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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第97話 最初に選んだもの

――四日目。


朝。


目を覚ますと。


窓の外に、雨が降っていた。


「……雨か」


俺は。


しばらく窓を眺めていた。


雨を見るのは。


久しぶりだった。


いや。


正確には。


この世界に。


雨という現象が生まれたのは。


たぶん。


今日が初めてだ。


「お兄ちゃん」


後ろから。


声がする。


「ん?」


ミナが。


眠そうな顔で。


立っていた。


「何してるの?」


「雨を見てる」


「雨?」


「そう」


ミナは。


窓まで歩いてくる。


そして。


外を見る。


「……冷たそう」


「たぶんな」


「触ってみたい」


「じゃあ」


俺は。


窓を開ける。


冷たい水滴が。


一粒。


ミナの手に落ちた。


「……!」


ミナが。


目を丸くする。


「冷たい!」


「だろ?」


「でも」


ミナは。


笑った。


「綺麗」


「……ああ」


空から。


無数の水が。


落ちてくる。


昨日まで。


なかったもの。


それが。


今日。


生まれた。


世界が。


変わっている。


時間が。


世界を。


少しずつ。


変化させている。


「……」


俺は。


雨を見ながら。


ふと思う。


変化する自由。


第十七原則。


もしかしたら。


この世界は。


今。


その原則を。


覚えている途中なのかもしれない。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「雨って」


「明日も降るの?」


「分からない」


「……」


ミナは。


空を見る。


「じゃあ」


「明日は」


「晴れるかもしれない?」


「ああ」


「じゃあ」


「明日が楽しみ」


「……」


その言葉に。


俺は。


笑った。


「そうだな」


未来は。


決まっていない。


雨が降るか。


晴れるか。


誰にも。


分からない。


だから。


明日が。


楽しみになる。


――。


朝食の時間。


いつものように。


みんなが。


集まっていた。


「雨だね」


アリアが。


窓の外を見る。


「ああ」


「畑、大丈夫かな?」


カイが。


言う。


「昨日植えたばかりだぞ」


「……」


「たぶん」


「大丈夫」


ソアが。


言う。


「雨は」


「空が」


「水を」


「落としてる」


「それなら」


「植物には」


「必要なんじゃない?」


「なるほど」


カイが。


頷く。


「じゃあ」


「俺たちも」


「雨を」


「受け入れるか」


ユラが。


小さく。


笑う。


「終わりも」


「雨も」


「嫌われる必要はない」


「……」


ユラらしい。


言葉だった。


ノアは。


窓を見ながら。


パンを。


頬張っている。


「ノア」


「ん?」


「食べながら喋るな」


「んー!」


「何言ってるか」


「分からない」


「んんー!」


みんなが。


笑う。


俺も。


笑った。


その瞬間。


――カチ。


どこかで。


時計の音がした。


「……?」


俺は。


顔を上げる。


「今」


「何か聞こえなかった?」


アリアが。


聞く。


「時計?」


「うん」


でも。


この家に。


時計はない。


世界にも。


時計は。


まだ。


一つしかない。


時間の外側にある。


あの巨大な時計。


「……」


もう一度。


――カチ。


今度は。


はっきり。


聞こえた。


「世界樹……?」


俺たちは。


外へ出る。


雨の中。


世界樹の下へ。


行く。


すると。


そこに。


一本の。


小さな木が。


生えていた。


「……?」


昨日までは。


なかった。


まだ。


背丈は。


俺の腰ほど。


葉も。


少ない。


けれど。


幹の中央に。


小さな。


丸い実がある。


透明な実。


その中に。


何かが。


入っている。


「……」


俺は。


近づく。


実の中。


そこには。


紙が一枚。


入っていた。


「紙?」


リクが。


首を傾げる。


「誰が」


「こんなものを?」


俺は。


実に。


手を伸ばす。


触れた瞬間。


実が。


光った。


そして。


空中に。


文字が浮かぶ。


四日目


その下に。


もう一行。


最初に選んだもの――「待つ」


「……」


俺は。


息を呑む。


昨日。


時間の外側の少女が。


選んだ言葉。


「待つ」。


それが。


こちらの世界に。


現れた。


ミライが。


驚く。


「時間の外側で」


「選んだものが」


「こっちに」


「届いた?」


「たぶん」


俺は。


実を見る。


「でも」


「どうして?」


その瞬間。


世界樹の黒い実が。


揺れた。


透明な目が。


開く。


『記録』


「……」


『四日目』


『最初の選択』


「最初の選択?」


『彼女は』


『初めて』


『自分の意思で』


『世界へ』


『何かを』


『送った』


「……」


アリアが。


実を見る。


「それが」


「この『待つ』?」


『そう』


「……」


俺は。


考える。


「待つ」。


一見すると。


何もしない。


でも。


違う。


待つということは。


「今は」


「進まない」


と。


自分で決めること。


誰かに。


進ませられるのではない。


止められるのでもない。


自分で。


「今は待つ」


と。


選ぶ。


それは。


立派な。


意思だ。


「……」


俺は。


実に。


手を当てる。


「ありがとう」


遠く。


時間の外側で。


少女が。


こちらを。


見ている気がした。


――。


その日の午後。


雨は。


少しずつ。


弱くなった。


そして。


夕方。


空に。


虹が出た。


「……」


俺たちは。


みんなで。


外に出た。


七色の光が。


空に。


架かっている。


「綺麗……」


セリアが。


呟く。


ハネが。


空を。


見上げる。


「飛んで」


「くぐってみたい」


「危ないぞ」


俺が。


言う。


「でも」


ハネが。


笑う。


「いつか」


「飛べる」


「……そうだな」


俺は。


空を見る。


この世界には。


まだ。


名前のないものが。


たくさんある。


雨。


虹。


時間。


歴史。


そして。


これから。


生まれてくるもの。


「……」


その時。


リオが。


俺の隣に。


立った。


「レオン」


「ん?」


「俺」


「少し」


「分かった気がする」


「何が?」


「生きるって」


「……」


「新しいものを」


「毎日」


「知ることなんだな」


「……」


俺は。


笑った。


「そうかもしれない」


「昨日まで」


「雨なんて」


「知らなかった」


「今日」


「知った」


「明日は」


「何を」


「知るんだろう」


「……」


その言葉に。


俺は。


胸が。


温かくなるのを感じた。


「そうだな」


明日。


何が起きるか。


分からない。


それでいい。


――。


夜。


みんなが。


眠った後。


俺は。


世界樹の下に。


座っていた。


日記を。


開く。


今日の一行。


――四日目。


――雨が降った。


その下に。


少し。


考えてから。


書く。


――世界は、昨日とは違っていた。


ペンを置く。


すると。


背後から。


声がした。


「……雨」


「……!」


振り返る。


そこに。


あの少女が。


いた。


銀色の髪。


白い服。


透明な瞳。


「……来たのか?」


少女は。


頷く。


「少しだけ」


「どうやって?」


「分からない」


「……」


「気づいたら」


「ここに」


いた。


「時間の外側から?」


「うん」


「時間の中に」


「入れた?」


少女は。


自分の手を見る。


「……少し」


「まだ」


「完全じゃない」


「でも」


「雨を」


「見たかった」


「……」


俺は。


笑った。


「初めて見るのか?」


「うん」


少女は。


手を。


伸ばす。


雨の水滴が。


指先に。


落ちる。


「……冷たい」


「だろ?」


「でも」


少女は。


微笑む。


「好き」


「……」


「雨」


「好き?」


「うん」


「どうして?」


少女は。


空を見る。


「空が」


「泣いてるみたいだから」


「……」


俺は。


少し。


驚いた。


「悲しい?」


「ううん」


少女は。


首を振る。


「雨が降ったあと」


「虹が出るから」


「……」


「だから」


「泣いてるんじゃなくて」


「変わってるんだと思う」


俺は。


何も。


言えなかった。


それは。


まさに。


第十七原則。


変化する自由。


少女は。


まだ。


名前を持っていない。


でも。


確かに。


自分で。


何かを。


感じ始めている。


「……」


少女が。


俺を見る。


「レオン」


「ん?」


「私」


「一つ」


「決めた」


「何を?」


少女は。


胸に。


手を当てる。


「私は」


「これから」


「自分で」


「好きなものを」


「選ぶ」


「……」


「雨」


「空」


「本」


「時間」


「そして」


「いつか」


「名前も」


「……」


俺は。


笑う。


「いいと思う」


「うん」


「でも」


「一つだけ」


「何?」


「名前を」


「決める時は」


「誰かのためじゃなく」


「自分のために」


少女は。


しばらく。


俺を見る。


「……うん」


その時。


少女の身体が。


少しだけ。


透けた。


「……!」


「大丈夫か?」


「うん」


「時間の外側に」


「戻らないと」


「……」


「今日は」


「ここまで」


「そっか」


少女が。


一歩。


下がる。


「レオン」


「ん?」


「ありがとう」


「何が?」


「待つことを」


「選んでいいって」


「教えてくれた」


「……」


少女は。


笑った。


そして。


消えていく。


最後に。


小さな声。


「おやすみ」


「おやすみ」


光が。


消える。


俺は。


しばらく。


そこにいた。


すると。


世界樹の枝が。


揺れた。


黒い実が。


開く。


中から。


一枚の紙が。


落ちてくる。


俺は。


拾う。


そこには。


新しい文字が。


書かれていた。


五日目の前に


最初の訪問者が来る。


「……?」


訪問者?


誰だ。


俺が。


紙を裏返す。


裏には。


さらに。


一行。


その者は、未来からではない。


「……」


「過去から?」


その瞬間。


世界樹の根元。


地面が。


光った。


――ドン。


「……!」


空気が。


震える。


大地が。


割れる。


でも。


何かが。


出てくるわけではない。


割れた地面の奥から。


古い。


鐘の音が。


響いた。


――ゴォォォン。


一回。


――ゴォォォン。


二回。


――ゴォォォン。


三回。


そして。


四回。


五回。


六回。


……。


音が。


止まる。


俺は。


耳を澄ます。


「……」


遠くから。


足音。


一つ。


二つ。


三つ。


ゆっくり。


こちらへ。


近づいてくる。


俺は。


立ち上がる。


「誰だ?」


返事は。


ない。


闇の向こう。


雨上がりの森から。


一人の男が。


歩いてくる。


長い黒髪。


古びた白い服。


手には。


壊れた時計。


そして。


胸元には。


一本の。


古い鍵。


「……」


男が。


俺を見る。


そして。


驚いたように。


目を見開いた。


「……レオン」


「……誰だ?」


男は。


苦しそうに。


笑う。


「そうか」


「まだ」


「俺のことを」


「知らないんだな」


「……」


「無理もない」


男は。


自分の胸に。


手を当てる。


「俺は」


「お前が」


「最初の世界を」


「始める前に」


「捨てた時間だ」


「……!」


「お前が」


「忘れた」


「最初の」


「一日目」


俺は。


息を呑む。


「……最初の一日目?」


男は。


頷く。


「お前たちが」


「世界を」


「始める前」


「まだ」


「時間すら」


「なかった頃」


「俺は」


「一度だけ」


「存在した」


「……」


「そして」


「お前が」


「世界を選んだ瞬間」


「消えた」


俺は。


男を見る。


その姿。


声。


何かが。


胸の奥を。


刺激する。


知らない。


なのに。


懐かしい。


「お前は」


「誰なんだ?」


男は。


しばらく。


黙った。


そして。


鍵を。


握りしめる。


「名前は」


「まだ」


「決めていない」


「……」


「でも」


「一つだけ」


「伝えに来た」


「何を?」


男は。


俺の目を。


まっすぐ。


見た。


「レオン」


「お前が」


「今」


「生きている世界は」


「最初の世界じゃない」


「……」


「最後の世界でもない」


「……」


「その間にある」


「一つの」


「時間だ」


「……」


「だから」


「気をつけろ」


男の顔から。


笑みが。


消える。


「時間は」


「始まっただけじゃない」


「――戻ることもある」


その瞬間。


男の持っていた時計が。


突然。


動き出した。


――カチ。


針が。


逆方向へ。


動く。


「……!」


男が。


顔を上げる。


「来る」


「何が?」


「最初の」


「時間」


「……」


世界樹が。


激しく。


揺れ始める。


黒い実が。


割れる。


透明な目が。


大きく。


開く。


そして。


初めて。


その目が。


恐怖を。


見せた。


『記録停止』


「……!」


『記録停止』


『記録停止』


『記録――』


声が。


途切れる。


世界から。


音が。


消える。


雨も。


風も。


虫の声も。


何もない。


静寂。


俺の心臓の音だけが。


聞こえる。


ドクン。


ドクン。


そして。


その心臓の音さえ。


やがて。


止まった。


「……」


俺は。


自分の胸に。


手を当てる。


何も。


感じない。


時間が。


止まった。


男が。


小さく。


呟く。


「……来た」


「誰が?」


男は。


空を見る。


「――昨日だ」


「……!」


空に。


巨大な。


白い月が。


浮かんでいる。


昼なのに。


月が。


ある。


その月の表面に。


一つの。


目が。


開く。


そして。


声が。


響いた。


『返して』


「……」


『私の』


『時間を』


俺は。


その声を。


聞いた瞬間。


分かった。


これは。


世界を。


終わらせようとしている声じゃない。


怒っている声でもない。


ただ。


何かを。


失った者の声。


「お前は」


「誰だ?」


月の目が。


俺を見る。


『私は』


『昨日』


『あなたたちが』


『置いてきたもの』


「……」


『私は』


『忘れられた』


『一日』


『最初に』


『失われた』


『昨日』


「……」


男が。


言う。


「レオン」


「……」


「時間には」


「始まりだけじゃない」


「失われた時間も」


「存在する」


俺は。


月を見る。


その中に。


一つの。


小さな光が。


ある。


それは。


昨日。


いや。


まだ。


始まる前の。


「一日」。


俺たちが。


知らない。


一日。


「……」


俺は。


拳を握る。


「分かった」


月の目が。


揺れる。


「取り戻そう」


「……」


『本当に?』


「ああ」


『なぜ?』


「だって」


俺は。


空を見上げる。


「誰かが」


「忘れられたまま」


「苦しんでるなら」


「俺は」


「見なかったことには」


「できない」


『……』


『でも』


『取り戻せば』


『今の時間が』


『変わる』


「それでも」


俺は。


答えた。


「今の俺たちが」


「どうするかを」


「自分で」


「選ぶ」


「……」


月の目が。


静かに。


閉じる。


そして。


最後に。


一言だけ。


響いた。


『ならば』


『五日目は』


『存在しない』


「……!」


世界が。


白く染まる。


――。


そして。


俺たちの。


「四日目」が。


終わった。

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