第61話 爆撃機
浮上時の衝撃に備え、俺達三人は最初に入った独房に避難した。やはりここが一番頑丈で安全なんだそうだ。ヴェロニカさんがさっきから通信機で北米艦隊とやりとりをしている。アダム・ロウ資料館では、階層が深すぎて、さすがの軍事用でも電波が届かなかったみたいだ。
「ああ、そうだ。今、管理権限を確保した。一刻も早く、本国からガーデンの管理宣言を……何!? 何だそれは……ふっ、はははははは。まったく何て事をしてくれるのだ! ネット回線をこちらに回せるか?」
ヴェロニカさんが何かを指示し、その後、自分の端末画面を俺に向けて見せてくれた。
「どうやら風花は無事らしいぞ」
「えっ!?」
あわてて画面を見ると、確かにいつものネット画面に風花様のケモミミが映っている。ああ……よかった。何が起きているのか分からないけど……生きててくれて本当に良かった。
ヴェロニカさんが端末のスピーカーをONにし、風花様の声が聞こえてきた。
【もうすぐガーデンが浮上するはずです。今、富津の警戒カメラの映像をお届けしています】
画面には、風花様が隣にある海面が映ったモニタを指さしているのが判った。
「風花は一体何を?」孝由さんが不思議そうな顔で問う。
「ガーデンの存在をネットでアピールして、イブ・メイカーを守ろうとしているんじゃないだろうか。まったく……これでは北米が後から管理宣言しても世界は認めまい」ヴェロニカさんが苦笑いをしている。
「あのヴェロニカさん。俺……風花様と連絡が取りたいんです! 俺の無事を伝えたいんです!!」
「うん。悪くない作戦だ。北米が最初から風花達と連携していた様に取り繕える」
「いや。作戦じゃなくてですね……」
「ははは。冗談だ」そう言ってヴェロニカさんが通信機で何かを指示し、俺にそのまま手渡してくれた。
【えっ!? ほんと? 本当に鏡矢なの!?】
懐かしい風花様の声が聞こえ、俺は思わず涙する。
「はいっ! よかった。風花様が無事で本当によかった……」
【あー、鏡矢さん。私も無事ですよー】あれっ? マイカさん?
【ははは。鏡矢君。僕もここにいるんだよ。進さんも高崎で無事だよ!】
ああ……その声は……明さん。こりゃ一体何が起こったんだ? もしかして俺はもう死んじゃってて、天国でみんなに会っているのか?
【鏡矢。感動の再会はとりあえず後回しね。事は急を要するの。あんた今、ガーデンの中でしょ? 浮上を延期したり出来ない?】
「はっ? 何でそんな事を……俺は一刻も早く、みんなと会いたいですよ!」
【違うのよ! 須坂の爆撃機がガーデンを狙ってる!! いや。ここも危ないんだけど……私達は、ライブ映像の配信だけこのままにして、一旦避難しようかと思うんだけど……そのまま浮上したら恰好の餌食だよ!】
「そうなんですか!?」
……
「いやー。さすがに無理だよ鏡矢君。これだけ大きいものに急ブレーキなんてないさ」
孝由さんが悲観的に言う。
「ふん。護衛空母を排除したのが裏目に出たな」
ヴェロニカさんが皮肉っぽく笑う。
「風花様。とにかく今からでも須坂に働きかけて攻撃中止を!」
【それはとりあえず千早がやってる。そっちもヴェロニカがいっしょなんでしょ? 彼女にも働きかけてもらって!!】
◇◇◇
「宗主様。北米より、ガーデンの管理権限を掌握したので速やかに爆撃機の攻撃中止命令をとの事です。後の事は別途話合いでと言う事なのですが」
女官のその報告にサクヤヒメは色を失う。
「そんな事言われても、サザレイシでないと……あれは無人機で、攻撃命令を出したサザレイシのパスワードでないと指令を解除出来ないのよ!」
しかし倒れたサザレイシの意識はまだ戻っていないのだ。
すでに千早と風花のネット放送を見た住民達で、須坂の荘内も騒然としている。幸い、高崎に対抗すべく陸兵は集めてあったので、上田で足止めを食らっていたその兵達を至急須坂の治安維持に回したのだが……。
須坂の兵が引いたのを見た軽井沢の夏子領主が「うちも早いところ荘に戻らないと、これから何が起こるか分からないわね」と呟いた。
同じ頃。早朝に高崎の急襲を受け制圧された町田のパレスで、軟禁状態の皐月領主がなかば呆然としながら、千早と風花の放送を眺めていた。
「何でこんな事になっちゃったんだろ……私、どこで間違えちゃったのかな……」
「己の利ばかり見て、人の心にちゃんと向き合わなかった報いです。そう言う点であなたは最初から領主失格だったのですよ」そう言いながらタチバナが、皐月にそっとお茶を出した。
◇◇◇
【全世界のみなさん。町田の元領主でイブの風花です。先ほど、第三台場が爆撃され、島ごと陰も形もなくなりました……ああ、中の人は全員無事です。私達は羽田の岸辺から中継を継続しています。もう間もなくガーデンが海上に浮上すると、中にいる私の旦那から連絡があったんですよ! もうあきらめていたんですが生きていてくれた……ですが、このままだと、ガーデンが浮上したとたん本当にお別れになっちゃいます。お願いですサクヤヒメ様! 後生ですから爆撃だけは中止して!!】
私は何度も須坂に呼びかけるが、第三台場を破壊した爆撃機はそのまま東京湾上空を旋回している。サクヤヒメ様、マジで怒ってるんだろうな。でもまあ、あのババアもか。千早が護衛空母を沈めた事に文句の一つも言いたいところだが、千早もまさか須坂があんな爆撃機を隠し持っているとは想像していなかったのだろう。突出した兵力優位をなくせば世界が話し合いに応じるだろうという見通しだったのに……ガーデン浮上予定海域の映像は、北米船団が引き継いで配信をはじめてくれている。まあ、これは須坂の所業を生中継して、後で自分達が有利に立ち回ろうと言う魂胆なのかもしれないが。
「でもこれ……本当にまずいですよね? このままじゃ、鏡矢さん。本当に死んじゃう……」
マイカが消え入りそうな声でつぶやくが……私だって泣きたいよ。これでガーデンも鏡矢も失ったら、作戦失敗なんてもんじゃないわ!
「ああ。いよいよ浮上してくるみたいですよ!」明さんがネット画像を見て叫ぶ。
覗きこむと確かに海面がものすごく泡立って来ているのが判った。
ああ。爆撃機はガーデンが浮上した所を狙い撃ちにするのだろう。
お願い神様。鏡矢をお守り下さい!!




