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最終話 再生への道

 私達の思いもむなしく、爆撃機がガーデンの上空に差し掛かる。私達のカメラも北米船団のカメラもその情景をはっきり捉えて全世界に発信し続けている。それなのに須坂は全くためらわないんだ。サクヤヒメ様はどういうおつもりなのか、ここからでは知る由もない。


「ああ。弾薬庫が開いた……鏡矢君……」

 明さんがボロボロ泣きながらもしっかりカメラを向けている。これから起きる事を正確に伝える事が使命なのだと感じているのかも知れない。


「いやぁーーーーーーーっ。鏡矢さーーーーーーん!!」

 マイカの絶叫が東京湾にこだました。


 だがその時、南の空から一筋の光の矢が走った!

 そしてそれは、みごとに爆撃機に突きささり、ものすごい爆音とともに大きな火球となって四散した。


「何? 落雷!?」私は訳が分からず眼を見開いて硬直した。

「……違うわよ風花。あれ……対空迎撃ミサイルよ。多分……」

「ミサイル? そんな。一体どこから。北米の護衛空母はあんたが沈めて……」

「風花様。ネットにメッセージが上がっています!」明さんが叫ぶ。


「明さんどうしたのよ?」千早と私が慌てて明さんに駆け寄り、彼が手にしていたタブレットを覗き込むと、そこにはこう書かれていた。


『我々はマイカ嬢と鏡矢氏の恋愛を支持する。 C国代表』


「えっ、これって……千早。もしかしてこれ……」

「そうよ風花。C国が……大国が動いたのよ!」


「あっ、風花様千早様。またメッセージが……ER連合です。彼らもマイカさんと鏡矢君の恋愛を支持すると!」

「やったよ千早……私達やったんだよ。勝ったんだ……ああ、鏡矢ぁ―――」


 私はもう涙を止める事が出来なかった。

 そして世界のあちこちの国と地域から同様の支持が集まりだした。


「あの……ですが風花さん。なぜC国もERも、ガーデンとイブ・メイカーでなく、私と鏡矢さんを支持するって言っているのでしょうか?」

 マイカが不思議そうな顔で私に尋ねた。


「ああマイカちゃん。それはね……現時点でイブ・メイカーを明確に支持する根拠がまだないからかな。国内の意見もすぐにはまとまらないだろうしね。そっちの話合いはまあこれからだよ。でもあなたの鏡矢君への愛は本物だって世界が認めて、それを根拠にこの件への介入を決めたんだよ。あなたの愛の唄が世界を感動させたって事だ。アイドルとして誇っていいんじゃない?」

 私に替わって千早が説明してくれた。

「……そうなんですね……うれしい」


「でもさ……世界が鏡矢とマイカを認めちゃったら私、マイカに鏡矢を寝取られた事にならない? ぐすんっ」

「あーあー風花。まずは鼻水拭きなよ。でもいいんじゃない? これからの世界、多分一夫一婦制なんてクソくらえだよ! 私も鏡矢君のハーレムに入れてもらおうかな」


 千早が飛びぬけた笑顔でそう言った。


 ◇◇◇

 

「そうか……わかった。後の事は任せる。とりあえずこっちに救援隊をまわしてくれ」外との連絡を終え、ヴェロニカさんが俺の方を向いた。

「我々は、どうやらC国に助けられた様だ。まったく、どこに潜水艦を潜ませていたんだか……だがまあそのお陰で首がつながっていて、こうして話が出来ている訳だが……一番いい所をあの国に持っていかれてしまったな。護衛空母だけでなくミサイル駆逐艦位持って来ておけばよかった」

「でも……これで世界は話し合いに向けて舵が切れるでしょうか?」

「多分な。まあ結果がどうなるかはまだ判らんが……少なくとも一部の国が好きに出来る状況ではないな」


「須坂は……日本はどうなるでしょうか?」

「別に鏡矢が気にする必要はないと思うが……まあ護衛空母の事はきっちり賠償請求させていただくだろうし、これから我が国といっしょに世界の中で肩身の狭い思いをするのだろうな」


「ああ。救援隊来たみたいですよ」

 孝由さんが言うまでもなく、扉の向こう側で機械工具の音がしている。

 ああ、もうすぐみんなに会えるんだ!



 ◇◇◇


 ガーデンが浮上してから四か月後の真夏のとある日。各国の代表がガーデンに集結した。


 第一回ガーデン運営委員会が開催されるのだ。ヴェロニカさんの予言通り、どの国が優位とかではなく参加国が持ち周りで議長を務めるとの事で、ガーデンとイブ・メイカーの運用の事はもちろん、その他の地域間格差や交流の事も話し合う場となるみたいだ。昔で言うところの国連みたいな感じなのかとも思う。

 

 日本代表として元高崎荘領主の千早さんが出席したのだが、須坂のサザレイシ女官長はあの爆撃機騒ぎの際、脳溢血で倒れていたらしく、事態にうまく対処できなかったサクヤヒメ様は自ら引退を宣言され、リハビリ中のサザレイシさんといっしょに軽井沢に身を寄せ草津温泉に引っ込んでしまったらしい。結局、吹っ飛ばした空母のツケは千早さんが自分の責任で支払う事になったと言う訳だ。

 

 風花様と孝由さんは、貴重なイブ・メイカーのサンプルであり先駆者でもある為、今後、ガーデンの管理者の一人として運営に携わり、ここで生活して行く事が決定している。あのアダム・ロウの呪いについては孝由さんが世界中の研究者と協力しながら解明を進めるのだろう。それまでは風花様の言っていた通り、イブ・メイカーも必要に応じて使っていくはずだ。


 そして俺ももちろんガーデン勤務だ。世界が俺とマイカさんが幸せになる事を認めちゃったので、当然マイカさんもいっしょだ。だが別に風花様と別れたっていう話でもなく、風花様、マイカさん、孝由さんが俺のパートナーとして共同生活している感じになった。


 孝由さんが風花様モデルを使っちゃった為、風花様がイブに体を返してあげられない事を悔やんでいたけど……イブには本当に申し訳ないと思うが、それもどこかで気持ちに決着を付けないといけないかも知れない。もう俺達の独断でイブ・メイカーを使う事は出来ないのだから。

 

「鏡矢様。お茶をお持ちしました」

「ありがとうタチバナさん」

 タチバナさんは、俺に助けられたことを大変恩義に感じて、わざわざおしかけ女中としてガーデンに来てくれた。もちろん風花様といっしょに暮らせる事もうれしいのだろう。


 そしてなぜかヴェロニカさんも、北米から技官として派遣され、このガーデンにいる。俺、結構あの人に気に入られているみたいだ。


 えっ? 皐月さんはどうしたかって?

 実は……彼女もガーデンにいる。彼女、町田で結構わがままに暮らしていて下の人達の評判も悪かったみたいで、事ここに及んで行き場が無かったと言うのが正直な所で、俺に泣きついてきて、仕方なく雇ってあげ、タチバナさんの下働きにしたのだ。娘さんもいっしょなのだが、この娘さんはとっても可愛くて……母親みたいにならない様、皆で育てようって風花様が言ってる。ちなみに俺の両親はまた町田に戻って新しい領主様の手伝いをする事になっている。


「あの……鏡矢様。ちょっとよろしいですか?」皐月さんがにじり寄ってくる。

「な、なんですか皐月さん? 動きが怪しいですよ」

「実はぁ……出来ちゃったみたいです!」

「出来ちゃったって……何が?」

「もう……あれですよ、あれ……赤ちゃん!」

「ええっ!? 何言ってんですか! 俺、あなたとエッチな事してませんよね?」

「あーそれはいつでも大歓迎なんですけどぉ……出来たのはマイカちゃんです! 覚えが無いとは言わせませんよ。鏡矢さん週の間、マイカちゃん、風花、孝由さんって、二日づつとっかえひっかえ……あと一日ありますから是非私をそこに……」

「いやそれはもう遠慮しておきますって……って、えーーーーっ!? マイカさんが妊娠?」

「はーい。出産経験がある私が言うのだから間違いありません。あれはつわりです! 女の子だったらいいですね」

「そっか……でも男でも女でも、無事に生まれて成長してくれるのが親としては一番うれしいですよね」

「それは……本当にそうですね」

 

 そう。普通に愛し合って、時に子供を授かって、そうして社会がつながっていく。一度は壊れてしまったそんな当たり前の事が、当たり前に幸せに感じられる様な世界を目指して俺達は足を止めては行けないよな。


 そんな事を考えながら、俺はマイカさんを労いに向かうのだった。


(終)



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