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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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83/132

第83話 存在してはならない者

空が。


裂けた。


まるで。


巨大な爪で。


世界そのものを。


引き裂いたように。


黒い亀裂が。


空いっぱいに。


広がっていく。


「……来る」


カイが。


呟いた。


俺は。


カナの前に立った。


「レオン!」


アリアが。


叫ぶ。


「みんな、下がって!」


世界樹が。


大きく。


揺れている。


葉が。


一枚。


また一枚。


空へ。


舞い上がっていく。


そして。


黒い亀裂の向こうから。


あの声が。


響いた。


『その存在を』


『こちらへ返せ』


「断る」


俺は。


即答した。


『それは』


『お前が決めることではない』


「……」


『私が』


『選ばなかった』


『存在だ』


「だから?」


『だから』


『存在してはならない』


俺は。


拳を握った。


「それを決めるのは」


「お前じゃない」


『では』


『誰が決める?』


「カナ自身だ」


黒い亀裂が。


揺れた。


『……』


「ここにいたいか」


俺は。


振り返らずに。


カナへ。


尋ねた。


「カナ」


「……」


「自分で決めて」


カナは。


震えていた。


当然だ。


突然。


生まれた。


自分が何者なのかも。


まだ。


完全には分からない。


それなのに。


世界の外側にいる存在から。


「存在してはいけない」と。


言われた。


怖くないはずがない。


「……私」


カナが。


小さな声で。


言った。


「ここに」


「いたい」


「うん」


「みんなと」


「いたい」


「うん」


「でも……」


カナは。


空を見る。


「私がいることで」


「この世界が」


「壊れるなら……」


「……」


「私」


「消えたほうが」


「いいのかな」


その言葉を。


聞いた瞬間。


胸が。


痛んだ。


それは。


昔の俺と。


同じだった。


自分が犠牲になれば。


みんなが助かる。


そう思っていた。


俺は。


カナの前に。


しゃがんだ。


「それは」


「俺が決める」


カナが。


顔を上げる。


「え?」


「消えるかどうかは」


「カナが決める」


「……」


「でも」


俺は。


続けた。


「カナが消えなきゃいけない理由を」


「誰かに決めさせるつもりはない」


カナの目に。


涙が浮かぶ。


「……レオン」


「大丈夫」


俺は。


笑った。


「俺たちは」


「もう」


「犠牲で未来を作らない」


その瞬間。


ユウトが。


隣に立った。


「そうだよ」


「ユウト……」


「俺も」


ユウトは。


カナを見る。


「消えたくないなら」


「消えなくていい」


アリアも。


立つ。


「私も」


セリアも。


「私も」


ミライ。


「私も」


ソア。


「……私も」


リク。


「僕も」


カイ。


「俺も」


ノアは。


俺の腕の中から。


顔を出した。


『私も!』


ユラも。


静かに。


頷く。


「私も」


ルナの姿は。


ない。


けれど。


俺の胸の奥に。


小さな光が。


灯った。


――また会おう。


その言葉が。


聞こえた気がした。


「……」


俺は。


空を見る。


「聞こえたか?」


『……』


「この世界には」


「カナを」


「選ぶ人間がいる」


『……』


「だから」


俺は。


世界樹に。


手を置いた。


「この世界に」


「カナの場所を」


「作る」


――ドクン。


世界樹が。


鳴った。


その瞬間。


カナの足元から。


黒い光が。


広がる。


「……!」


カナが。


驚く。


「何?」


エレナが。


叫んだ。


「世界樹が」


「カナを」


「登録している……!」


「登録?」


「この世界の存在として」


「認めようとしてる!」


黒い亀裂の向こうから。


声が。


響く。


『認める?』


『世界が?』


『そんな権限を』


『世界に与えた覚えはない』


原初が。


空を睨む。


「お前に」


「この世界の権限はない」


『原初』


「……」


『お前も』


『もう』


『古い』


「……」


原初の顔が。


険しくなる。


『世界を』


『管理する時代は』


『終わった』


「……」


『なら』


『誰が』


『管理する?』


俺は。


答えた。


「誰も」


『……』


「誰か一人が」


「全部を決める必要なんてない」


「この世界は」


「みんなで」


「作っていく」


黒い亀裂が。


さらに。


広がった。


『それでは』


『世界は』


『不安定になる』


「なるかもしれない」


『崩壊する』


「そうかもしれない」


『失敗する』


「失敗するだろうな」


『……』


俺は。


笑った。


「でも」


「失敗できる世界は」


「生きてる」


黒い亀裂が。


止まった。


一瞬。


静寂が。


訪れる。


そして。


その向こうから。


初めて。


戸惑いの声がした。


『……理解できない』


「なら」


「見てろ」


「この世界が」


「どうなるか」


『……』


「俺たちも」


「分からない」


「だから」


「一緒に」


「探す」


その瞬間。


黒い亀裂から。


巨大な手が。


伸びてきた。


「……!」


大地が。


揺れる。


「来るぞ!」


カイが。


叫ぶ。


巨大な手が。


世界樹へ。


伸びる。


目的は。


一つ。


カナ。


「させるか!」


俺は。


走った。


剣を抜く。


けれど。


手に。


刃を当てた瞬間。


――ガキィン!


弾き飛ばされる。


「ぐっ!」


地面を。


転がる。


「レオン!」


アリアが。


駆け寄る。


「大丈夫!」


俺は。


立ち上がる。


手が。


痺れている。


「硬すぎる……」


カイが。


前に出る。


「俺がやる」


黒い海のような力が。


カイの周囲に。


集まる。


「カイ!」


「大丈夫」


カイは。


拳を握る。


「僕は」


「敵じゃない」


「味方だ」


その言葉と。


同時に。


力が。


弾けた。


――ドォン!


巨大な手が。


少しだけ。


押し戻される。


「やった!」


ノアが。


喜ぶ。


けれど。


カイの顔は。


険しい。


「……まだ」


「何?」


「この手」


「俺を」


「知ってる」


「……?」


「俺が」


「前に」


「選ばれた時の」


「黒い力だ」


俺は。


理解した。


あの存在は。


カイを。


「最初の敵」に。


選んだ。


その選択の力が。


まだ。


残っている。


「じゃあ」


俺は。


世界樹を見る。


「カイ」


「ん?」


「その力」


「自分のものにできる?」


カイは。


考える。


「……」


「無理に」


「とは言わない」


「でも」


「できるなら」


「選んでみろ」


カイは。


手を。


見つめる。


「……」


そして。


目を閉じた。


「僕は」


「敵じゃない」


「でも」


「敵だった力を」


「消す必要もない」


「……」


「僕が」


「使い方を」


「決める」


――ドクン。


カイの胸から。


青い光が。


広がる。


黒い力が。


青へ。


変わっていく。


巨大な手に。


青い波が。


ぶつかる。


「……!」


手が。


止まる。


カイが。


叫んだ。


「僕の力だ!」


「誰にも」


「決めさせない!」


――ドォォン!!


巨大な手が。


空へ。


弾き返された。


黒い亀裂が。


大きく。


揺れる。


『……』


初めて。


外の存在が。


沈黙した。


カイが。


息を切らす。


「……」


俺は。


肩を叩いた。


「やったな」


「うん」


カイは。


笑った。


「僕」


「少しだけ」


「自分が」


「分かった気がする」


「それでいい」


「うん」


しかし。


その時。


世界樹の根元で。


異変が起きた。


カナが。


突然。


胸を押さえる。


「……っ」


「カナ?」


「痛い……」


「どうした!?」


カナの身体から。


黒い光が。


溢れ始める。


「……!」


原初が。


顔を上げた。


「これは」


「何?」


「カナ自身の」


「記憶だ」


「記憶?」


「生まれる前の」


「記憶が」


「戻り始めている」


カナの目が。


赤く光る。


「……」


そして。


カナの口から。


別の声が。


漏れた。


『……レオン』


「……!」


その声。


聞き覚えがある。


最初の世界。


最初の約束。


あの白い空間。


「……お前」


カナが。


顔を上げる。


その瞳は。


カナのものではなかった。


『私は』


『ずっと』


『見ていた』


「……誰だ?」


『あなたが』


『百七十三の世界を』


『繰り返すところを』


「……」


『あなたが』


『ユウトを救おうとして』


『自分を犠牲にするところを』


「……」


『あなたが』


『誰も犠牲にしない未来を』


『選んだところを』


俺は。


息を呑む。


「お前は」


『私は』


カナの身体から。


黒い光が。


浮かび上がる。


『選ばれなかった』


『もう一つの』


『最初の願い』


「……!」


その言葉に。


ルナの気配が。


胸の奥で。


震えた。


『あなたが』


『誰かと一緒にいたいと』


『願った時』


『同時に』


『生まれた』


『もう一つの願い』


「……」


『一人になりたくない』


『という願い』


「……」


『でも』


『それは』


『いつしか』


『誰かを失いたくない』


『という恐怖に』


『変わった』


「……」


『だから』


『私は』


『あなたの世界を』


『何度も』


『閉じようとした』


俺は。


愕然とした。


「……まさか」


『そう』


『世界を』


『選定世界に』


『変えようとした者』


『外の存在』


『あれも』


『私の一部』


「……!」


空の向こう。


黒い存在が。


初めて。


声を荒らげた。


『黙れ』


『その記憶を』


『消せ』


カナが。


震える。


「……」


俺は。


カナの肩に。


手を置いた。


「大丈夫」


カナが。


俺を見る。


今度は。


ちゃんと。


カナの瞳だった。


「……レオン」


「うん」


「私」


「何?」


「私」


「怖い」


「……」


「私の中に」


「こんなのが」


「いる」


俺は。


首を振った。


「違う」


「え?」


「お前の中にあるなら」


「それも」


「カナの一部だ」


「……」


「でも」


「それがお前の全部じゃない」


カナの目から。


涙が。


落ちる。


「……」


「自分で」


「選べ」


「何を?」


「どう生きるか」


「何になるか」


「その黒い光を」


「どうするか」


「全部」


「カナが」


「決めていい」


「……」


カナは。


長い間。


黙っていた。


そして。


自分の胸に。


手を当てた。


「……じゃあ」


「うん」


「私」


「この光を」


「捨てない」


「……!」


「でも」


「これに」


「支配も」


「させない」


黒い光が。


静かに。


カナの胸へ。


戻っていく。


「私の中に」


「いていい」


「でも」


「私が」


「決める」


――ドクン。


世界樹が。


鳴った。


そして。


空に。


新しい文字が。


浮かび上がる。


第九原則――過去の受容


誰も。


過去を。


消さなくていい。


誰かの中にある。


恐怖も。


失敗も。


悲しみも。


それを。


抱えたまま。


未来を。


選んでいい。


世界樹の葉が。


また。


増えた。


カナは。


その文字を。


見上げる。


「……」


「どうした?」


「私」


「少し」


「分かった」


「何が?」


カナは。


胸に。


手を置く。


「私」


「生まれた理由」


「……」


「たぶん」


「一人になりたくないって」


「思ったから」


俺は。


静かに。


頷いた。


「そうか」


「だから」


カナは。


笑った。


「私」


「ここにいる」


「うん」


「一人じゃない」


「ああ」


その時。


空の亀裂が。


ゆっくり。


閉じ始めた。


けれど。


完全には。


消えない。


最後に。


あの存在が。


言った。


『……いいだろう』


『ならば』


『次は』


『私自身を』


『定義する』


「……」


『私が』


『何者なのか』


『私自身が』


『選ぶ』


そして。


亀裂が。


閉じた。


静寂。


カイが。


呟く。


「……あいつも」


「変わり始めてる?」


観測者が。


頷いた。


「たぶん」


「それなら」


俺は。


空を見る。


「まだ」


「終わってないな」


「ああ」


観測者は。


笑う。


「むしろ」


「始まったばかりだ」


その日の夜。


俺たちは。


新しく作った家の前で。


焚き火を囲んだ。


ノアが。


パンを食べ。


ユウトが。


笑い。


アリアが。


火を起こし。


カイとリクが。


何かを言い争っている。


ソアと。


ハネと。


カナは。


世界樹の下で。


三人並んで。


空を見ていた。


「……」


俺は。


その光景を。


眺める。


失ったものも。


まだ。


戻っていないものも。


たくさんある。


ルナも。


まだ。


帰ってきていない。


それでも。


俺は。


思った。


――これでいい。


全部を。


取り戻す必要はない。


全部を。


一つにする必要もない。


それぞれが。


それぞれの場所で。


生きて。


選んで。


また。


出会えばいい。


その時。


世界樹の上に。


一つの光が。


灯った。


白い光。


それは。


ゆっくり。


形を変えていく。


少女の姿。


白い髪。


赤い瞳。


俺は。


立ち上がった。


「……!」


少女が。


世界樹から。


降りてくる。


そして。


俺を見る。


「……レオン」


「……ルナ?」


少女は。


首を振った。


「違う」


「……」


「私は」


「ルナじゃない」


「じゃあ」


少女は。


胸に。


手を当てる。


「まだ」


「名前が」


「ない」


「……」


「でも」


「あなたに」


「伝えたいことが」


ある。


「何?」


少女は。


俺の耳元へ。


近づいた。


そして。


小さな声で。


囁いた。


「――ルナは」


「世界の外に」


「いるんじゃない」


「……」


「世界の」


「次にいる」


「……何?」


少女は。


空を指差した。


「第零の門の」


「さらに先」


「そこに」


「次の世界が」


「もう」


「生まれ始めてる」


俺は。


空を見上げる。


すると。


星のない夜空に。


一つ。


見たことのない星が。


生まれた。


そして。


その星の中心から。


聞こえた。


『――レオン』


『次は』


『私の世界だよ』


俺は。


息を呑んだ。


その声は。


ルナだった。


けれど。


どこか。


今までとは。


違っていた。


まるで。


ルナ自身が。


新しい世界を。


作ろうとしているような。


そんな声だった。


そして。


その星の周囲に。


無数の光が。


集まり始める。


新しい世界の。


始まり。


俺たちは。


再び。


世界の外へ。


向かうことになる。

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