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第56話 第三台場

「何ですって? 町田が裏切っているですって!?」

 高崎荘の千早領主から通信でそう告げられた須坂の宗主サクヤヒメは声を失った。


「千早。それは間違いないのだな!? もし違っておればタダではすまんぞ!」

 サザレイシのばあさんが怒鳴っているが、まあ問題ない。

「はい女官長。風花から皐月に替わってなんだか動きが怪しいなと思って、ずっと内偵していたのですが……どうやら皐月は北米のヴェロニカと結託し、イブ・メイカーという物の独占を目論んでいるのではないかと……」

「ううむ。あいつならやりかねん。そんな頭は無いと思っておったが、ヴェロニカにそそのかされたか!?」

 あー。皐月さん、やっぱり信用無いわねと、千早は心の中でせせら笑う。


「それで宗主様、女官長様。このまま北米船団に東京湾に入られては、北米に二心があった場合手遅れになります。なのでせめて町田を制圧出来ればと思うのですが……よろしければ、高崎と軽井沢に荘兵の出兵許可をお願いします。私も軽井沢の夏子領主も、こうした時の為の準備は怠っておりません!」


 千早の言葉にサクヤヒメはどうしていいかわからず、サザレイシにどうしましょうと問う。

「確かに北米船団に二心があった場合、町田が敵だとするとすぐに上陸され橋頭保になってしまいます。逆に町田を押さえておけば、第三台場と協力して水際で北米船団を食い止められましょう。ですが本当に北米が掌を返すのか……あの時のヴェロニカの嫌悪感は本物だったと思うのですが……」

「その後、本国側で何か有ったのかも知れません。至急、北米やヴェロニカ執行官と連絡を取って確認を。それから、高崎と軽井沢には荘兵の出兵を許可します。速やかに町田の皐月を拘束し、荘を制圧して下さい」


「かしこまりました宗主様」


 そう言って千早からの通信が切れ、高崎側では「よっしゃあっ!! 第一段階クリア」と、千早が大きな声で叫んだ。


 ◇◇◇


「でもマイカ。本当について来て良かったの? って言うか、これ言うの二度目だね」風花さんがすまなそうに私に言う。

「大丈夫です。ここまで来たら私も最後まで見届けたいですから」

「まっ、そうよね。あんたはこれまでも頼りになる仲間だったし、多分これからも頼る事がありそうだし……」

「はい風花さん。二人で頑張って、鏡矢さんをアシストしましょう!!」

「いやいや。私もここにいるんだけど」

 実は今回、高崎領主の千早さんもいっしょなのだ。

 

 私達は、鏡矢さんのお父さん。明さんが運転する車で東京湾に向かっている。

 その目標は、須坂の管理する軍事施設。第三台場。ここを制圧する事で、北米と須坂の動きをけん制するのが私達の目的なのだ。


 高崎の千早さんは、須坂の指示通り、荘兵を町田の制圧に向かわせ、自身は私達に同行している。そして軽井沢の夏子さんは、こちらの動きを察知した須坂が兵を出そうとしてもすぐに動けない様、上田の関所の封鎖に当たってくれる予定だ。


 もちろん北米が荒事に出ず鏡矢さんといっしょに風花さんの方針で動くのなら何も問題はないのだが……町田の皐月さんは、まあちょっと可哀そうかな。


「明さん。どのくらいで着く?」風花さんが尋ねる。

「今は都心一体が吹っ飛んで海底に水没していますから、羽田経由で周り込みます。あと三時間位ですが、夜になるので丁度いいかも知れません」

 風花さんも明さんも、第三台場に入った事があるのだそうだ。そもそもあそこの施工や保守は、主に町田の仕事だったらしく、裏口まで知ってると笑っていた。でも……一応、軍事施設なのよね?


 羽田沖を眺めると、辺りの開けた海の真ん中にポツンと島がある。それが第三台場。でもそこまでは細い橋が一本あるだけで、車で近づいたらすぐに発見されてしまうだろう。なので……ああ、やっぱり泳ぐのね。


「マイカ泳げるの? ダメだったらここで待ってた方がいいわよ」風花さんはそう言うが、泳ぎは自信がある訳ではないけどそれなりにいけるし、だいたいこんな所で一人で待っているのは嫌だ。


「このまま橋脚の下を行きます。裏口も橋の下なので、まあ見つからないと思いますよ」と明さんが自信ありげに言うので、信用してそのままついていったらちゃんと第三台場の施設内に入る事が出来た。

「うっわ。さぶっ!!」千早さんが震えながら身体についた水を(ぬぐ)っている。まだ四月だから海水もかなり冷たかった。だけどここで立ち止まってはいられない。


「それじゃ……制圧にかかるわよ!!」風花さんの号令で、私達は建物の奥に進んだ。

 

 ◇◇◇


 ピーーッ。

 ヴェロニカさんが持っていた無線機が鳴り、何か外と会話している様だ。

「鏡矢。明日の朝には、北米船団が東京湾に入るぞ。そうなればまあガーデンは一安心だ。ガーデンの浮上までそう日数も無いとは思うが、それまでに出来るだけ管理を掌握したい」

「管理者権限は孝由さんが持ってると思いますので、俺が行けば問題無いと思います」

「だといいがな。それにしてもかなり揺れるな……」

「地面掘ってるんですから仕方ありませんよ」


 もう十二時間以上、二人で密着しているせいか、ヴェロニカさんがあかの他人ではなく、何か旧来の友人の様にも思えて来ている。この人、ほんと男性みたいに豪快だよな。俺の眼の前で平気で採尿袋使うし……。

 

 そんな感じでじっとしていたら突然ガタンとカプセルが下に落ちる間隔があったが、どうやら下も水の様で、それほど衝撃はなく、カプセルが一旦静止した。

 デリバリーカプセルが横に進みだし、どうやらガーデン内に入った様だと判る。

 五分ほど横移動した後、カプセルがしっかり固定された感触があり、そのままハッチが開いた。


 ああ、ここだ。最初に俺達が乗って来て、刺客に破壊されたカプセルがそのまま転がっている。何だかすごく懐かしい様な気がするな。


【ジェンダー雌雄の存在を確認。ガイドAI起動します】

 ああ。このアナウンスも前といっしょか。そういえば俺とヴェロニカさんも男女ペアだ。


「ガイ。久しぶり。俺の事覚えているか?」

【パネルに掌を乗せ生体認証をお願いします……お帰りなさい。佐々木鏡矢様。引き続き、そちらの女性の認証をお願い致します】

「私は初めてだが……」

【それでは住民登録を開始します】

 AIの指示でヴェロニカさんが住民登録を済ませた。

「ここで住民登録すると管理者に通知が行くんですよ。今ので僕らが到着した事が孝由さんに伝わると思いますよ!」

「そうか……それではガイドAI。私達を管理者の所へ案内してくれないか?」


【……フェータルエラー。一般住民の管理者への面会は許可されていません】

「なんだって? ああそうか。不審な奴がまた侵入してくるかもって防御してるんですよ。おいガイ。俺だって孝由さんに伝えてくれ。そう言えばわかるはずだから」

【承認待ち……エラー。佐々木鏡矢さんの申請は、管理者によって却下されました】


「おい鏡矢。これは一体どういう事だ?」

「分かりませんよヴェロニカさん。多分、まだ警戒を解いていないんだと思うんですけど……とりあえず行けるところまで行ってみましょうか。俺の姿が見えれば多分会ってくれますよ」

 そのまま進んでとりあえずビオトープには入れたのだが、居住区への侵入は許可されず、無理に入ろうとすると防御機構の威嚇射撃を受けた。


「ああ。どうしちゃったのさ孝由さん! 俺は戻って来たんだ。イブ・メイカーを稼働させて人類をリセットする為に帰ってきたんだよーーーーーーーっ!!」

 俺の叫び声が、ビオトープ内に、むなしく響き渡った。



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