↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄 宇宙を彷徨う  作者: タダ ユキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/10

第4話 生命質量転換仮説

生命質量転換仮説


――俗称、生贄理論


地球の滅亡まで、残された時間は10年。


それは、誰にも覆せない結論だった。


科学者たちはあらゆる可能性を検討し、各国の政府は対策を講じ、莫大な資金と人材が投入された。


それでも、結果は変わらなかった。


人類だけではない。


動物も、植物も、微生物も。


地球に生まれ、長い年月をかけて進化し、繁栄してきた生命のすべてが、まもなく終わりを迎える。


人類は宇宙への移住を試みた。


しかし、数十億もの人間を移住させることなどできない。まして、地球上に存在する無数の生物を、すべて別の星へ運ぶことなど不可能だった。


冷凍保存、人工生命、遺伝情報の記録。


考え得る方法は、ことごとく検討された。


だが、遺伝情報を保存することと、生命そのものを存続させることは違う。


記録された設計図が残ったところで、それを再び生命へと戻せる保証はない。


時間だけが過ぎていった。


そんな絶望的な状況の中、一人の科学者が、誰も考えつかなかった仮説を提唱した。


生命質量転換仮説。


生命を構成する物質を、未知の変換過程によって膨大なエネルギーへと転換する。そして、そのエネルギーを特定の器へ集約し、生命が持つ情報と可能性を失わずに保存する。


理論上、それが可能ならば。


地球上の全生命を、一つの存在に集約できる。


無数の生命を個別に保存する必要はない。


一つの器さえあればいい。


ただし、実現するためには、生命の質量を転換するだけでは足りなかった。


集約したエネルギーを保持し、それを自在に制御できる器が必要だった。


そして、その器は生命でなければならない。


無機物では耐えられない。既存の機械では制御できない。人工的に作られた容器では、生命の持つ複雑な性質を維持できない。


必要だったのは、エネルギーを内包し、保存し、必要に応じて行使できる存在。


一人の人間だった。


それも、ただの人間ではない。


生命質量転換仮説を成立させるために、理論のすべてを受け止められる特別な器。


科学者は研究を重ね、試行錯誤の末に、その実現方法を見つけ出した。


それは、あまりにも途方もない計画だった。


地球上の全生命を、一人の人間に託す。


人間も、動物も、植物も、目に見えない無数の生命も。


地球が生み出したすべての命を、たった一人に集約する。


その人物こそ、科学者の息子だった。


なぜ一人なのか。


複数の人間に分散すれば、エネルギーの制御が難しくなる。生命を分けて保存すれば、滅亡後にそれらを再び集める保証もない。


一つの器にすべてを託す。


それが、生命を未来へ繋ぐための最後の方法だった。


人々は、やがてこの仮説を別の名前で呼ぶようになる。


[生贄理論]


地球上の生命を犠牲にして、一人の人間を生かす理論。


そう聞けば、確かにその通りだった。


だが、本当の意味は違う。


一人を生かすために、すべての生命を犠牲にするのではない。


すべての生命を未来へ繋ぐために、一人に託すのだ。


それは、ノアの方舟に似ていた。


ただし、箱はない。


船倉もない。


無数の生物を乗せる必要もない。


方舟そのものが、人間だった。


そして、その方舟には、行き先がなかった。


地球は滅びる。


主人公は宇宙へ旅立つ。


いつか生命が再び繁栄できる星を見つけるために。


それまでの間、地球が生み出したすべての生命は、一人の人間の内側で眠り続ける。


彼は人間の姿をしている。


食事も、睡眠も、呼吸さえも必要としない。


途方もないエネルギーを内包し、その力を使えば、普通の生命には不可能なことさえ実現できる。


全能の存在にも見えるだろう。


だが、彼は神ではない。


地球上の生命が託された、ただ一人の人間にすぎない。


彼が宇宙を彷徨う理由は、世界を支配するためでも、未知の力を試すためでもない。


ただ、生きる場所を探している。


地球が失われた後も、生命が存在し続けられる場所を。


父親が生み出した、あまりにも馬鹿げた方法で。


それでも確かに、生命を未来へ繋ぐための方法を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。