第3話 地球型惑星
その星は。
地球に、よく似ていた。
青い空。
白い雲。
広い海。
陸地には、緑が広がっている。
宇宙を長く旅していると。
こういう星に、時々出会う。
「大気組成は?」
「窒素70%。酸素22%。二酸化炭素0.08%。その他、アルゴン、水蒸気など」
「水は?」
「液体の水が広範囲に存在します」
「気温は?」
「平均17℃ 地域差があります」
「湿度は?」
「かなり高いです」
男は窓の外を眺めた。
「……地球みたいだな」
「大気、温度、水の存在。いずれも地球に近い条件です」
「生命が生まれやすいんだろうな」
「その可能性は高いです」
男は少し考えた。
「じゃあ、人間が住める?」
「推奨しません」
「だよな」
船内のシミュレーターに、次々とデータが表示される。
未知の細菌。
未知のウイルス。
未知の微生物。
空気中。
土壌。
水。
至るところに存在している。
地球の生物とは、あまりにも違う生命体系。
男はしばらく画面を眺めていた。
「大気を吸っただけで?」
「生命活動に重大な影響を与える可能性があります」
「やっぱりか」
男はシミュレーターを閉じた。
「似てるだけなんだな」
「はい」
それが。
この星だった。
地表には、植物のような生物がいた。
太陽の光を浴び。
大気中の二酸化炭素を取り込み。
光合成によってエネルギーを得る。
水分は。
高い湿度の大気から吸収している。
そして。
土から養分を取るための器官もあった。
根。
ただし。
それは地球の植物とは違っていた。
細長い触手のような形をしている。
土へ突き刺し。
そこから養分を吸収する。
そして。
彼らは動く。
ゆっくりと。
だが確実に。
歩くように。
地面を移動していた。
「植物なのに歩くのか」
「植物型生命体と分類するのが適切です」
「まあ、そうだよな」
彼らは一年に一度。
花を咲かせる。
雄株と雌株が花粉を交換する。
そして。
種を残す。
ごく普通の植物のように。
ただ。
普通ではないことが一つあった。
彼らには。
知能があった。
男はしばらく観察した。
彼らには集団がある。
小さな集落。
大きな集落。
そして。
もっと大きな社会。
言葉もあった。
道具もある。
簡単な建物も作る。
役割分担もしている。
文明。
そう呼んでもいい程度には。
彼らは文化を築いていた。
「天敵は?」
「過去には存在したようです」
「今は?」
「確認できません」
どうやら。
彼ら自身が。
長い時間をかけて根絶させたらしい。
「植物も、動けるようになると争うんだな」
男は呟いた。
移動できる。
それは。
競争できるということだった。
より日当たりの良い場所。
より肥沃な土地。
より多くの水分。
より多くの栄養。
良い場所を取る。
悪い場所を追われる。
そして。
争いが生まれる。
「なるほどな」
男は地表を見下ろした。
「移動できるって、自由なことじゃないんだな」
チャッピーは答えなかった。
男は。
小さな株たちを観察することにした。
大木の周囲では。
激しい争いが起きていた。
大きな株ほど。
多くの光を必要とする。
多くの栄養を必要とする。
だから。
良い土地を巡って争う。
一方。
小さな株たちは。
比較的穏やかだった。
数本が集まり。
互いに協力している。
狭い土地でも。
少しずつ場所を分け合う。
日が当たる場所を。
順番に譲り合う。
そうしなければ。
子株は死ぬ。
十分な光を浴びられなければ。
すぐに枯れてしまうからだ。
だから彼らは。
集まった。
協力した。
小さな株たちだけの。
小さな邑を作った。
やがて。
邑が増える。
統率する者が生まれる。
役割が生まれる。
文化が生まれる。
そして。
国になる。
男は。
その先にあるものを想像した。
国と国が。
土地を奪い合う。
そして。
戦争になる。
「……やっぱりそうなるのかな」
「現時点では不明です」
「だよな」
男は。
ある小さな株に目をつけた。
発芽してから。
5年ほど。
多年草のような生態を持つらしい。
うまくいけば。
20年ほど生きる。
まだ若い。
小さな株だった。
男は。
数年かけて彼らの言葉を解析した。
発音はできない。
だから。
通訳はチャッピーに任せることにした。
そして。
ある日。
その小さな株の前に立った。
「こんにちは」
チャッピーが。
彼らの言葉に変換する。
小さな株が。
動きを止めた。
怯えている。
周囲の株も。
ざわめいている。
「まあ、そうなるよな」
自分たちの世界には。
存在しない生物。
二本の足で立ち。
自由に歩き。
植物ではない。
そんな存在が。
突然目の前に現れたのだ。
怖いに決まっている。
男は。
少し離れて座った。
そして。
持ってきたものを置いた。
「これ」
チャッピーが伝える。
「肥料」
小さな株が。
警戒しながら近づいてくる。
男は。
土に少量の肥料を混ぜた。
しばらくすると。
小さな株が。
それを吸収した。
そして。
驚いた。
「……美味しい?」
「そのようです」
小さな株は。
もっと欲しいと伝えてきた。
男は笑った。
「じゃあ、交換だ」
それから。
少しずつ。
会話が始まった。
この星のこと。
植物たちのこと。
彼らの歴史。
社会。
そして。
争いについて。
小さな株は言った。
大木たちは。
争いを好む。
より多くの光が必要だから。
より多くの栄養が必要だから。
身体が大きい。
だから。
必要なものも多い。
そして。
大木同士の争いに。
小さな株たちも巻き込まれる。
「君は?」
男が聞いた。
「争いは嫌い?」
小さな株は。
しばらく黙っていた。
そして。
答えた。
光を浴びたい。
肥沃な土地で暮らしたい。
仲間と静かに暮らしたい。
それだけだと。
男は。
少し笑った。
「人間と変わらないな」
小さな株には。
意味が分からなかった。
ある日。
小さな株が。
一つの株を見ていた。
綺麗な花を咲かせる株だった。
何度か。
自分の花粉を受け取ってもらった。
そして。
種ができた。
けれど。
芽は。
なかなか育たなかった。
日が足りない。
栄養が足りない。
他の大きな株に。
場所を奪われる。
芽は。
すぐに枯れてしまった。
一度。
二度。
三度。
そのたびに。
2つの株は悲しんだ。
自分たちが。
もっと強ければ。
もっと良い土地を取れれば。
もっと光があれば。
この子は。
生きられたのに。
小さな株は。
自分の弱さを嘆いた。
男は。
その話を聞いた。
そして。
言った。
「俺が手伝おうか」
小さな株が。
動きを止めた。
「君たちが望む場所を。
俺が確保する」
「その代わり」
男は続けた。
「レムナントを探すのを手伝ってほしい」
この星のレムナントは。
まだ見つかっていなかった。
地下深く。
あるいは。
どこかの大地の奥。
これまでの星とは違い。
生命活動があまりにも激しい。
地形も複雑だった。
さらに。
この星は。
巨大だった。
通信も。
レーダーも。
生命反応の検出も。
まともに機能しない場所が多い。
だから。
見つからない。
男なら。
その全能者たる力で探そうと思えば。
すぐに見つけられる。
だが。
それはしなかった。
自分を。
ただの旅人として。
彼らと接していたかった。
そして。
大木たちを排除することも。
簡単だった。
男にとっては。
ほとんど問題ではない。
だが。
それでは。
彼ら自身の歴史を。
奪ってしまう。
小さな株たちは。
しばらく話し合った。
そして。
答えた。
「断る」
男は。
少し驚いた。
「どうして?」
小さな株は言った。
争いは嫌いだ。
大木たちにも。
死んでほしくない。
たとえ。
自分たちが苦しくても。
だから。
手伝えない。
男は。
その答えを聞いて。
しばらく黙った。
「……甘い世界だな」
小さな株には。
意味が分からない。
男は笑った。
「まあ、いいか」
立ち上がる。
「自分で探すよ」
それから。
30年。
男は。
この星を彷徨った。
山を越え。
海を渡り。
地下へ潜り。
空から探し。
時には。
星の反対側まで行った。
そして。
ようやく。
見つけた。
地中深く。
巨大な岩盤の下。
青い光が。
静かに灯っていた。
レムナント。
男は。
しばらく見つめた。
「……やっとか」
チャッピーが。
情報を読み取っていく。
「この惑星の地質情報」
「大気」
「生命活動」
「生態系」
そして。
「生命進化に関する情報を確認」
男が。
顔を上げた。
「生命進化?」
「はい」
「何か分かる?」
「まだ解析中です」
「そっか」
男は。
レムナントを見つめた。
生命のある星には。
必ず。
これがある。
誰かが置いたのか。
自然に生まれたのか。
誰かが。
生命を配っているのか。
それとも。
もっと別の理由があるのか。
男には。
まだ分からない。
地球という星の。
最後の1人。
ゼロであり。
全でもある自分にも。
それだけは。
分からなかった。
宇宙船へ戻る。
男は。
シートに身体を預けた。
「なんか疲れたな」
「30年間の滞在でしたから」
「そうじゃなくて」
男は。
窓の外を見た。
地表には。
まだ。
小さな株たちがいる。
あの株も。
あの綺麗な株も。
もう。
見えない。
「……あいつら、結局枯れてしまったな」
チャッピーは。
少し間を置いて。
答えた。
「はい」
男は。
しばらく黙っていた。
「まあ」
小さく息を吐く。
「仕方ないけど」
宇宙船が。
ゆっくりと上昇する。
青い星が。
少しずつ遠ざかる。
地球によく似た星。
青い空。
白い雲。
緑の大地。
そこでは今日も。
植物たちが。
光を求めて争っている。
ある者は。
土地を奪い。
ある者は。
譲り。
ある者は。
争いを拒み。
ある者は。
ただ。
静かに生きる。
男は。
星を見つめた。
「……似てるな」
「はい」
「でも」
男は。
小さく笑った。
「地球じゃない」
船が。
時空膜へ入っていく。
青い星が。
光の中へ消えていく。
そして。
また。
男は。
次の生命を探す旅へ戻った。
創造力がない貧しいボキャブラリーの身としては、
オリジナルとして書いても、どうしても影響を受けている作品の色が出てしまいますよね。
植物には過去天敵がいたが、今はいないと言う部分は正にそうでして、
ジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐ者」に出てくる異星人の逸話と、期せずして同じとなりました。
なんかどっかでこの設定見たよな…と言う事は今後も多々有るかとは思いますが、
作者が咀嚼し消化した言葉として受け取って頂ければ幸いです。
もしも文体まで同じになってしまった場合はお知らせください。無くはないと思いますので。




