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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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87/132

第87話 俺自身の願い

時計塔の鐘が。


鳴り響いている。


――ゴォォン。


赤い空。


静まり返った街。


そして。


時計塔の上に立つ。


一人の男。


最初の選択者。


俺は。


その姿を。


じっと見上げていた。


「お前が……」


「すべての始まりなのか」


選択者は。


笑う。


「すべてではない」


「……」


「始まりの一つだ」


「また」


「一つ?」


「ああ」


選択者は。


時計塔から。


ゆっくり。


降りてくる。


一歩。


また一歩。


階段を。


歩く音だけが。


響く。


「お前たちは」


「始まりを」


「一つだと思いすぎている」


「……」


「世界は」


「一つの理由で」


「生まれたわけではない」


「願いも」


「一つではない」


「選択も」


「一つではない」


「そして」


選択者が。


俺を見る。


「お前自身も」


「一人ではない」


胸の奥が。


ズキッと。


痛んだ。


俺の中には。


いくつもの光がある。


選ばなかった未来。


可能性。


過去。


記憶。


何度も。


生まれた俺。


死んだ俺。


世界になった俺。


犠牲になろうとした俺。


全部。


俺の中にある。


「……」


「それでも」


俺は。


答えた。


「俺は」


「俺だ」


選択者は。


少しだけ。


目を細めた。


「そう言えるようになったか」


「何?」


「昔のお前なら」


「違う答えをした」


「……」


「昔のお前は」


「誰かを救うことを」


「自分の存在理由にしていた」


「……」


「弟を救う」


「家族を守る」


「世界を救う」


「未来を救う」


「すべてを」


「救おうとした」


「だから」


選択者が。


手を広げる。


街全体が。


光に包まれた。


「お前には」


「願う資格がない」


「……!」


アリアが。


一歩。


前に出る。


「レオンに」


「そんなことを言う権利が」


「あなたにあるの?」


選択者は。


アリアを見る。


「ない」


「……」


「だから」


「今」


「聞いている」


「……?」


「レオン自身に」


「聞いている」


選択者が。


俺を見る。


「誰かのためではない」


「世界のためでもない」


「ユウトのためでもない」


「仲間のためでもない」


「ルナのためでもない」


「未来のためでもない」


「過去のためでもない」


「では」


「お前は」


「何を願う?」


「……」


静寂。


誰も。


口を挟まない。


ユウトも。


アリアも。


セリアも。


みんな。


俺を見ている。


答えを。


急かさない。


俺は。


目を閉じた。


何が。


欲しい?


昔なら。


すぐに。


答えられた。


ユウトを助けたい。


世界を守りたい。


誰も死なない未来が欲しい。


みんなで。


笑いたい。


でも。


それは。


本当に。


俺自身の願いなのか。


俺は。


もう一度。


考える。


「……」


俺が。


欲しかったもの。


何だ?


強さ?


力?


永遠?


完璧な未来?


失わない世界?


違う。


俺は。


ずっと。


何かを。


恐れていた。


失うこと。


離れること。


忘れること。


誰かが。


いなくなること。


だから。


全部を。


守ろうとした。


全部を。


残そうとした。


でも。


今は。


違う。


ルナは。


俺の隣にいない。


でも。


俺は。


ルナを。


信じられる。


ユウトも。


俺の隣にいる。


でも。


俺は。


ユウトの未来を。


決めない。


カナも。


自分の過去を。


抱えている。


でも。


それでいい。


ノアも。


ハネも。


ソアも。


ミライも。


カイも。


リクも。


みんな。


自分の未来を。


選んでいる。


俺だけが。


全部を。


決める必要はない。


「……」


俺は。


目を開いた。


「俺の願いは」


選択者が。


黙って。


待つ。


「……」


俺は。


ゆっくり。


言った。


「俺は」


「明日が」


「欲しい」


「……」


誰も。


動かない。


俺は。


続ける。


「特別じゃなくていい」


「世界を」


「救う明日じゃなくていい」


「誰かが」


「英雄になる明日じゃなくていい」


「ただ」


「朝になって」


「目を覚まして」


「腹が減ったら」


「飯を食って」


「誰かと喧嘩して」


「笑って」


「疲れたら寝る」


「そんな」


「普通の明日が」


「欲しい」


胸の奥が。


温かくなる。


「そして」


「明日になったら」


「また」


「明後日が欲しい」


「……」


「でも」


俺は。


選択者を見る。


「それを」


「永遠にする必要はない」


「……」


「明日が」


「今日と違ってもいい」


「誰かが」


「別の道へ行ってもいい」


「世界が」


「変わってもいい」


「俺自身が」


「変わってもいい」


「それでも」


俺は。


笑った。


「また」


「明日を迎えたい」


選択者は。


何も言わなかった。


しばらく。


ただ。


俺を見ている。


そして。


初めて。


笑った。


「……それが」


「お前自身の願いか」


「ああ」


「誰も救わない?」


「救いたい時は」


「助ける」


「だが」


「相手の人生を」


「俺が決めることはしない」


「世界を守らない?」


「守りたい時は」


「守る」


「だが」


「世界の未来を」


「俺一人で決めない」


「ルナを求めない?」


俺は。


少しだけ。


笑った。


「会いたい」


「……」


「でも」


「帰ってこいとは」


「言わない」


選択者の目が。


少し。


揺れた。


「……なるほど」


そして。


俺の前に。


一つの赤い扉が。


現れた。


「最後の選択だ」


「……」


「この扉の向こうに」


「お前の願いを」


「現実にした世界がある」


「……!」


「行けばいい」


「そこでは」


「お前の望む」


「普通の明日が」


「永遠に続く」


「誰も」


「お前を離れない」


「誰も」


「死なない」


「誰も」


「傷つかない」


「……」


「ただし」


選択者が。


言った。


「その世界では」


「誰も」


「未来を選べない」


「……」


「すべてが」


「お前の願いによって」


「決められている」


「……」


俺は。


扉を見る。


一見。


完璧な世界。


誰も死なない。


誰も離れない。


毎日。


同じ笑顔。


同じ朝。


同じ仲間。


同じ家。


同じ世界。


それは。


昔の俺なら。


飛びついていたかもしれない。


でも。


今は。


違う。


俺は。


扉を。


見つめる。


「……」


そして。


後ろを。


振り返った。


みんなが。


いる。


ユウト。


アリア。


セリア。


ノア。


ミライ。


ソア。


カナ。


カイ。


リク。


ハネ。


ユラ。


エレナ。


観測者。


原初。


そして。


この世界の。


どこかにいる。


ルナ。


みんな。


俺を。


見ている。


でも。


誰も。


「選べ」と。


言わない。


俺は。


扉に。


手を置いた。


そして。


言った。


「俺は」


「この扉を」


「選ばない」


――パキッ。


赤い扉に。


ひびが入る。


選択者が。


聞く。


「なぜ?」


「だって」


俺は。


答える。


「俺の願いは」


「世界を」


「固定することじゃない」


「……」


「明日を」


「迎えることだ」


「……」


「明日が」


「今日と違うから」


「明日なんだ」


赤い扉が。


崩れていく。


光の粒になる。


そして。


その光が。


街中へ。


広がっていく。


家。


学校。


病院。


道路。


公園。


すべてが。


少しずつ。


変わっていく。


「……!」


街に。


人が。


現れた。


一人。


また一人。


子供。


老人。


大人。


笑っている人。


泣いている人。


怒っている人。


走っている人。


転んでいる人。


完璧ではない。


誰も。


同じ未来を。


持っていない。


それぞれが。


違う。


選び。


生きている。


「……」


俺は。


それを。


見つめる。


選択者が。


呟いた。


「世界が」


「自分で」


「未来を」


「選び始めた」


「……」


「これが」


「お前の願いか」


「俺だけの願いじゃない」


俺は。


答える。


「みんなが」


「明日を」


「選べる世界だ」


その瞬間。


空に。


大きな文字が。


浮かび上がった。


第十二原則――明日の選択


未来は。


誰か一人の願いで。


固定されない。


明日は。


一人一人が。


迎え。


選び。


作っていく。


世界樹が。


光った。


そして。


俺の胸にある。


いくつもの光も。


一つずつ。


輝き始めた。


「……」


選択者が。


それを見ている。


「お前は」


「ようやく」


「願いを」


「手放したな」


「……?」


「願いを」


「自分だけのものに」


「しなかった」


「だから」


「世界に」


「返した」


「……」


俺は。


胸に。


手を当てる。


確かに。


光が。


変わっている。


以前は。


俺の中に。


あった。


でも。


今は。


世界のあちこちへ。


広がっている。


「……」


それは。


願いが。


なくなったのではない。


願いを。


独占しなくなっただけ。


俺は。


そう思った。


その時。


街の中央から。


一人の少女が。


歩いてきた。


白い髪。


赤い瞳。


小さな身体。


俺は。


気づく。


「……」


あの子だ。


写真から。


出てきた。


名前のない少女。


少女は。


俺の前に。


立つ。


「決めた」


「……名前?」


「うん」


「なんて名前?」


少女は。


笑う。


「私」


「――ソラ」


「……!」


俺は。


思わず。


笑ってしまった。


以前。


俺たちは。


別の世界で。


同じ名前を。


赤ん坊につけた。


空を見ていたから。


ソラ。


でも。


この子は。


そのソラとは。


違う。


同じ名前を。


自分で選んだ。


「いい名前だな」


「うん」


「どうして?」


少女は。


空を見る。


「まだ」


「何も」


「決まってないから」


「……」


「空みたいに」


「どこへでも」


「行けるから」


俺は。


頷いた。


「そうだな」


少女は。


俺の手を。


握った。


「お兄ちゃん」


「……」


その呼び方に。


胸が。


温かくなる。


「うん」


「これから」


「よろしくね」


「ああ」


その時。


遠くから。


声がした。


『レオン』


「……!」


ルナ。


俺は。


空を見る。


小さな星が。


一つ。


瞬いている。


『私も』


『一つ』


『選んだよ』


「何を?」


『名前』


「……!」


俺は。


笑った。


「決まったのか?」


『うん』


『この世界の名前』


俺は。


息を止める。


この世界には。


まだ。


正式な名前がなかった。


誰かが。


一方的に。


決めることを。


拒んできたから。


ルナは。


自分の世界に。


名前をつける。


けれど。


それは。


他者を縛る名前ではない。


彼女自身が。


選んだ名前。


『聞いてくれる?』


「もちろん」


『この世界は』


少し。


間があった。


『――アカツキ』


「……アカツキ」


『うん』


『夜が終わって』


『朝が来る前の』


『一番最初の光』


俺は。


その名前を。


心の中で。


繰り返す。


アカツキ。


夜と。


朝の。


境界。


まだ。


完全な朝ではない。


でも。


確かに。


朝へ。


向かっている。


「いい名前だ」


『ありがとう』


その瞬間。


世界全体が。


光った。


空。


海。


大地。


世界樹。


街。


家。


すべてが。


一つの光に。


包まれる。


そして。


空に。


新しい文字が。


浮かんだ。


世界名――アカツキ


初めて。


世界が。


自分の名前を。


持った。


誰か一人が。


命令した名前ではない。


誰かが。


押しつけた名前でもない。


ルナが。


自分で。


選んだ名前。


そして。


世界が。


それを。


受け入れた。


「……」


俺は。


笑う。


これで。


この世界も。


始まった。


でも。


その直後。


俺は。


気づいた。


「……あれ?」


「どうした?」


アリアが。


聞く。


「世界樹」


「……?」


見る。


世界樹の。


一番上。


そこに。


今まで。


なかった。


一つの。


果実が。


実っている。


白でも。


黒でもない。


赤でもない。


透明。


まるで。


ガラスのような。


果実。


その中に。


何かが。


いる。


「……」


動いた。


小さな。


手。


そして。


声。


『……お兄ちゃん』


俺は。


息を呑む。


「……まさか」


果実に。


ひびが入る。


――ピシッ。


「また」


世界が。


新しい命を。


生もうとしている。


そして。


その果実の中から。


聞こえた声は。


俺の知っている。


誰かの声に。


とても。


よく似ていた。


『お兄ちゃん』


『今度は』


『私が』


『あなたを』


『助けるね』

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