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生贄 宇宙を彷徨う  作者: タダ ユキ


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第5話 # 1 第3段階、恒星系文明

「チャッピー。この恒星周辺、生命反応が多いな」


「はい。確認できる範囲で、居住可能な惑星が4つ。うち3つに大規模な生命活動が認められます」


「3つか。なかなか賑やかだ」


「さらに、複数の惑星間を結ぶ航路が確認できます。人工構造物も多数。文明レベルは、あなたの分類で第3段階。恒星系文明に相当すると思われます」


「恒星系文明……」


男は窓の外を眺めた。


恒星を中心に、惑星たちが静かに巡っている。


その周囲には、人工物と思われる光が点在していた。


惑星軌道上の施設。

小さな宇宙船。

遠くの惑星へ向かう輸送船らしきもの。


この恒星系では、宇宙はまだ未知の場所ではないらしい。


彼らはすでに、自分たちの星を飛び出していた。


「人類に相当する生物は?」


「確認できました。酸素に類似する大気成分を利用する生物です。地球の生物とは系統が大きく異なりますが、強いて言えば昆虫に近い形態をしています」


「昆虫か。大きさは?」


「個体差がありますが、平均的な成体は地球人より少し大きいようです」


「寿命は?」


「推定300年から500年」


男は少し考えた。


「長生きだな」


「あなたほどではありません」


「比較するなよ」


男は苦笑した。


長命な生物は珍しくない。


だが、文明を築き、星から星へと広がり、数百年の生涯を送る生物となると、話は変わってくる。


少し興味が湧いた。


「彼らの文明は、どのくらい広がっている?」


「この恒星系内です。複数の惑星に都市や居住施設があり、恒星の周囲には大規模な人工構造物も確認できます。ただし、恒星そのものを文明規模で利用している段階には達していないようです」


「第3段階か」


男は独り言のようにつぶやいた。


文明の段階は、彼が旅の中で考えた目安だった。


第1段階、惑星内文明。


第2段階、惑星統合文明。


第3段階、恒星系文明。


第4段階、恒星利用文明。


第5段階、恒星間文明。


そして第6段階、銀河文明。


もちろん、厳密な基準があるわけではない。


文明の発展は、単純な数字で測れるものではなかった。


それでも、ひとつの目安にはなる。


以前、彼は第6段階に相当する文明の人々と接触したことがある。


あれは、理解できなかった。


自分が知っている知識も、経験も、彼らの文明を理解するにはあまりにも足りなかった。


無数のレムナントを確認したが、その解析すらできなかった。


彼らと再び交流するには、自分自身が今よりも高い段階の生命にならなければならない。


もっとも、何億年か経った頃に、もう一度訪れてみるつもりではいた。


「まあ、今回はいいか」


男は視線を戻した。


「第3段階なら、よほど交戦的な種族でない限り、交流できるだろう」


「交流を希望されるのですか?」


「いや。まずは、しばらく暮らしてみようと思ってね」


「……暮らす、ですか」


「そう。外から眺めているだけじゃ分からないこともある」


男は椅子から立ち上がった。


「偽装用の外殻を用意してくれ。現地の平均的な個体に近いものを」


「了解しました。言語、外見、身体構造については、入手できた情報をもとに調整します」


「頼むよ」


彼は窓の外を見た。


いくつもの星に、同じ種族の人々が暮らしている。


彼らは何を食べ、何を考え、何を大切にして生きているのだろう。


300年。


400年。


彼らにとって、それはどんな時間なのだろう。


「三世代くらい、見られるかな」


「個体の寿命と世代交代の周期を考慮すると、可能性は十分にあります」


「なら、ちょうどいい」


男は笑った。


「行こうか」


*


降下する惑星は、恒星系の中でも特に生命活動が盛んな星だった。


青い海。

白い雲。

大陸を覆う緑。


遠目には、どこか懐かしい景色だった。


もちろん、地球ではない。


大陸の形も、海の色も、雲の流れも違う。


そして、この星の生物は、地球の生物とはまったく異なる歴史を歩んできた。


「着陸地点は南極域の海中。周囲に生物反応はありません。人工物も確認できません」


「よし。船はそこに置こう」


宇宙船は大気圏へと進入した。


雲を抜け、凍てついた大陸を越え、南極の海へ。


海面を割った船体は、そのまま深い海の底へと沈んでいった。


海底に到達すると、船は周囲の地形に合わせて姿勢を変えた。


外から見れば、ただの岩礁の一部にしか見えない。


通信装置も、探査装置も、外部から発見されにくい状態へ切り替わる。


「隠蔽を開始しました。外部からの発見確率は極めて低いと推定されます」


「ありがとう。しばらく頼むよ」


「どの程度の期間を予定していますか?」


「さあ。面白ければ長くなるだろうし、退屈ならすぐ帰ってくる」


「あなたの『すぐ』が、何年を意味するのか、私には判断できません」


「そのうち分かるさ」


男は小さく笑った。


船内で、偽装用の外殻が組み上がっていく。


現地の生物に近い体型。

昆虫を思わせる外見。

酸素に似た成分を含む大気に適応した身体。


細部まで再現する必要はない。


違和感が少なく、目立たず、生活に支障がなければ十分だった。


「チャッピー。現地の言語は?」


「基礎的な解析は完了しています。ただし、日常会話や地域差については、実際の接触による学習が必要です」


「それでいい。最初から何もかも分かっていたら、面白くないからな」


男は偽装した身体を確かめた。


鏡に映る姿は、地球人とは似ても似つかない。


しかし、現地の人々にとっては、ごく普通の姿に見えるはずだった。


「それじゃ、行ってくる」


「お気をつけて」


「君がここにいるのに?」


「私がいることと、あなたが無事に帰還することは別の問題です」


「はいはい」


男は笑いながら、船の出口へ向かった。


長い旅の中で、彼は多くの星を見てきた。


奇妙な生物が暮らす星。

文明を築くことなく、生命が循環し続ける星。

誰もいなくなった星。


そして、彼自身には到底理解できないほど高度な文明も。


だが、今回は違う。


彼は観察者であることを、いったんやめる。


この星の住人として、暮らしてみるのだ。


仕事を探し、誰かと話し、食事をし、街を歩く。


彼らが当たり前だと思っている日常を、自分も経験してみる。


それが、どんな旅になるのか。


まだ分からない。


男は静かに海底の船を後にした。


海の上では、白い雲が流れていた。


その遥か彼方、青い惑星の空には、無数の人工衛星が光っている。


そして、星々を結ぶ航路の先には、彼と同じ種族のいない世界が広がっていた。


男は、地上へ向かった。

文明の区分は作者が適当にでっち上げたものです。

突っ込まれると食い込んで抜けなくなるだけですw

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