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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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96/132

第96話 名前のない時間

――三日目。


朝。


俺は日記を開いた。


昨日まで。


この世界には。


「昨日」という言葉すら。


なかった。


でも。


今は違う。


一日目があり。


二日目があり。


そして。


今日。


三日目がある。


「……」


俺は。


そのことが。


少しだけ。


嬉しかった。


「お兄ちゃん」


背後から。


声がする。


振り返る。


ミナだった。


「おはよう」


「おはよう」


ミナは。


俺の日記を覗き込む。


「何書いてるの?」


「昨日のこと」


「私のこと?」


「ああ」


「……」


ミナが。


少し。


照れたように笑う。


「千年後の私も?」


「もちろん」


「じゃあ」


「見せて」


「駄目」


「なんで?」


「まだ途中だから」


「えー」


ミナが。


頬を膨らませる。


その様子を見て。


俺は笑った。


昨日。


千年後のミナと話した。


未来から来た声。


未来の約束。


それは。


確かに。


不思議だった。


だけど。


今ここにいるミナは。


未来のミナではない。


この世界で。


今日を生きている。


今のミナだ。


「……」


俺は。


それを。


大事にしたかった。


「お兄ちゃん?」


「ん?」


「何?」


「いや」


俺は。


ミナの頭を撫でる。


「今日もよろしく」


「……うん!」


ミナが。


笑う。


その笑顔を見て。


思う。


未来を知っていても。


今を生きることは。


できる。


未来に縛られない。


それが。


俺たちの。


第十三原則だった。


――記憶は未来を縛らない。


「レオン!」


今度は。


外から。


アリアの声。


「朝ご飯!」


「分かった!」


俺は。


日記を閉じた。


「行こう」


「うん!」


ミナと。


一緒に。


外へ出る。


そこには。


いつもの。


みんながいた。


ノアは。


パンを抱えている。


カイは。


薪を運んでいる。


ソアは。


空を見上げている。


ユラは。


白い花の前に座っている。


ハネは。


木の枝から枝へ。


飛び移っている。


リクとハルは。


何かを言い合っている。


「だから!」


「それは俺のだって!」


「知らない!」


「二人とも」


セリアが。


呆れた顔をする。


「朝から喧嘩しないの」


「喧嘩じゃない!」


「これは勝負!」


「同じでしょ」


笑い声が。


響く。


俺は。


その光景を。


見ながら。


思った。


これが。


時間なんだ。


一日目より。


二日目より。


少しだけ。


みんなが。


変わっている。


たった二日。


それだけなのに。


「……」


俺は。


笑った。


その時。


世界樹の葉が。


一枚。


落ちた。


――ひらり。


葉は。


地面に。


触れる前に。


消えた。


代わりに。


空中へ。


文字が浮かぶ。


三日目


そして。


その下に。


もう一つ。


文字が現れた。


記録者、未定義。


「……」


俺は。


目を細める。


「未定義?」


ミライが。


近づいてくる。


「それ」


「私と」


「同じ」


「未定義?」


「ああ」


「……」


ミライは。


その文字を見る。


そして。


首を傾げた。


「でも」


「違う気がする」


「何が?」


「私は」


「まだ決まってない」


「でも」


「これは」


「決められてない」


「……」


俺は。


その違いを。


考える。


「まだ決まっていない」


「決められていない」


似ている。


でも。


意味は。


全く違う。


「……」


その時。


世界樹の黒い実が。


揺れた。


透明な目が。


開く。


『正しい』


「……!」


『ミライは』


『まだ』


『決まっていない』


『しかし』


『記録者は』


『まだ』


『決められていない』


「……誰に?」


『時間に』


「時間に?」


『そう』


「時間が」


「誰かを」


「決めるのか?」


『違う』


『時間は』


『決めない』


『ただ』


『待つ』


「……」


『決める者が』


『現れるまで』


『待つ』


その言葉を。


聞いた瞬間。


俺は。


嫌な予感がした。


「じゃあ」


「その記録者は」


「まだ」


「自分で」


「選んでいない?」


『そう』


「……」


『だから』


『名前も』


『ない』


ミライが。


空を見上げる。


「名前がないって」


「寂しいのかな」


「……」


俺は。


答えられなかった。


名前。


それは。


存在を。


認めるもの。


でも。


名前を。


誰かに。


与えられることは。


同時に。


その存在を。


決めてしまうことでもある。


だから。


この世界では。


名前を。


自分で選ぶ。


カイも。


ソアも。


ハネも。


カナも。


リオも。


みんな。


自分で。


名前を選んだ。


「……」


だったら。


あの少女も。


自分で。


選ぶべきなんだ。


その時。


アオが。


こちらへ。


歩いてきた。


「レオン」


「アオ」


「昨日から」


「時間の外側を」


「見てた」


「……」


「私も」


「見えた」


「何が?」


「女の子」


「……!」


アリアが。


振り返る。


「女の子?」


アオは。


頷いた。


「名前が」


「なかった」


「それだけじゃない」


「彼女は」


「時間の外側にいた」


「……」


俺は。


世界樹を見る。


「どうして」


「そこにいる?」


アオは。


少し。


考えた。


「たぶん」


「時間に」


「選ばれなかったから」


「……」


その言葉に。


俺の胸が。


痛んだ。


「選ばれなかった?」


「うん」


「それは」


「五人目と」


「同じじゃない?」


アオが。


俺を見る。


「似てる」


「でも」


「違う」


「どう違う?」


「五人目は」


「選ばせてもらえなかった」


「彼女は」


「時間が」


「始まる前に」


「待つことを」


「選んだ」


「……」


俺は。


息を呑む。


「自分で?」


「うん」


「じゃあ」


「誰にも」


「捨てられてない?」


「そう」


「彼女は」


「自分で」


「時間の外側を」


「選んだ」


俺は。


しばらく。


黙っていた。


そして。


笑う。


「それなら」


「会いに行こう」


アリアが。


驚く。


「レオン」


「大丈夫」


「でも」


「時間の外側なんて」


「危険じゃない?」


「分からない」


「……」


「だから」


「行く」


「……」


アリアは。


ため息をつく。


「やっぱり」


「そう言うと思った」


「ごめん」


「謝らなくていい」


アリアが。


笑う。


「私も行く」


「……」


「一人で行かせない」


「分かった」


ユウトも。


立ち上がる。


「俺も」


「……」


「兄貴だけじゃ」


「何するか分からないからな」


「お前まで……」


みんなが。


笑う。


結局。


全員で。


行くことになった。


――。


世界樹の根元。


昨日。


千年後へ繋がる扉が。


現れた場所。


今は。


何もない。


ただ。


大地がある。


「……」


俺は。


手を。


地面へ。


当てる。


「時間の外側へ」


「どうやって行く?」


すると。


ミライが。


答えた。


「たぶん」


「時間の外側は」


「行く場所じゃない」


「……?」


「思い出す場所」


「思い出す?」


「うん」


「時間が始まる前」


「まだ」


「昨日も」


「今日も」


「明日も」


「なかった場所」


「……」


俺は。


目を閉じる。


何もない。


暗闇。


いや。


暗闇ですらない。


色も。


音も。


形も。


ない。


そこには。


「何もない」。


でも。


しばらくすると。


小さな音が。


聞こえた。


――カチ。


時計の音。


「……」


――カチ。


もう一度。


そして。


俺の前に。


一本の道が。


現れた。


白い道。


その先に。


少女がいる。


銀色の髪。


白い服。


透明な瞳。


手には。


あの本。


少女は。


俺を見る。


「……来た」


「お前が」


「昨日の」


「そう」


少女は。


笑った。


「私は」


「まだ」


「名前がない」


「……」


俺は。


少女に。


近づく。


「じゃあ」


「名前を」


「俺がつけようか?」


少女は。


首を振った。


「ううん」


「……」


「それは」


「私が」


「決めたい」


「……」


俺は。


笑った。


「分かった」


「ありがとう」


少女は。


本を。


胸に抱く。


「でも」


「一つだけ」


「聞いてほしい」


「何?」


少女は。


俺を見る。


「私は」


「ずっと」


「時間を」


「待っていた」


「……」


「時間が」


「始まるまで」


「ここにいた」


「なぜ?」


少女は。


少し。


悲しそうに。


笑った。


「時間が」


「始まったら」


「私は」


「何者かに」


「ならなきゃいけないと思ったから」


「……」


「名前を」


「決めなきゃいけない」


「役割を」


「決めなきゃいけない」


「未来を」


「決めなきゃいけない」


「だから」


「怖かった」


「……」


俺は。


その気持ちが。


分かる気がした。


選ぶこと。


自分を。


決めること。


それは。


自由であると同時に。


怖い。


「でも」


俺は。


言った。


「決めなくても」


「いいんじゃないか?」


少女が。


目を見開く。


「……え?」


「第十五原則」


「選ばない自由」


「……」


「名前を」


「今」


「決めなくてもいい」


「役割も」


「決めなくていい」


「未来も」


「今」


「決めなくていい」


少女の。


瞳が。


揺れる。


「……」


「お前が」


「決めたくなった時に」


「決めればいい」


「……」


少女は。


しばらく。


俺を見ていた。


そして。


初めて。


笑った。


「……そう」


「うん」


「じゃあ」


「今は」


「名前」


「いらない」


「……ああ」


「ありがとう」


その瞬間。


少女の手にある本が。


光った。


ページが。


勝手に。


めくられていく。


――一日目。


――二日目。


――三日目。


そして。


新しいページが。


現れる。


そこには。


何も書かれていない。


少女が。


ページを見る。


「ここ」


「まだ」


「何もない」


「……」


「だから」


「この先に」


「私の未来が」


「ある」


俺は。


頷く。


「そうだな」


少女が。


本を閉じる。


「じゃあ」


「私は」


「ここで」


「待つ」


「……」


「でも」


少女は。


俺を見る。


「待つだけじゃない」


「え?」


「私は」


「ここから」


「あなたたちの」


「時間を」


「見てる」


「……」


「一日目」


「二日目」


「三日目」


「百日目」


「千日目」


「全部」


「記録する」


俺は。


少し。


笑う。


「じゃあ」


「俺たちが」


「千日目まで」


「生きてたら」


「褒めてくれ」


「うん」


「千年目まで」


「生きてたら?」


少女は。


笑う。


「もっと」


「褒める」


「……」


アリアが。


隣で。


笑った。


「じゃあ」


「頑張らないとね」


少女が。


アリアを見る。


「あなたも」


「千年後に」


「いる?」


アリアは。


少し。


考える。


そして。


答える。


「分からない」


「……」


「でも」


「その時の私が」


「選ぶ」


少女は。


嬉しそうに。


頷いた。


「それが」


「いい」


「……」


俺は。


その少女を。


見つめる。


まだ。


名前はない。


役割も。


ない。


未来も。


決まっていない。


でも。


ちゃんと。


ここにいる。


「……」


それだけで。


十分だった。


その時。


遠くから。


大きな音がした。


――ゴゴゴゴゴ……。


「……!」


白い空間が。


揺れる。


少女が。


振り返る。


「……来た」


「何が?」


「時間の外側に」


「入ってはいけないもの」


「……」


アオが。


顔を上げる。


「レオン」


「分かる」


空間の向こう。


白い世界に。


黒い線が。


走っていく。


一本。


二本。


三本。


やがて。


それは。


巨大な亀裂になる。


その向こうから。


黒い手が。


伸びてきた。


「……!」


見覚えがある。


あの手。


零の世界で。


俺たちに。


問いかけた手。


「お前は」


「まだ」


「来るなと言ったはずだ」


声が。


響く。


少女が。


俺の前に。


立つ。


「……」


「誰だ?」


俺が。


問う。


黒い手の向こうから。


声が返る。


『時間を』


『選ぶ者』


「……」


『私は』


『始まりも』


『終わりも』


『選ばない』


『時間そのものを』


『選ぶ』


「何を」


「言ってる?」


『お前たちが』


『明日を選ぶ限り』


『私は』


『終われない』


「……」


『だから』


『お前たちに』


『最後の時間を』


『与える』


空間が。


一気に。


暗くなる。


そして。


黒い手の向こうに。


巨大な時計が。


現れた。


針が。


逆方向へ。


回り始める。


――カチ。


――カチ。


――カチ。


「……!」


ミライが。


叫ぶ。


「時間が」


「戻ってる!」


世界の色が。


薄くなる。


昨日が。


消える。


二日目が。


消える。


一日目が。


消える。


「やめろ!」


俺が。


叫ぶ。


『戻すだけだ』


『世界が』


『始まる前へ』


「……!」


少女が。


本を。


抱きしめる。


「そんなこと」


「させない」


黒い手が。


少女へ。


伸びる。


『お前は』


『時間の外側で』


『待ちすぎた』


『もう』


『役割を』


『選べ』


少女の。


身体が。


光る。


「嫌」


『名前を』


「嫌」


『未来を』


「嫌」


『ならば』


『消えるか』


少女の。


瞳が。


揺れる。


「……」


俺は。


一歩。


前へ出る。


「待て」


『……』


「こいつは」


「今」


「選ばないことを」


「選んだ」


「それで」


「いいだろ」


『……』


「それが」


「俺たちの」


「第十五原則だ」


黒い手が。


止まる。


『選ばない自由』


「そうだ」


『……』


『ならば』


『お前も』


『選ばないのか?』


「……」


「俺は」


「選ぶ」


『何を?』


「明日を」


『……』


「でも」


「明日を選ぶことと」


「今すぐ全部を」


「決めることは」


「違う」


黒い手が。


揺れる。


「俺は」


「明日を選ぶ」


「でも」


「千年後を」


「今日」


「決めたりしない」


「こいつの名前も」


「俺が決めない」


「こいつの未来も」


「俺が決めない」


「俺自身の未来だって」


「明日になったら」


「また」


「自分で選ぶ」


「……」


「それが」


「俺たちの」


「生き方だ」


沈黙。


そして。


巨大な時計が。


止まった。


――カチ。


最後の音。


その瞬間。


黒い手が。


ゆっくり。


引いていく。


『……理解した』


「何を?」


『お前たちは』


『時間を』


『所有しない』


『時間と』


『共に生きる』


「……」


『ならば』


『私は』


『しばらく』


『待つ』


黒い亀裂が。


閉じていく。


最後に。


声がした。


『千年後』


『また』


『会おう』


「……」


完全に。


消えた。


白い世界に。


静けさが。


戻る。


少女が。


その場に。


座り込む。


「……」


俺は。


手を差し出した。


「大丈夫か?」


少女は。


俺の手を取る。


「うん」


「怖かった?」


「……少し」


「そうか」


「でも」


少女は。


笑う。


「今は」


「少しだけ」


「楽しみ」


「何が?」


少女は。


空を見る。


「私が」


「いつか」


「自分で」


「名前を選ぶ日」


「……」


俺も。


笑った。


「その時は」


「教えてくれ」


「うん」


「約束だ」


少女は。


頷く。


「約束」


その瞬間。


彼女の本に。


新しい文字が。


浮かんだ。


――三日目。


――名前のない少女と出会った。


そして。


その下に。


小さく。


一行。


彼女はまだ、名前を選ばない。


少女は。


その文字を見て。


笑った。


「……これでいい」


俺も。


頷いた。


「うん」


俺たちは。


白い道を。


歩き出す。


世界へ。


帰るために。


その途中。


少女が。


俺に聞いた。


「レオン」


「ん?」


「あなたは」


「千年後」


「本当に」


「ここに来る?」


俺は。


少し。


考える。


そして。


答えた。


「分からない」


少女が。


笑う。


「うん」


「でも」


俺は。


続ける。


「その時の俺が」


「来たいと思ったら」


「来る」


「……」


「それで」


「いいだろ?」


少女は。


しばらく。


黙って。


そして。


嬉しそうに。


頷いた。


「うん」


「それが」


「一番」


「いい」


――。


三日目。


俺たちは。


世界へ。


戻った。


朝だった。


ほんの少し。


時間が。


進んでいた。


世界樹の下では。


みんなが。


待っている。


「おかえり!」


ノアが。


走ってくる。


「遅い!」


「悪い」


「どこ行ってたの?」


「ちょっと」


俺は。


空を見る。


「時間の外側」


「……?」


ノアが。


首を傾げる。


「難しい話?」


「ああ」


「じゃあ」


ノアは。


笑う。


「ご飯!」


「……」


俺は。


笑った。


「それでいい」


俺たちは。


家へ戻る。


今日も。


朝ご飯を食べる。


笑う。


話す。


喧嘩する。


仲直りする。


そんな。


普通の一日。


そして。


世界樹の一番高い枝。


黒い実の中で。


透明な目が。


静かに。


閉じる。


『三日目』


『記録』


『名前のない者』


『存在を継続』


そして。


その下に。


新しい文字。


時間は、まだ誰のものでもない。


――。


そのさらに外。


名前のない少女は。


一人。


本を開いていた。


新しいページ。


何も書かれていない。


少女は。


そこへ。


初めて。


自分の手で。


小さな文字を。


一つだけ。


書いた。


――待つ。


それだけ。


名前ではない。


役割でもない。


未来でもない。


ただ。


今の自分が選んだ。


一つの言葉。


少女は。


満足そうに。


笑った。


「……今日は」


「これでいい」


そして。


時間の外側で。


また。


時計の針が。


一つ。


進んだ。


――カチ。

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