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「待って頂戴?
だとしたら 何だか おかしくない?
姫巫女様が召喚されたのは、15年位前の話だもの。
いくら 外見が幼く見えても………その頃 貴女は、いくつだったのよ」
チェルシーは、真剣な表情を浮かべて 呟いた。
その発言に マチルダとヴィクターにリリアーヌも、ハッとしている。
けれど 他のメンバーは、何か 察しが付いているらしい。
ただ だからこそ 不安の色を隠せていない様子だ。
「こちら側にも 色々と事情があるんですよ。
まだ 確証のない段階なので 我々以外の面子に知られるわけにもいきません。
ですので 察して頂きたい」
クラリスは、厳しい口調で 言い放った。
そして その間も 他の王子の従者達の視線は、椅子に座ったきり 黙り込んだままの旅の少女に向けられている。
「我々は、貴女に危害を加えるつもりなどありません。
ただ 今の状況では、貴女の存在そのものが 国を揺るがすものになってしまう可能性があるのです。
今………この国は、他国と戦争中であり 不審な者は、何の証拠もなく 死されるのが、当たり前となっているのですよ?」
丁寧な口調の顔を隠している 男は、ティナの前に膝をつく。
「おいおい………ケヴィン?
そんな遠まわしな言い方をしても 話すとは思えないぞ?
ここは、強気でいった方が………」
気性の荒そうな騎士の男が、呆れ返っている。
けれど もっと 呆れているのは、女騎士のクラリスだった。
「お前のやり方は、一番 遠まわしなんだよ、ジャック。
話を聞いている間に 口説き出すでしょう?
彼女の場合は、そういう手に乗らないだろうけど 今までのことを考えると 立場が悪くなるのは、間違いないんだから」
今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうになっている 2人に 王太子は、冷たい視線を注ぐ。
それを受けて クラリスとジャックは、黙り込んだ。
「詳しい事情は、話せません。
今は、まだ 真実を語る時ではないので」
ティナは、そう答えて 再び 口を閉じてしまう。
何が何だか分からない面々は、顔を見合わせるしかない。
「話さないということは、肯定 と 取ってもいいわけだな?
ならば お前の身柄は、こちらで預からせて貰うぞ?」
レイナードは、そう言うなり 少女を無理やり立たせ 腕を掴んだ。
ティナは、突然のことに目を見開いていたが すぐに抵抗しようともがくものの 相手の男の方が、上手だったのか 動くこともままならなくなってしまう。
側近達は、危惧していたことを目の当たりにして 深く溜息をつく。
王太子のぶしつけな言葉とその行動に マチルダとチェルシーは、信じられない気持ちだ。
リリアーヌも、不安そうに ブライアンに視線を向けている。
「ちょっと それは、聞き捨てならないね?!
どういう事情があるのかは、知らないけど 抵抗している女の子を、そんな風に扱うだなんてね?」
「その通りだわ?!
いくら 王太子殿下といえども その行動は、許されることではないものッ!」
母と妻の発言に慌てたのは、王太子側の事情を知っていると思われる ディックだ。
「レイ王子………そんなに 彼女の監視が必要なら………我が領地に来賓として 迎えてもよろしいでしょうか?」
緊迫した空気の中に 陽のような温かな声が、響き渡った。
振り返ってみると マリアが、満面の笑みを浮かべている。
隣に控えている カインも、妻の提案に大賛成らしい。
「それは、いいな?
マリアの知人となれば お前んとこの狸共も、下手に手を出せない。
うちの領地は、色々な他民族も移住しているから 詮索されることもないだろう。
変な噂に踊らされているのは、ティナ嬢だって ごめんだろうしな?
何かあるんなら 王子サマの信頼できる 侍女でも送り込んでくればいいことだし」
その言葉に レイナードは、唇を噛んでいる。
王太子の心境を知っているのか 側近達は、顔を見合わせるばかり。
「だったら………私を侍女として 雇って頂きたいわ?!
どういう事情があるにしても こんな風に関わった ティナが、何かの策略に使われるのを心配するだけなんて とんでもない事なんですものッ!」
チェルシーは、訝しげな表情を浮かべて 立ち上がった。
突然の宣言に ディックは、目を剥いてしまう。
急いで 母に視線を向けるものの 反対するどころか 目を輝かせているのを目の当たりにしてしまい 嫌な予感が脳裏によぎる。
「さすがは、我が嫁ッ!
言わなければ 私1人ででも そう叫ぶつもりだったんだよ。
私は、若い頃 王宮で下っ端だったけど メイドをしていたしね?
料理だって 腕には、自信があるし………雇ってほしいよ」
「俺も、心配だから 一緒がいいな?
テリーの面倒は、ちゃんと見るつもりだし………力仕事とかは、任せてください」
弟の発言までも聞き ディックは、その場で項垂れてしまっていた。
そんな男の様子に 仲間達は、同情するしかない。
「出来れば………リリアーヌ姫様も、ご招待したいのですけれど よろしいでしょうか?
姫様の身の安全の為にも………」
マリアの言葉を聞いて 目を見開いたのは、ブライアンだった。
リリアーヌも、キョトンとしてしまっているらしい。
「忘れているかもしれねぇけど………さっきの騒ぎで リリアーヌ姫が生きていることが、バレちまった。
折角 見知らぬ土地で 頑張っていたところに悪いが あいつの部下の中には、王が忍び込ませた 密偵もいる。
王の耳に入るのは、間違いない。
そうなれば 確実に 王宮に連れ戻され 前よりも 酷い扱いを受けることになるぞ?」
カインの警告めいた発言に ブライアンは、無言で頷く。
「わかった………カイン 2人のことは、頼む。
ディックとブライアンは、そちら側の警備の指揮を取ってもらう。
こちらからは、ミュリエルを侍女として送る」
レイナードの決定事項に カインが、”げっッ!”と 嫌そうな顔になった。
「あいつを、こっちに送るだと?!
俺んとこの領地を食料不足にするつもりか?
あの女の胃袋は、無限なんだッ!
確かに 護衛としても侍女としても 申し分ないかもしれない。
だ・け・ど なぁ?
その他は、論外だッ!
あの破壊力で 屋敷の歴史ある 食器や壺が、破壊されたと思っている?」
「ならば クラリスも付けよう。
ミュリエルの暴走を止められるのは、クラリスくらいだ」
レイナードは、そう言って 甲冑を身に纏った 女騎士を指差す。
「尚更 駄目だッ!
ミュリエルの被害は、なくなるかもしれないが ジェイミーとの喧嘩の余波で 屋敷が大荒れになるじゃないか!!」
「あら………どうして 私がいくとなると そうなることが、前提になるのよ」
クラリスは、納得がいかず 眉根を細めた。
けれど ジャックは、大笑いしているし ケヴィンも、含み笑いをしている。
そんな2人を睨み返し 女騎士は、若き領主を睨んだ。
「昔からそうだろう?
とにかく 送り込んでくるんなら………ミュリエルだけでいい。
被害は、なるだけ 少ないに越したことはないから」
カインの言葉に マリアは、苦笑気味。
「殿下………あまり 夫を苛めないで下さい。
でなければ ルゥさんに報告しなければいけなくなってしまいます。
殿下が、女性に対して 無作法な物言いと行動を取った と」
それを聞いて レイナードは、押し黙る。
「奥方………頼むから ルーネットには、内緒にしてほしい。
すまなかったな カイン。
送るのは、ミュリエルだけではなく シエルもつけるつもりだ。
奴なら ミュリエルの暴走を、最小限に抑えられるはずだから」
折れた 主の様子に 側近達は、微笑ましげに見つめているらしい。
ティナは、そんな展開を見つめながら 小さく溜息をついた。
結局 自分の意見さえも聞かれずに 決まってしまったのだから。
少女は、そして 胸元に輝く紅い石を指でなぞっていた。




