヴェロニカさんが立ち上がり、独房を出て行こうとする。

「どうするんですか? まだ結構揺れてますし危ないですよ」

「いや。どうせなら出来るだけ出口に近づいておいた方がいいのではないか?」

「それもそうだ鏡矢君。なーに。浮上途中でガーデンがバラけたりはしないさ」

 そう言って孝由さんが立ち上がったとたん、一瞬無重力状態になった様に体が宙に浮き、ドーンという地響きと共に、床に叩きつけられた。


「痛たたたた……」

「おお。どうやら海面に出たみたいだね」孝由さんが俺の上に倒れ込んで、下着を付けていない3Dモデルのお尻が眼の前に展開していた。あー……ここの造作にどれだけ苦労した事か……いやそうじゃない!


「二人とも大丈夫か? とにかく一旦ガーデンを離れるぞ! 急げ!!」

 ヴェロニカさんに叱咤され、俺達は上を目指した。


 ◇◇◇

 

 ドーン!!


 浮上した際の衝撃波が感じられ、ガーデンが海面に出たのが羽田からも見えた。

「あれがガーデン……大きいですね」マイカも千早も目を丸くして驚いている。

「すごい技術だね。とても数百年前の遺物とは思えないよ」カメラを回していた明さんも感嘆仕切りだ。


 でも……のんびり眺めている訳にはいかない。上空の爆撃機が浮上したガーデンを捉えて攻撃体勢に入るに違いない。私はネットカメラの前で懸命に訴え続ける。


【お願いです。爆撃を中止して下さい!! あの中に、私の大事な人が!!】

 しかしその思いもむなしく私達の頭のすぐ上を爆撃機が旋回しながら北上していく。

「くそっ、一旦北に回って、爆撃コースを合わせるつもりね。鏡矢君、あと数分で脱出出来るかしら」千早のその言葉に、いたたまれなくなったのかマイカが立ち上がって私の脇に入って来た。


【あの皆さん! 私、マイカって言います。アイドルグループ、ミネルバの元センターやってました。サクヤヒメ様観てますか? 私、無事です。ここまで風花さんや鏡矢さんと来られたんです! 偉いでしょ? あのひ弱なマイカがここまでやったんですよ! ですから……ですからどうか……私の大好きな……私が愛した鏡矢さんを助けて下さいっ!!】


 あらら。この子、こんな所で愛の告白しちゃったわ。鏡矢見てるかしら? 見てたら喜んだかな。でもまあ逃げるので精いっぱいかな……ああ。もうだめだわ。北側から爆撃機がゆっくり南下してくるのが見える。あのまま来たらガーデンの真上を通るわね……鏡矢……。


【……あの人に告げる勇気を……愛した人と共にある喜びを……】

 何? マイカがいきなり歌いだした。これって……昔、ミネルバが歌ってたヒット曲よね。

 でも……さすがにトップアイドル。プロよね。すごく綺麗な好き透った歌声。千早も明さんも、周りにいる第三台場のスタッフ達も……みんな眼を閉じて耳を澄ましている。

 

 その静寂の中、グオーーーンと爆音を響かせながら、爆撃機が一直線にガーデンに向かって行った。


 ◇◇◇


「こっちでいいんですか?」

「ああ。たしかその林を抜けたところに外への通用口があるはずだ」

 ガーデンの地図はあらかた孝由さんの頭の中に入っているはずで、彼()の指示で俺とヴェロニカさんも後に続いてビオトープを走り抜けていく。


「あっ、あそこです。あの扉を越えれば!」

 孝由さんが駆け寄り、扉を開けようとするがビクともしない。

「あれ? さっき、管理者権限で全ての扉は開錠したはずだが?」

「違うぞ孝由。この扉は電子錠ではない! みろ。ただの物理的な金属錠だ! どこかに鍵があるんじゃないか?」

「ええっ? そんな……それは盲点……」


【警告。当ガーデンは攻撃機の通過ラインに入りました。間もなく攻撃を受ける可能性があります。住民の皆さんは速やかにガーデン外に避難を開始して下さい】

 管理AIの一斉放送がむなしくビオトープ内に響き渡る。


「それが出来ないから苦労してるんじゃないか!」

 俺は半ば自暴自棄になってその場に大の字で寝ころがった。それを見たヴェロニカさんも孝由さんも地面に座り込んだ。

「もはやこれまで……ですかね?」

「運が良ければ助かるかもな」

 孝由さんとヴェロニカさん。ああしていると、まるで戦友みたいだな。

 ヴェロニカさんが通信機で何かを話している。どうやら最終連絡とか言ってるみたいだな。


 するとヴェロニカさんが、突然通信機を俺に放り投げたので慌ててキャッチする。そしてそこから聞こえて来たのは……


【いますぐ会いたい……貴方がほしい……私の全てを受け止めて……】

 あれ、これマイカさんだ。マイカさんが唄ってる。何て綺麗な歌声なんだ。

 そう言えば、須坂で処刑されそうになった時、ミネルバのライブを聞いたっけな。最後にこれが聞けて……俺は幸せ者かも知れないな。なんたって、風花様も両親も無事だったんだ。やるだけの事はやったし……もう思い残す事はないかな。


 そう思っていたらヴェロニカさんが呟いた。

「鏡矢。これ……マイカのお前への愛の告白じゃないか?」

「えっ?」


 ああそうか……マイカさん。俺の事好いてくれてたんだ。いまさらだが、あの時エッチしとけばよかったかな……思い残す事……やっぱあったわ。


 そんな俺の頭上に、爆撃機のエンジン音が響いた。



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