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最終話.翔ちゃん


最終話.翔ちゃん


大きなトラックが数台、下にとまっていて。



最後の荷物を積み終えて、それらが走り出すのを窓から見とどける。



そのあと急いで靴を履き、外の廊下へと飛び出した。




真夏の昼だった。



私は勢い良く階段を駆け下りる。




突然の転勤だったと、お母さんが教えてくれた。



私が昨日はじめて知ったことにひどく驚いていたようで。



翔ちゃんからは、自分で伝えたいから私には言わないで欲しいと頼まれていたらしい。



金曜日の夕方、翔ちゃんはきっとこのことを言おうとしてたんだ。



――何言うか忘れちった――



夕焼けに染まった、あのオレンジ色の背中が頭の中をよぎる。



ごめんね、翔ちゃん。


私、何も知らなかったよ。




何度か階段から滑り落ちそうになりながらも、なんとか下まで着くと、翔ちゃんが車に乗り込もうとしているのが目に入った。



「翔ちゃん!」



その声が聞こえたようで、翔ちゃんがこちらを振り返る。



思い切り地面を蹴って走った。


髪が乱れたって、そんなことどうでもいい。



待って。


まだ行かないで。



少しだけでいいから。



もう顔も見たくないと言われたけれど。



それでも。



最後に、お願い。



全てを、聞いて欲しいの。




「相模・・・」



翔ちゃんの前まで走っていくと、翔ちゃんは少し驚いたような顔をしていた。



「翔ちゃん、ごめ、ん。来るなって、言われたのに」



ゆっくりと息を整える。



その間に翔ちゃんは、ぷいと後ろを向いてしまった。



「翔ちゃん、私ね菊池くんに告白されたの」



「・・・」



「好きだって、付き合ってほしいって言われた」



顔が見えなくて、どんな表情をしているのかわからない。



「私、もう菊池くんと付き合っちゃおうかって、何度もそう思った」



その言葉に、翔ちゃんがぴくりと反応する。



「でもね、できなかった」



ぎゅっと、こぶしを握る。



「私、翔ちゃんのことが好きなの」



ずっと閉まっていた気持ちは、口にするとひどくあっさりとしていて。



さらりと、風が攫って行ってしまいそうなくらいに。



「・・・なんで」



「・・・?」



「・・・なんで今、そんなこと言うんだよ」



言葉が、出なかった。



ごめんって言わなきゃ。



頭ではわかっているのに。



翔ちゃんからのその否定の言葉は、もうずっと前から目に見えていたことじゃない。



だから、大丈夫。



今は、泣いちゃだめ。


泣いちゃだめよ、奈緒。



「土曜、金井と遊んだ」



「・・・え?」



いきなりそのことを話し出した翔ちゃんに、なんて返せばいいかよくわからなかった。



「他の女とも、今まで数え切れないくらい遊んできた」



「・・・」



「そのときに考えるのは、いつも、忘れなくちゃいけないって」



翔ちゃん?



「でも、無理だった。忘れることなんてできなかった」



何を、言っているの?



「金井のときも、他の女のときも」



よく、わからないよ。



ゆっくりと、翔ちゃんがこちらへ振り返った。



「頭に思い浮かぶのは、奈緒、お前のことばかりだったよ」



翔ちゃん。


それは、どういう意味なの?



翔ちゃん。


私、まだうまく理解できない。



でも。


久しぶりに聞いた、翔ちゃんの『奈緒』と呼ぶ声が、あまりにも優しくて。



泣いちゃだめって、そう決めてたのに。



歩いてきて、翔ちゃんが私の前に立つ。



向かい合う、私と翔ちゃん。



「翔ちゃん」



「ん?」



「私は、翔ちゃんのこと、好きでいてもいいの?」



翔ちゃんは静かに微笑んで、優しく私の頬に手をあてた。



「奈緒」



翔ちゃん。



「俺は、ずっと奈緒のことが好きだった」




ねえ、好きだよ。



誰よりも、何よりも、あなたが好き。



ずっと伝えられなかった気持ち。



溢れる涙は止まらないけれど。



でも、私は今、こんなにも幸せなの。




「一人前になって、しっかりした大人になったら、必ず迎えに来るから」



「うん」



「だからその時まで待ってて欲しい」



「うん・・・!」



待ってるよ。


ずっとずっと、待ってるから。



その後翔ちゃんは、指きりの代わりに、キスを一つ私にくれた。




走り出した白いセダンは、徐々にスピードを増していって。



到底追いつけないのに。



私は見えなくなるまで走り続けた。




後ろの窓から身を乗り出して手を振る翔ちゃんは、もしかしたら少しだけ泣いていたのかもしれない。




でも、これは『さよなら』じゃないから。



だからきっと、私たちなら平気だよ。





ねえ、翔ちゃん。



私たちはまだ子供で。


よく分からないことの方がずっと多くて。



私と翔ちゃんが一緒にいた時間は、これから生きていく長い人生の中の、ほんの一欠片だったのかもしれない。



でも。


それでも。



幼さの残る私たちが、不器用で、悩んだり泣いたりしながらも、やっぱり好きだって想ったこの気持ちは、この気持ちだけは、きっと本物だったから。



私は信じてる。


私たちは、これからもっともっと幸せになるって。




だから。



ね、翔ちゃん。




               

 おわり





どうも、木村よしです☆

『翔ちゃんによろしく』を最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます!


続けるっていうことが苦手な私ですが、最後まで連載できたのは、本当に読んでくださった皆様のおかげです。

ありがとうございます!


よしはこれからも小説を書いていきたいなって思っています。

なのでこの作品に対して、感想や批評や駄目だしなど、一言でも二言でも、もう厳しすぎるお言葉でも、もうなんでもいいので書き込んで頂けると、これからのよしの励みになり、力になります。


なので書き込んでください笑。


この作品を読んでくださった方々にとって、奈緒と翔ちゃんが少しでも親しみのもてる子になってくれたなら、それ以上に幸せなことはありません。


『翔ちゃんによろしく』を読んでくださって、本当にありがとうございました!


これからも、木村よしと、そして『翔ちゃんによろしく』を、どうぞ暖かく見守ってやってください・・・☆ミ

 

          木村よし。

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