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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第93話 最後に選ぶ者

『本当の最後は』


『お前自身だ』


その声が。


世界中に響いた。


俺は。


空を見上げる。


巨大な白い手。


その手の向こうには。


何も見えない。


ただ。


圧倒的な存在感だけが。


こちらを見下ろしている。


「……俺自身?」


『そう』


「どういう意味だ」


『お前は』


『これまで』


『何度も』


『世界を救ってきた』


「……」


『何度も』


『未来を選んだ』


『何度も』


『誰かを救った』


『だが』


『一度も』


『自分自身の未来を』


『選んでいない』


「……」


胸の奥が。


痛んだ。


確かに。


そうだった。


俺は。


いつだって。


誰かのために。


選んできた。


ユウトを救う。


アリアを守る。


仲間を守る。


世界を救う。


ルナを救う。


イオを救う。


選ばれなかった存在を。


救う。


でも。


その中に。


「俺は」


いたのか?


「……」


アリアが。


俺を見る。


「レオン」


「……」


「何を考えてるの?」


俺は。


答えられなかった。


ユウトも。


黙っている。


ミナが。


俺の手を。


握っている。


「お兄ちゃん」


「……」


「怖い?」


「ああ」


俺は。


正直に。


答えた。


「怖い」


「……」


「自分のことを」


「選ぶのが」


怖い。


その言葉を。


口にした瞬間。


世界が。


静かになった。


白い手も。


動きを止めた。


そして。


声が。


響く。


『なぜ』


「……」


『なぜ』


『自分を選ぶことが』


『怖い?』


俺は。


考えた。


「……」


そして。


ゆっくり。


答えた。


「自分を選んだら」


「誰かが」


「選ばれなくなる気がするから」


『……』


「俺が」


「幸せになったら」


「誰かが」


「不幸になる気がする」


「俺が」


「生き残ったら」


「誰かが」


「死ぬ気がする」


「俺が」


「明日を選んだら」


「誰かの明日を」


「奪う気がする」


白い手が。


静かに。


揺れた。


『それは』


『最初の世界で』


『お前が』


『覚えた考えだ』


「……」


『一人を選べば』


『一人が』


『捨てられる』


『だから』


『お前は』


『誰も選ばないことを』


『選ぼうとした』


「……」


『だが』


『それでも』


『お前は』


『自分を』


『最後まで』


『除外した』


「……」


胸の奥で。


光が。


強くなる。


俺は。


目を閉じる。


すると。


一つの記憶が。


浮かんだ。


まだ。


何もなかった頃。


五つの光。


俺。


ルナ。


ユウト。


イオ。


そして。


もう一人。


五人目。


その時。


俺は。


五人目に。


何かを。


言っていた。


『君は』


『何がしたい?』


五人目が。


答える。


『分からない』


『じゃあ』


『一緒に探そう』


『うん』


その光景。


どこか。


懐かしい。


そして。


その後。


世界が。


始まろうとした。


俺は。


世界の中心に。


選ばれた。


その瞬間。


五人目が。


消えた。


俺は。


叫んでいた。


『待って!』


『行かないで!』


『俺が』


『代わりになる!』


そこで。


映像が。


途切れた。


「……!」


目を開く。


息が。


苦しい。


イオが。


俺を見る。


「……思い出した?」


「ああ」


「何を?」


俺は。


イオを見る。


「俺は」


「最初から」


「自分を」


「捨てるつもりだった」


イオが。


目を伏せる。


「……そう」


「五人目を」


「外へ出す代わりに」


「俺が」


「外へ行こうとした」


「……」


「でも」


「世界が」


「俺を中心に」


「選んだ」


「だから」


「俺は」


「残った」


イオは。


小さく。


頷いた。


「それが」


「最初の選択」


「……」


俺は。


拳を握る。


「じゃあ」


「ずっと」


「俺は」


「誰かを救うために」


「自分を」


「捨てようとしていたのか」


「うん」


イオが。


答える。


「だから」


「百七十二回」


「繰り返した」


「……」


「どの世界でも」


「最後には」


「あなたが」


「自分を」


「犠牲にしようとした」


「……」


思い出す。


何度も。


何度も。


何度も。


最後には。


俺が。


消える。


俺が。


世界になる。


俺が。


世界樹に。


取り込まれる。


俺が。


全部の願いを。


背負う。


俺が。


終われば。


みんなが。


助かる。


そのたびに。


世界は。


一時的に。


救われた。


でも。


それは。


本当の答えではなかった。


「……」


俺は。


空を見る。


「だから」


「俺自身を」


「選べって」


『そうだ』


「……」


『お前が』


『自分を』


『犠牲にしない未来を』


『一度でも』


『選べるか』


「……」


『それが』


『最後の選択だ』


世界が。


揺れ始める。


新しく生まれた存在たちが。


不安そうに。


空を見上げる。


少女が。


俺の袖を。


掴む。


「……怖い」


「大丈夫」


「本当に?」


「ああ」


俺は。


少女を見る。


「ここでは」


「誰も」


「誰かのために」


「犠牲にならなくていい」


少女は。


頷いた。


「……うん」


ミナも。


笑う。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「じゃあ」


「お兄ちゃんも」


「犠牲にならなくていいんだよね?」


「……」


俺は。


答えようとした。


でも。


声が。


出なかった。


その時。


アリアが。


俺の手を握った。


「レオン」


「……」


「答えは」


「もう」


「決まってるでしょ」


「……」


「あなたも」


「ここにいていい」


ユウトが。


笑う。


「兄貴」


「俺より先に」


「いなくなるの」


「禁止な」


「……」


セリアも。


頷く。


「私たち」


「まだ」


「やりたいこと」


「いっぱいあるよ」


カイが。


笑う。


「俺は」


「海を見に行く」


ソアが。


「私は」


「空を」


「自分で決めたい」


ミライが。


「私は」


「まだ」


「未来になってないから」


「これから」


「なる」


ノアが。


手を上げる。


「私は」


「いっぱい」


「ご飯食べたい!」


「……」


思わず。


笑った。


「そうだな」


カナが。


静かに。


笑う。


「私は」


「怖かった過去も」


「全部」


「持っていく」


ユラが。


頷く。


「私は」


「終わりを」


「見届ける」


ハネが。


羽を。


広げる。


「私は」


「飛びたい」


リクが。


笑う。


「俺は」


「知らない場所へ」


「行ってみたい」


ハルが。


言う。


「俺は」


「帰る場所を」


「守りたい」


エレナも。


笑う。


「私は」


「自分で」


「未来を」


「選びたい」


そして。


イオ。


「私は」


「あなたと」


「同じ場所に」


「いる必要はない」


「……」


「でも」


「また」


「会いたい」


俺は。


頷いた。


「俺も」


その言葉が。


世界に。


広がっていく。


一人一人が。


自分の未来を。


口にする。


誰も。


誰かの未来を。


決めていない。


誰も。


誰かのために。


死のうとしていない。


ただ。


自分の明日を。


選んでいる。


白い手が。


震える。


『……理解できない』


「何が?」


『なぜ』


『誰も』


『誰かを』


『犠牲にしない?』


「簡単だ」


俺は。


答える。


「犠牲にしなくても」


「一緒に」


「生きられるからだ」


『……』


「一人を」


「選ぶ必要なんて」


「最初から」


「なかったんだ」


白い手が。


ゆっくり。


消えていく。


『……』


『では』


『お前自身は?』


「……」


『レオン』


『お前自身は』


『何を望む?』


俺は。


目を閉じる。


何度も。


自分に。


問いかける。


世界を救いたい。


みんなを守りたい。


ユウトを守りたい。


アリアといたい。


仲間といたい。


ルナにも。


また会いたい。


イオとも。


また会いたい。


でも。


それらは。


誰かのためだけではない。


俺自身が。


望んでいること。


そして。


もっと。


単純な願いが。


あった。


俺は。


目を開ける。


「俺は」


「生きたい」


白い世界が。


止まった。


「俺は」


「ただ」


「生きたい」


「明日」


「起きて」


「腹が減って」


「飯を食って」


「誰かと喧嘩して」


「笑って」


「疲れて」


「眠って」


「また」


「次の日を」


「迎えたい」


「……」


「世界を」


「救うためだけじゃない」


「誰かを」


「守るためだけじゃない」


「俺自身が」


「明日を」


「見たい」


その瞬間。


胸の中の光が。


一つ。


また一つ。


強く輝いた。


これまで。


別々だった光が。


消えることなく。


俺の中で。


並んでいる。


白い光。


青い光。


赤い光。


金色の光。


小さな光。


そして。


最後の光。


透明な光。


それが。


俺の胸から。


ゆっくり。


外へ出た。


「……?」


透明な光は。


俺の目の前で。


人の形になっていく。


「……!」


俺は。


息を呑む。


そこにいたのは。


少年だった。


黒い髪。


赤い瞳。


けれど。


ユウトとは。


少し違う。


もう一人のレオンとも。


違う。


「……」


少年は。


俺を見る。


そして。


笑った。


「やっと」


「会えた」


「……誰だ?」


少年は。


胸に。


手を当てる。


「俺は」


「お前が」


「最後まで」


「選ばなかったもの」


「……」


「俺は」


「――レオンの」


「『生きたい』という願い」


「……!」


俺は。


言葉を失った。


少年は。


続ける。


「世界を救いたい」


「誰かを守りたい」


「未来を変えたい」


「そういう願いは」


「いっぱい」


「あった」


「でも」


「自分自身が」


「生きたいっていう願いだけは」


「ずっと」


「奥に」


「しまってた」


「……」


「だから」


「俺は」


「生まれなかった」


「……」


少年が。


俺を見る。


「でも」


「今」


「お前が」


「自分で」


「選んだ」


「だから」


「俺も」


「存在できる」


俺は。


少年の前へ。


歩く。


「じゃあ」


「お前も」


「自分で」


「名前を決めろ」


少年は。


少し。


考えた。


そして。


笑った。


「……俺」


「名前は」


「レオンでいい」


「……」


「お前と」


「同じ名前じゃない」


「俺は」


「お前の中に」


「ずっといた」


「だから」


「俺は」


「――リオ」


「リオ……」


「うん」


「俺の」


「『生きたい』から」


「生まれた」


俺は。


手を差し出した。


リオが。


その手を握る。


温かい。


確かに。


生きている。


「よろしく」


「よろしく」


その瞬間。


世界樹が。


大きく。


輝いた。


新しい葉が。


一枚。


生まれる。


そこに。


文字が。


刻まれた。


第十六原則――自分自身の存在を選ぶ自由


誰かを救うために。


自分を消す必要はない。


誰かを愛するために。


自分を失う必要もない。


自分自身の存在を。


自分で肯定する。


それもまた。


選択。


白い手は。


完全に。


消えた。


そして。


空が。


青くなる。


俺たちの世界に。


静かな朝が。


戻ってくる。


「……」


俺は。


空を見上げる。


朝日。


それは。


普通の朝日だった。


特別な奇跡でもない。


世界を救う光でもない。


ただ。


今日という日を。


照らす光。


「……綺麗だな」


アリアが。


隣で。


笑う。


「うん」


「今日は」


「何する?」


「……」


俺は。


考える。


世界の謎。


最初の世界。


最後の世界。


終わり。


始まり。


まだ。


分からないことは。


山ほどある。


それでも。


今は。


「朝飯」


「……」


アリアが。


笑った。


「それが」


「レオンらしいね」


ノアが。


走ってくる。


「朝ご飯!」


「お腹すいた!」


「俺も!」


ユウトも。


続く。


「俺も手伝う」


「私は」


セリアが。


笑う。


「スープ作る」


「じゃあ」


カイが。


「俺は薪を取ってくる」


「私は」


ソアが。


手を上げる。


「野菜を」


「……」


世界が。


少しずつ。


日常に戻っていく。


その光景を。


俺は。


見つめる。


そして。


気づく。


俺が。


ずっと。


欲しかったもの。


それは。


「完璧な世界」ではなかった。


ただ。


こういう。


何でもない朝。


それを。


明日も。


見たい。


それだけだった。


「……」


俺は。


小さく。


笑う。


「明日も」


「来るといいな」


その瞬間。


遠くの空から。


声がした。


『――来るよ』


「……?」


振り返る。


誰もいない。


でも。


確かに。


聞こえた。


ルナの声。


『だって』


『私も』


『明日を』


『選んだから』


俺は。


空を見る。


「……ああ」


「また」


「会おう」


『うん』


そして。


空の向こうに。


小さな光が。


一つ。


輝いた。


それは。


アカツキの光。


ルナが。


自分で選んだ。


新しい世界の光。


俺は。


それを見つめながら。


思った。


世界は。


まだ。


終わらない。


俺も。


まだ。


終わらない。


そして。


きっと。


この先にも。


新しい出会いがある。


新しい選択がある。


新しい明日がある。


だから。


俺は。


歩き出す。


仲間たちのいる場所へ。


普通の朝へ。


そして。


まだ見ぬ。


明日へ。


――けれど。


その時。


俺は。


気づいていなかった。


世界樹の。


一番高い枝。


そこに。


誰にも見えない。


小さな。


黒い実が。


一つ。


実っていたことを。


その実の中には。


一つの。


目があった。


赤くもない。


青くもない。


白くもない。


ただ。


透明な目。


それが。


静かに。


俺たちを。


見つめている。


そして。


小さな声で。


呟いた。


『……まだ』


『終わってない』


『だって』


『本当の最後は』


『世界じゃない』


『時間だから』

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