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「王子サマ?
彼女の言葉に同感だぜ、オレは」
その声に振り返ってみると 馬に乗ったままで近づいてくる一団の姿が見えた。
声を発したであろう男は、すぐに連れを馬の上に残したままで 飛び降りる。
「何を膨れた顔をしているんだ?
本当のことを言って どこが悪い?」
男は、フードを取ると どこか意地悪そうな笑顔を見せ付けた。
「ブライアン………確かに 領地に向かってくれるよう頼んだ。
だが こいつを連れて来いとは、言ってない」
レイナードの言葉に ブライアンと呼ばれた大柄な男は、肩を竦めてしまっているらしい。
けれど 妻と友人一家の心配そうな視線を感じて 微笑む。
「話を聞いただけでは、詳しくは説明できないとおっしゃられたんですよ。
実際に実物を見てみないと 確証を持てないから……… と」
ブライアンは、見るからに 困り果ててしまっている。
「おいおい………こいつは、悪くないぞ?
俺が、無理やり付いて来たんだからな?
まぁ マリアは、連れてきたくなかったんだけど 」
「あら………私は、何と言われようが 来るつもりだったわ?
もしも 連れて行ってくれないのだったら………ジェイミーに頼むつもりだったもの」
クスクスとフードを脱ぎ去りながら悪戯っ子のように舌を出す少女の発言に 男は、険しい表情になってしまう。
「あいつだけは、絶対に駄目だッ!
お前だって あの男には、色々ととんでもない事に引き込まれたじゃないか。
元々 マリアが、あそこから出ないといけなくなったのだって あいつの陰謀だったわけだし」
「あら?
あの事件がなければ 私は、一生を 神殿で過ごさなければならなかったんじゃないの?
貴方とも 出会うこともなかったことになるんだけど」
その発言を聞いて 男は、言葉を詰まらせてしまっているらしい。
「おい………夫婦喧嘩は、違う場所でやってほしいんだが?」
レイナードは、呆れたように 溜息をついた。
ハッとしたように 2人が、辺りを見回してみると 周りにいる皆も、何とも言えない様子で 顔を見合わせている。
「とにかく 娘………お前は、こっちに来い。
村の皆さん ご迷惑を掛けました。
家に戻っていただいて 結構ですよ。
あの男が宣言していた提案は、無効ですから ご安心ください」
王子の高らかに響き渡った声色に 人々は、嬉しそうに顔を見合わせた。
けれど ティナと関わったマチルダ達は、気が気じゃない様子だ。
そんな家族の様子に ケヴィンとブライアンは、何か戸惑いを隠せていない。
※~※~※~※~
ティナは、村の集会場に連れてこられた。
集まっているのは、レイナード殿下に側近や騎士達と先程 突如としてやって来た目立つ容姿の夫婦。
後は、心配で付いてきてくれた マチルダとリリアーヌだ。
「さて………本当のことを話してもらおうか」
レイナードは、少し低めの声を出す。
どこか威圧感のある様子に マチルダは、息を呑み リリアーヌも、神妙な表情を浮かべている。
ただ 当事者であるティナは、そんな空気に呑まれることなく ニッコリと微笑んでいるだけ。
「ちょっと声色を変えただけで 相手が口を割るとでも思っておられるのですか?
私は、今まで旅の中で 様々な体験をしてきましたから………別に何とも思いませんよ?
あるとすれば 貴方の印象が悪くなるだけではないでしょうか?」
少女の発言に 王子の側近達が、吹き出すのを必死で堪えた。
そんな彼らの様子に レイナードは、睨みつける。
「王子サマ?
彼女は、本当に一筋縄じゃいかないぞ?
俺だって 梃子摺ったんだからさ?」
カインは、ケラケラ笑いながら 当たり前のように受け取ったお茶を飲み干していた。
そんな夫の様子に マリアは、溜息をついてしまっているらしい。
「ねぇ………あの後 どこを旅していたの?
貴女のお陰で 解決したのに………お別れの言葉も言わせてくれないまま いなくなってしまっていたでしょ?
ずっと 貴女のことを探していたのよ?」
マリアは、黙り込んだままのティナの前に進み出る。
「あまり 目立ちたくなかったのよ。
それでなくても 変な噂が飛び交っていたし」
ティナは、どこか拗ねたように 呟く。
2人の会話を聞いて マチルダは、不思議そうに首を傾げた。
「あんたらは、以前からの知り合いだったのかい?」
その質問を受けて ティナは、肩を竦めたが マリアは、背筋を伸ばして微笑んだ。
「申し遅れました。
私は、マリア………マリア-サカキ・シュワルツと申します。
ティナとは、ある一件で関わった大切な友人です」
「サカキ?
随分と変わったミドルネームだねぇ?」
マチルダは、目をパチクリさせながら 首を捻る。
マリアは、そんな疑問を持っている彼女に ”そうですか?”と 反対に不思議そうな顔を浮かべていた。
「ああ………こちらの世界では、珍しいのかもしれませんね?
サカキっていうのは、本当の意味じゃ 苗字に値するんですけど」
ニコニコと語る少女に マチルダは、驚きを隠せない。
「アンタ………まさか 異世界から召喚された姫巫女サマだったのか?
フムフム 召喚の儀式に参加していたある領地の息子っていうのが、今の旦那さんだったわけだね?」
その言葉を受けて マリアは、フフフと笑っているようだ。
「色々とありまして 巫女としての責務は、必要ないとのことなんですけどね?
権限だけは、生きているんで 時々 使わせてもらっているんです。
今回は、一番上の息子が、仕事を引き継いでくれているので 夫共々 こちらに足を運ぶことが出来たんですけど」
「驚いたなぁ~?
ティナ………アンタ 凄い人と知り合いだったんだねぇ~?」
ティナは、その言葉を受けて 何も答えない。
だが レイナード達は、何かを待っているかの如く 沈黙を守っていた。




