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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第94話 時間の向こうにある明日

――朝。


鳥の声がした。


「……」


俺は。


目を開けた。


見慣れない天井。


いや。


見慣れている。


昨日。


みんなで建てた。


小さな家。


「……朝か」


窓から。


光が差し込んでいる。


暖かい。


静かだ。


何も。


壊れていない。


世界樹も。


海も。


大地も。


全部。


そこにある。


「……」


俺は。


布団の中で。


少しだけ。


笑った。


「生きてる」


それだけのことが。


妙に嬉しかった。


百七十二回。


世界を繰り返した。


何度も。


何度も。


朝を迎えた。


でも。


そのどの朝より。


今の朝が。


一番。


普通だった。


「レオン!」


外から。


声がした。


「起きてる!?」


アリアだ。


「起きてる!」


「じゃあ早く!」


「何?」


「朝ご飯!」


「……」


俺は。


笑った。


「分かった」


布団から。


起き上がる。


そして。


扉を開けた。


「おはよう」


「おはよう」


アリアが。


笑う。


その後ろには。


ユウト。


セリア。


カイ。


ソア。


ミライ。


ハネ。


カナ。


ユラ。


ハル。


エレナ。


ノア。


そして。


ミナ。


みんなが。


いた。


「……多いな」


「何が?」


アリアが。


首を傾げる。


「いや」


俺は。


笑う。


「家族みたいだなって」


その瞬間。


ユウトが。


笑った。


「家族でいいだろ」


「……」


「嫌か?」


「いや」


俺は。


首を振る。


「嬉しい」


ノアが。


元気よく。


手を上げる。


「朝ご飯!」


「はいはい」


セリアが。


笑う。


「今日は」


「パンを焼いたよ」


「パン!」


ノアが。


目を輝かせる。


「……」


俺は。


その光景を。


眺める。


何でもない。


朝。


でも。


俺が。


ずっと。


欲しかったもの。


そのものだった。


「……」


リオも。


少し離れたところから。


その様子を。


見ていた。


「どうした?」


俺が。


声をかける。


「……」


リオは。


少し。


困ったように。


笑う。


「俺」


「どうすればいいか」


「分からない」


「何が?」


「こういうの」


「こういうの?」


「普通の朝」


「……」


俺は。


少し。


考える。


「簡単だ」


「?」


「食べる」


「……」


「笑う」


「……」


「眠くなったら寝る」


「……」


「それだけ」


リオが。


笑った。


「それでいいの?」


「ああ」


「俺」


「ずっと」


「世界を救う願いだったから」


「……」


「普通に生きることを」


「知らなかった」


俺は。


リオの肩を。


軽く叩く。


「じゃあ」


「今日から」


「覚えればいい」


「……うん」


二人で。


家へ入る。


そして。


朝食が始まった。


「熱っ!」


ノアが。


パンを頬張って。


叫ぶ。


「ちゃんと冷ましてから!」


セリアが。


慌てる。


「でも」


「おいしい!」


「……」


みんなが。


笑う。


俺も。


笑った。


その瞬間。


ふと。


時計が。


ないことに。


気づいた。


「……」


「どうしたの?」


アリアが。


聞く。


「時計」


「時計?」


「ああ」


「この家」


「ないよ」


「……」


「時間なんて」


「分からなくても」


「いいじゃない」


アリアは。


笑う。


「朝は朝」


「夜は夜」


「それでいい」


「……」


その言葉に。


俺は。


少し。


考えた。


昨日。


世界樹の実の中に。


透明な目があった。


そして。


声が。


言った。


――本当の最後は。


――時間だから。


「……」


時間。


俺は。


空を見る。


朝日。


確かに。


昇っている。


でも。


この世界には。


まだ。


「時間」が。


存在していない。


昼。


夜。


過去。


未来。


そういう概念は。


ある。


でも。


それは。


誰かが。


決めたものではない。


「……」


ミライが。


俺の視線に。


気づく。


「どうしたの?」


「ミライ」


「うん」


「お前は」


「未来だよな?」


「そう」


「じゃあ」


「時間って」


「知ってる?」


ミライは。


少し。


考えた。


「知ってる」


「でも」


「まだ」


「完全じゃない」


「……」


「未来って」


「時間の中に」


「あるから」


「時間がないと」


「未来も」


「存在できない」


「……」


なるほど。


俺は。


納得した。


「じゃあ」


「この世界には」


「まだ」


「時間が」


「生まれてない?」


「たぶん」


その時。


世界樹が。


一枚。


葉を落とした。


――ひらり。


葉が。


地面に。


落ちる。


誰も。


拾わない。


俺は。


それを。


見つめる。


そして。


ふと思った。


葉が。


落ちる。


これは。


「変化」だ。


今まで。


枝にあった葉が。


地面へ。


移動した。


それだけ。


でも。


それによって。


世界に。


「前」と。


「後」が。


生まれた。


「……」


俺は。


葉を。


拾う。


「時間って」


「こういうことかもな」


「え?」


ミライが。


俺を見る。


「何かが」


「変わった瞬間」


「その前と」


「その後が」


「できる」


「……」


ミライが。


目を輝かせる。


「じゃあ」


「時間は」


「誰かが」


「作るものじゃなくて」


「変化そのもの?」


「たぶん」


「……」


その瞬間。


空気が。


震えた。


――ドクン。


世界樹の。


根元。


そこから。


細い光が。


伸びてくる。


「……!」


光は。


地面を。


這い。


海へ。


伸びていく。


そして。


海面に。


一つの。


波紋が。


生まれた。


波が。


広がる。


一度。


二度。


三度。


「……」


そのたびに。


世界が。


少しずつ。


変化する。


草が。


伸びる。


花が。


咲く。


雲が。


流れる。


空が。


少し。


高くなる。


そして。


太陽が。


ゆっくり。


動き始めた。


「……」


俺は。


空を見上げる。


朝日が。


少しずつ。


上へ。


動いている。


アリアが。


呟く。


「時間が」


「始まった……?」


原初が。


遠くから。


世界を。


見つめる。


「……違う」


「え?」


「時間は」


「作られたのではない」


「……」


「世界が」


「変化することを」


「受け入れた」


「だから」


「時間が」


「生まれた」


「……」


その言葉に。


俺は。


少し。


笑った。


「じゃあ」


「時間も」


「自分で」


「選んだんだな」


「そういうことだ」


その瞬間。


世界樹に。


新しい葉が。


現れた。


そこには。


新しい文字。


第十七原則――変化する自由


変わることを。


恐れなくていい。


昨日と違う自分になることも。


昨日と違う世界になることも。


間違いではない。


それも。


一つの。


未来。


「……」


ミライが。


葉を見上げる。


「私」


「嬉しい」


「どうして?」


「だって」


「未来って」


「変わっていいんだよね?」


「ああ」


「じゃあ」


「私も」


「毎日」


「変わっていい」


「うん」


その時。


ミナが。


俺の袖を。


引っ張った。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「時間って」


「怖い?」


「……」


俺は。


考える。


時間。


それは。


変化。


変化すれば。


失うものもある。


人は。


年を取る。


花は。


枯れる。


世界も。


いつか。


終わる。


だから。


怖い。


でも。


同時に。


時間があるから。


今日が。


明日になる。


出会いが。


思い出になる。


別れの後に。


再会が。


生まれる。


「……怖いよ」


俺は。


正直に。


答えた。


「でも」


「必要だ」


ミナは。


首を傾げる。


「どうして?」


「時間がなかったら」


「今日を」


「大切にできないから」


「……」


「明日が」


「あるから」


「今日を」


「笑える」


ミナが。


笑う。


「じゃあ」


「明日も」


「楽しみだね」


「ああ」


その時。


空から。


一枚の。


黒い葉が。


落ちてきた。


――ひらり。


俺は。


それを。


受け取る。


「……」


普通の葉ではない。


透明だ。


黒い。


でも。


向こう側が。


透けて見える。


そして。


葉の中に。


文字が。


浮かぶ。


『一日目』


「……」


俺は。


目を見開く。


「時間が」


「数え始めた」


ミライが。


呟く。


「一日目」


「……」


今まで。


この世界には。


日付が。


なかった。


今日という日も。


昨日という日も。


なかった。


でも。


今。


初めて。


「一日目」が。


生まれた。


そして。


その瞬間。


世界樹の。


黒い実が。


――パキッ。


ひび割れた。


「……!」


透明な目が。


中から。


こちらを見る。


そして。


声が。


響いた。


『一日目』


『記録』


「……」


『二日目』


『記録』


「……」


『三日目』


『記録』


声は。


淡々と。


日を。


数えていく。


『十日目』


『百日目』


『千日目』


「待て!」


俺は。


叫ぶ。


『……』


「何を」


「数えてる?」


沈黙。


そして。


声が。


答える。


『世界の』


『終わりまで』


「……!」


空気が。


凍る。


「終わりまで?」


『そう』


「いつ?」


『まだ』


「……」


『決まっていない』


「じゃあ」


「なぜ」


「数える?」


『終わりが』


『決まっていないから』


『数える』


「……」


意味が。


分からない。


でも。


ミライが。


顔を上げる。


「分かった」


「何が?」


「時間は」


「終わりを」


「決めるためじゃない」


「……」


「終わりまでの」


「道を」


「記録するため」


俺は。


その言葉を。


聞いて。


頷いた。


「そうか」


時間は。


死への。


カウントダウンじゃない。


生きた証を。


積み重ねるもの。


今日が。


一日目。


明日が。


二日目。


その次が。


三日目。


一日ずつ。


積み重ねていく。


それが。


人生。


「……」


俺は。


空を見る。


「じゃあ」


「今日から」


「始めよう」


アリアが。


笑う。


「何を?」


「日記でも」


「つけるか」


「レオンが?」


「……」


「続くの?」


「分からない」


みんなが。


笑う。


「じゃあ」


ユウトが。


言う。


「最初の一行は」


「何にする?」


俺は。


少し。


考えて。


そして。


書いた。


――一日目。


――みんなで朝ご飯を食べた。


それだけ。


たった。


それだけの。


文章。


でも。


俺にとって。


それは。


百七十二回の世界を。


超えて。


初めて。


「普通の日」を。


記録した瞬間だった。


「……」


俺は。


ペンを置く。


その時。


遠く。


アカツキの世界で。


ルナも。


同じ空を。


見上げていた。


『一日目』


ルナが。


小さく。


呟く。


『私の世界も』


『今日から』


『一日目』


そして。


笑う。


『レオン』


『明日も』


『会えるね』


その声が。


届いた気がした。


俺も。


空へ。


返す。


「……ああ」


「明日も」


「会おう」


その瞬間。


世界樹の黒い実が。


大きく。


揺れた。


透明な目が。


閉じる。


そして。


最後に。


一言。


『記録開始』


――。


その日。


世界には。


初めて。


「時間」が生まれた。


そして。


同時に。


もう一つ。


新しいものが。


生まれていた。


それは。


「歴史」。


今日という日が。


昨日と違う。


明日という日が。


今日と違う。


世界は。


少しずつ。


変わっていく。


俺たちは。


少しずつ。


年を取る。


出会って。


笑って。


喧嘩して。


仲直りして。


いつか。


別れる日も。


来るかもしれない。


でも。


それでも。


いい。


だって。


その一日一日を。


自分で。


選んでいける。


俺は。


そう思った。


――。


けれど。


その夜。


みんなが。


眠った後。


俺は。


一人で。


世界樹の下に。


座っていた。


月を。


見上げる。


「……」


眠れない。


理由は。


分かっている。


昼間の。


透明な目。


時間を。


数える声。


そして。


あの言葉。


――本当の最後は。


――時間だから。


「……」


俺は。


世界樹を見る。


「時間の」


「最後って」


「何なんだ?」


答えは。


ない。


静かな。


夜。


その時。


背後から。


足音が。


した。


「……?」


振り返る。


そこに。


ミナが。


立っていた。


「お兄ちゃん」


「ミナ?」


「眠れないの?」


「うん」


「私も」


ミナが。


隣に座る。


そして。


しばらく。


二人で。


月を見る。


「……ねえ」


ミナが。


言った。


「何?」


「私」


「未来の記憶を」


「少しだけ」


「思い出した」


「……!」


「どんな未来?」


ミナは。


俺を見る。


「お兄ちゃんが」


「すごく」


「年を取ってた」


「……」


「髪が」


「白くなってて」


「みんなで」


「笑ってた」


俺は。


息を止める。


「……それだけ?」


「ううん」


ミナは。


少し。


悲しそうに。


笑う。


「その後」


「お兄ちゃんが」


「一人で」


「世界樹の下に」


「立ってた」


「……」


「そして」


「誰かを」


「待ってた」


「誰を?」


ミナは。


首を振る。


「分からない」


「でも」


「その人が」


「来たら」


「お兄ちゃんは」


「笑ってた」


「……」


俺は。


夜空を見る。


「それは」


「いつ?」


ミナは。


静かに。


答えた。


「――千年後」


「……」


そして。


世界樹の黒い実の中で。


透明な目が。


再び。


開いた。


『二日目』


『記録』


俺は。


立ち上がる。


「……」


まだ。


始まったばかりだ。


それでも。


いつか。


千年後が。


来る。


そして。


その未来で。


俺は。


誰かを。


待っている。


誰なのか。


分からない。


なぜ。


待っているのかも。


分からない。


ただ。


一つだけ。


確かなことがある。


俺は。


その未来を。


恐れなかった。


なぜなら。


そこへ行くまでに。


明日が。


何度も。


何度も。


やってくるから。


俺は。


ミナに。


笑いかけた。


「じゃあ」


「明日も」


「生きよう」


ミナも。


笑った。


「うん」


「明日も」


「生きよう」

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