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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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88/132

第88話 あなたを助ける者

――ピシッ。


世界樹の果実に。


二本目のひびが入った。


「……」


誰も。


声を出さない。


俺も。


ただ。


その果実を。


見上げていた。


透明な果実。


その中に。


小さな影。


そして。


さっきの声。


『お兄ちゃん』


『今度は』


『私が』


『あなたを助けるね』


「……」


俺の胸が。


大きく鳴った。


ドクン。


ドクン。


まるで。


その声を。


知っているような。


そんな感覚。


「レオン」


アリアが。


俺の腕に。


触れる。


「大丈夫?」


「ああ」


「でも」


「……」


俺は。


果実を見る。


「この声」


「聞いたことがある」


ユウトが。


隣に立つ。


「俺も」


「……え?」


「どこかで」


「聞いた気がする」


ユウトが。


目を細める。


「でも」


「思い出せない」


俺たちだけではない。


セリアも。


首を傾げる。


「私も」


「知らないはずなのに」


ミアが。


言った。


「懐かしい……」


「そう」


セレナも。


果実を見る。


「この世界に」


「生まれる前から」


「知っていたような」


そんな感覚。


観測者が。


黙っている。


「……」


俺は。


彼を見る。


「観測者?」


「分からない」


「……」


「それが」


「一番正確な答えだ」


珍しく。


観測者は。


困った顔をしていた。


「私が」


「観測してきた世界には」


「この存在は」


「いなかった」


「じゃあ」


「この世界だけの存在?」


「そうだ」


「……」


原初も。


果実を。


見つめている。


「私にも」


「分からない」


「原初にも?」


「この世界は」


「私が知っている世界ではない」


「……」


その言葉に。


少し。


嬉しくなる。


誰にも。


分からない。


だからこそ。


この世界は。


新しい。


決められていない。


知られていない。


まだ。


誰も。


答えを持っていない。


「……」


果実が。


さらに。


光る。


――ピシッ。


三本目のひび。


そこから。


白い光が。


漏れる。


『お兄ちゃん』


「……うん」


思わず。


返事をする。


『いる?』


「ああ」


『よかった』


「……」


『ずっと』


『呼んでたの』


「俺を?」


『うん』


「どうして?」


『あなたが』


『一人だったから』


「……」


その言葉に。


胸が。


締めつけられた。


一人。


確かに。


俺は。


長い間。


一人だった。


世界を救う。


ユウトを救う。


未来を守る。


そのために。


一人で。


全部を。


背負おうとした。


でも。


今は。


違う。


「俺は」


「もう」


「一人じゃない」


果実の中の。


少女が。


笑った。


『知ってる』


「……」


『だから』


『私は』


『生まれていいのかな』


「もちろん」


俺は。


即答した。


「生まれていい」


『……』


「でも」


俺は。


続ける。


「一つだけ」


『なに?』


「誰かを」


「助けるためだけに」


「生まれなくていい」


果実が。


揺れた。


「……」


「お前は」


「お前のために」


「生きていい」


長い。


沈黙。


そして。


小さな声。


『……うん』


『じゃあ』


『私は』


『私のために』


『生きる』


「そうだ」


『でも』


「ん?」


『それでも』


『お兄ちゃんが』


『困ってたら』


『助けてもいい?』


「……」


俺は。


笑った。


「ああ」


「もちろん」


「助けるのも」


「助けないのも」


「お前が決めればいい」


『うん』


その瞬間。


果実が。


大きく。


輝いた。


――パァァァッ!


光が。


世界樹全体を。


包む。


枝が。


空へ。


伸びる。


そして。


果実が。


ゆっくり。


開いていく。


「……!」


中から。


一人の少女が。


現れた。


白い髪。


赤い瞳。


小さな身体。


ゆっくり。


宙に浮かび。


そして。


俺の前へ。


降りてきた。


「……」


少女は。


俺を見る。


俺も。


少女を見る。


不思議な。


既視感。


でも。


今まで会った。


誰とも違う。


少女は。


小さく。


笑った。


「お兄ちゃん」


「……」


「初めまして」


「……初めまして」


思わず。


そう返した。


少女は。


嬉しそうに。


笑う。


「ちゃんと」


「会えた」


「うん」


「ずっと」


「会いたかった」


「どうして?」


少女は。


胸に。


手を当てる。


「ここに」


「あなたの光が」


「あったから」


「俺の?」


「うん」


少女の胸にも。


小さな光が。


ある。


それは。


俺の光とは。


少し違う。


透明で。


温かい。


「これは」


「何?」


エレナが。


近づく。


「生命の核……?」


原初が。


首を振る。


「違う」


「じゃあ?」


「これは」


「願いでも」


「可能性でもない」


「……」


観測者が。


呟く。


「記憶だ」


「記憶?」


「ああ」


「誰かの」


「記憶を」


「生まれる前から」


「持っている」


少女は。


胸に。


手を当てる。


「私」


「たくさん」


「知ってる」


「何を?」


「お兄ちゃんのこと」


「……」


「ユウトのこと」


「……」


「ルナのこと」


「……!」


「百七十二の世界」


「百七十三番目の世界」


「第零世界」


「全部」


俺は。


息を呑む。


「……どうして?」


少女は。


答えない。


代わりに。


俺の胸へ。


手を伸ばした。


「触ってもいい?」


「……ああ」


少女の手が。


俺の胸に。


触れる。


――ドクン。


瞬間。


光が。


弾けた。


「……っ!」


頭の中に。


大量の映像が。


流れ込んでくる。


最初の世界。


病院。


幼いユウト。


母さん。


父さん。


妹。


百七十二の世界。


世界樹。


原初。


ルナ。


最初の約束。


全部。


全部。


そして。


その先。


俺が。


知らなかった。


未来。


「……!」


俺は。


息を呑む。


そこには。


一人の少女が。


いた。


今。


目の前にいる少女と。


同じ姿。


でも。


少しだけ。


大きい。


十歳くらい。


その少女が。


泣いている。


誰もいない場所で。


「……」


そして。


その前に。


俺がいる。


大人の俺。


「大丈夫」


俺が。


少女に。


言っている。


「いつか」


「迎えに行く」


少女が。


泣きながら。


頷く。


「約束?」


「ああ」


「絶対?」


「絶対」


そこで。


映像が。


途切れた。


「……!」


俺は。


息を荒くする。


少女が。


心配そうに。


俺を見る。


「お兄ちゃん」


「……今の」


「うん」


「何だった?」


「私」


「……」


「まだ」


「生まれていなかった頃の」


「記憶」


「……」


「お兄ちゃんが」


「私を」


「迎えに来るって」


「言った」


「俺が?」


「うん」


「でも」


「俺は」


「覚えてない」


少女は。


笑った。


「だから」


「私が」


「覚えてた」


「……」


その言葉を。


聞いた瞬間。


俺は。


気づいた。


この子は。


未来の記憶を。


持っている。


でも。


未来は。


固定されていない。


なら。


この記憶は。


何だ?


「……」


俺は。


少女を見る。


「お前」


「未来から」


「来たのか?」


少女は。


首を振る。


「分からない」


「……」


「未来が」


「先に」


「私を」


「覚えていたの」


「……」


「だから」


「私は」


「ここに」


「生まれた」


原初が。


静かに。


言う。


「……未来記憶」


「未来記憶?」


「未来が」


「確定したのではない」


「未来の可能性が」


「記憶として」


「先に」


「存在している」


俺は。


考える。


未来が。


先に。


記憶を作った。


その記憶が。


少女を。


ここへ。


導いた。


つまり。


この子は。


未来から。


来たわけではない。


未来そのものが。


生まれるために。


現在へ。


現れた。


「……」


ミライが。


少女を見る。


「あなた」


「私と」


「少し」


「似てる」


少女は。


頷く。


「うん」


「でも」


「違う」


「どう違うの?」


「ミライは」


「まだ選ばれてない未来」


「私は」


「一度」


「選ばれた未来」


「……!」


俺は。


少女を見る。


「一度」


「選ばれた?」


「うん」


「でも」


「その未来は」


「消えた」


「……」


「だから」


「私は」


「生まれられなかった」


「じゃあ」


「どうして」


「今?」


少女は。


俺を見る。


「お兄ちゃんが」


「未来を」


「消さないって」


「決めたから」


「……」


「私は」


「もう一度」


「生まれることが」


「できた」


俺は。


言葉を。


失う。


この世界は。


本当に。


今までの。


すべてを。


拾っていく。


選ばれなかった未来。


消えた未来。


願われなかった未来。


忘れられた未来。


それらが。


「存在してはいけない」と。


されるのではなく。


自分の未来を。


選び直している。


「……」


少女が。


俺を見る。


「だから」


「私」


「あなたを」


「助けたい」


「……」


「あなたが」


「みんなを」


「助ける必要が」


「なくなるように」


俺の目から。


涙が。


落ちた。


「……」


少女は。


驚く。


「お兄ちゃん?」


俺は。


笑う。


「ごめん」


「……」


「嬉しくて」


少女も。


笑った。


「じゃあ」


「私」


「ここに」


「いてもいい?」


「ああ」


「名前も」


「自分で決めていい?」


「もちろん」


少女は。


少し。


考えた。


空を見る。


海を見る。


世界樹を見る。


仲間を見る。


そして。


俺を見る。


「……」


「決めた」


「なんて名前?」


少女は。


笑った。


「――ミナ」


「ミナ?」


「うん」


「みんなの」


「中に」


「いたいから」


「……」


ユウトが。


笑う。


「いい名前だな」


アリアも。


頷く。


「うん」


ミナは。


嬉しそうに。


笑う。


「よろしく」


「よろしくな」


俺は。


手を差し出す。


ミナが。


小さな手を。


重ねる。


その瞬間。


世界樹が。


光った。


新しい葉が。


一枚。


生まれる。


そこには。


新しい原則が。


刻まれていた。


第十三原則――記憶は未来を縛らない


過去の記憶も。


未来の記憶も。


現在の選択を。


奪うものではない。


覚えているからといって。


同じ未来を。


選ぶ必要はない。


ミナは。


その文字を見る。


「……」


そして。


小さく。


笑う。


「じゃあ」


「私も」


「未来を」


「変えていいんだね」


「ああ」


「お兄ちゃんの」


「知っている未来も?」


「ああ」


「全部?」


「ああ」


「……」


ミナは。


嬉しそうに。


笑った。


「じゃあ」


「私」


「もっと」


「生きてみたい」


「そうしろ」


その時。


突然。


空が。


暗くなった。


「……?」


雲ではない。


黒い。


巨大な影。


空の向こうに。


何かが。


現れた。


観測者が。


顔を上げる。


「……これは」


「どうした?」


「外部干渉だ」


「また」


「あの存在?」


「違う」


「……」


観測者が。


首を振る。


「もっと」


「古い」


空に。


一つの。


巨大な目が。


開く。


けれど。


赤くない。


黒くない。


白い。


完全な。


白。


そして。


その目が。


俺を見る。


『――見つけた』


「……誰だ」


『ようやく』


『見つけた』


『私の』


『最後の一人』


「……」


ミナが。


俺の手を。


強く握る。


そして。


怯えた声で。


言った。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「この声」


「私」


「知ってる」


「……」


「生まれる前に」


「何度も」


「聞いた」


俺は。


空を見る。


白い目。


そして。


その奥から。


一つの言葉が。


響いた。


『――レオン』


『今度こそ』


『お前を』


『選びに来た』


空が。


真っ白に。


染まった。


そして。


第零世界の。


さらに奥で。


新たな扉が。


開いた。


その扉に。


刻まれていた文字は。


――「終」。


始まりの扉の。


反対側。


俺たちは。


まだ。


世界の本当の終わりを。


見ていなかった。

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