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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第79話 もう一人のユウト

赤い瞳が。


扉の隙間から。


こちらを見ていた。


俺は。


動けなかった。


「……ユウト」


隣にいるユウトが。


小さく呟く。


扉の向こうにいる存在も。


同じ顔。


同じ声。


同じ名前。


でも。


俺は知っている。


ここにいるユウトは。


本物だ。


少なくとも。


俺にとっては。


間違いなく。


俺の弟だ。


「兄ちゃん」


ユウトが。


俺の袖を掴む。


「俺じゃないよ」


「……ああ」


「分かってる?」


「分かってる」


そう答えた。


けれど。


胸の奥では。


分からないという感覚が。


広がっていた。


なぜなら。


俺は。


今まで何度も。


ユウトを失ってきた。


何度も。


救えなかった。


何度も。


別の未来を作った。


そして。


何度も。


「ユウト」という存在を。


追いかけてきた。


だから。


扉の向こうの存在が。


本当に。


俺が救えなかったユウトなら。


俺は。


どうすればいい?


「……開ける?」


アリアが。


俺を見る。


「いや」


俺は。


首を横に振った。


「まだ」


「どうして?」


「分からないから」


俺は。


扉を見る。


「分からないものを」


「俺が勝手に決めたくない」


その言葉に。


ソアが。


俺を見る。


「……」


「どうした?」


「レオン」


「ん?」


「それ」


「私にも」


「同じ?」


「……」


俺は。


頷いた。


「ああ」


「ソアが何者なのかも」


「俺には決められない」


「……」


ソアは。


少し。


嬉しそうに。


笑った。


「ありがとう」


その時。


扉の向こうから。


声がした。


『――優しいね』


「……」


『でも』


『その優しさは』


『いつまで続くかな』


「何?」


『僕は』


『君が救えなかった未来』


『君が捨てた未来』


『君が見なかった未来』


『その全部から生まれた』


「……」


俺は。


息を呑む。


『僕は』


『君の弟だった可能性』


『君の弟になれなかった可能性』


『君が守れなかった可能性』


『その全部だ』


「……つまり」


セリアが。


呟く。


「一つの存在じゃない?」


「そういうこと」


観測者が。


答えた。


「複数の未選択未来が」


「一つの人格を作っている」


「……」


扉の向こうの少年が。


笑った。


『正解』


『僕には』


『本当の名前がない』


「……」


『ユウト』


『そう呼ばれているだけ』


俺は。


拳を握った。


「じゃあ」


「お前は」


「誰なんだ?」


『分からない』


即答だった。


『だから』


『確かめに来た』


「何を?」


『僕が』


『ユウトなのか』


『ユウトじゃないのか』


『それとも』


『ユウトという名前すら』


『必要ないのか』


「……」


ソアが。


一歩。


前に出た。


「私と」


「同じ」


扉の向こうの少年が。


ソアを見る。


『……君は?』


「ソア」


『それは』


「私が決めた」


『……』


「あなたは?」


少年は。


少し。


黙った。


『僕は』


『決めてもらった』


「誰に?」


『……』


答えは。


なかった。


その沈黙だけで。


分かった。


この世界が。


今まで。


何度も。


繰り返してきたこと。


誰かが。


誰かの名前を決める。


誰かが。


誰かの役割を決める。


誰かが。


誰かの未来を決める。


それを。


終わらせるために。


俺たちは。


ここまで来た。


「名前」


俺は。


扉に近づいた。


「自分で決めろ」


『……』


「俺は」


「お前を」


「ユウトとは呼ばない」


「……」


「少なくとも」


「お前自身が」


「そう呼んでほしいと言うまでは」


扉の向こうの少年が。


目を見開く。


『……』


「役割も」


「決めない」


「敵か味方かも」


「決めない」


「俺の弟かどうかも」


「決めない」


「全部」


「お前自身が決めろ」


長い沈黙。


やがて。


少年は。


小さく笑った。


『……君は』


『本当に』


『変わったね』


「そうかな」


『うん』


『昔の君なら』


『僕を救おうとして』


『僕の代わりに』


『何かを捨てた』


「……」


『でも今は』


『僕に選ばせる』


「そうだ」


『……』


少年は。


目を閉じた。


そして。


初めて。


自分の胸に。


手を当てた。


『僕』


『何がしたいんだろう』


誰も。


答えなかった。


答えてはいけなかった。


第六原則。


――他者選択の禁止。


だから。


待つ。


少年自身が。


答えを出すまで。


すると。


その時だった。


ソアが。


少年に。


話しかけた。


「ねえ」


『……何?』


「分からないなら」


「分からないままでも」


「いいんじゃない?」


『……』


「私も」


「まだ」


「自分が何者なのか」


「分からない」


「でも」


ソアは。


笑った。


「今」


「ここにいる」


「それだけは」


「分かる」


『……』


少年の赤い瞳から。


一滴。


涙が落ちた。


『……そっか』


『分からなくても』


『ここにいていいんだ』


「うん」


『……』


「それなら」


少年は。


扉の向こうで。


初めて。


笑った。


『僕も』


『ここにいたい』


扉が。


大きく。


開いた。


その向こうに。


少年が。


立っていた。


白い服。


黒い髪。


赤い瞳。


ユウトと。


同じ顔。


けれど。


少しだけ。


違う。


表情が。


違う。


立ち方が。


違う。


そして。


何より。


目が違った。


ユウトの目には。


「今」がある。


この少年の目には。


「まだ決まっていない未来」が。


映っていた。


少年は。


こちらを見る。


「……」


俺も。


見つめ返す。


「名前」


俺は。


聞いた。


「決めた?」


少年は。


少し。


考える。


そして。


空を見上げた。


「……リク」


「リク?」


「うん」


「どうして?」


「ここまで」


「来たから」


「……」


「僕が」


「まだ知らない場所まで」


「行ってみたい」


「だから」


「リク」


俺は。


笑った。


「いい名前だ」


「うん」


リクも。


笑った。


「ありがとう」


ユウトが。


一歩。


前に出る。


「……」


リクを見る。


二人は。


しばらく。


何も言わなかった。


やがて。


ユウトが。


手を差し出した。


「俺は」


「ユウト」


「……」


「お前が」


「俺じゃなくても」


「いいと思う」


リクが。


少し。


驚く。


「どうして?」


「俺は」


ユウトが。


笑う。


「俺だから」


「……」


「お前は」


「お前だろ?」


リクは。


差し出された手を見る。


そして。


その手を。


握った。


「……うん」


その瞬間。


世界樹が。


光った。


紫色の葉が。


一枚。


二枚。


三枚。


一気に。


増えていく。


エレナが。


驚く。


「新しい法則が」


「……」


世界樹の幹に。


文字が。


浮かんだ。


第七原則――自己定義


誰かが。


言ったわけじゃない。


誰かが。


命令したわけでもない。


この世界に。


生きる者たちが。


選んだ結果。


新しい法則が。


生まれた。


原初が。


静かに。


その文字を見る。


「……素晴らしい」


「原初」


俺が。


呼ぶ。


「これは」


「今までの世界には」


「存在しなかった」


「そうだ」


原初は。


頷いた。


「過去の世界では」


「存在する者には」


「最初から」


「役割があった」


「勇者」


「魔王」


「王」


「神」


「犠牲になる者」


「救われる者」


「選ぶ者」


「選ばれる者」


「……」


「だが」


原初は。


世界樹を見る。


「この世界では」


「自分が何者なのかを」


「自分自身で決められる」


俺は。


リクを見る。


そして。


ソアを見る。


ミライを見る。


カイを見る。


ノアを見る。


ユラを見る。


ルナを見る。


みんな。


違う。


だから。


面白い。


「……」


その時。


突然。


カイが。


空を見る。


「……来る」


「何が?」


俺が。


尋ねる。


カイの顔が。


険しくなる。


「さっきの」


「外のやつ」


「……」


空が。


暗くなった。


雲ではない。


空そのものに。


黒い亀裂が。


走る。


――バキッ。


世界が。


軋んだ。


ユラが。


立ち上がる。


「……嫌な感じ」


「分かる?」


「うん」


ユラは。


空を見る。


「これは」


「終わりじゃない」


「……」


「もっと」


「嫌」


「じゃあ」


「何?」


ユラは。


首を傾げた。


「誰かが」


「この世界に」


「名前をつけようとしてる」


「……!」


その瞬間。


黒い文字が。


空に浮かんだ。


世界名――絆


その文字が。


赤く。


染まっていく。


そして。


別の文字が。


上書きされる。


世界名――選定世界


「……!」


俺は。


立ち上がった。


「何だよ」


「これ……」


エレナが。


震える。


「世界そのものに」


「名前を」


「上書きしている……」


「そんなこと」


「できるの?」


「外からなら」


観測者が。


答えた。


「できる」


「じゃあ」


俺は。


拳を握る。


「止める」


カイが。


俺を見る。


「どうやって?」


「分からない」


「……」


「でも」


俺は。


世界樹に。


手を置く。


「この世界の名前は」


「俺たちが」


「勝手に決めるものじゃない」


「……」


「この世界に」


「生きる全員が」


「決めるものだ」


世界樹が。


光る。


ソアが。


手を伸ばす。


「私も」


「決めたい」


リクも。


手を置く。


「僕も」


ユウト。


アリア。


セリア。


ミア。


セレナ。


ノア。


ミライ。


カイ。


ユラ。


ルナ。


エレナ。


原初。


観測者。


全員が。


世界樹に。


手を置いた。


すると。


世界樹から。


声が。


響いた。


『世界の名前を』


『選んでください』


空に。


無数の文字が。


浮かぶ。


「絆」


「自由」


「未来」


「新生」


「共存」


「可能性」


「家」


「明日」


「……」


無数の名前。


どれも。


正しい。


どれも。


間違いではない。


だから。


俺は。


みんなを見る。


「一つに」


「決めなくていい」


「……」


「この世界は」


「一つの名前じゃ」


「足りない」


その瞬間。


世界樹が。


大きく。


揺れた。


そして。


空に。


新しい文字が。


浮かぶ。


世界名――未定


「……!」


外から。


声がする。


『未定だと?』


黒い亀裂の向こう。


あの存在。


巨大な目が。


開いた。


『世界には』


『名前が必要だ』


「必要なら」


俺は。


空を見る。


「そのうち」


「自分たちで決める」


『それでは』


『不完全だ』


「そうだよ」


俺は。


笑った。


「俺たちは」


「不完全なんだ」


『……』


「だから」


「変わっていける」


「選び直せる」


「間違えることもできる」


「それでも」


俺は。


言い切った。


「ここで生きる」


黒い目が。


細くなる。


『……理解できない』


「なら」


「理解するまで」


「見てればいい」


『……』


しばらく。


沈黙。


やがて。


黒い亀裂が。


閉じ始める。


『いいだろう』


『ならば』


『私は』


『この世界が』


『何者になるのか』


『最後まで』


『観測する』


「……」


観測者が。


苦笑する。


「それは」


「僕の役目だったんだけどね」


「今は?」


俺が。


聞く。


観測者は。


空を見て。


笑った。


「僕はもう」


「観測するだけじゃない」


「……」


「ここで」


「生きてみたい」


その言葉と同時に。


黒い亀裂が。


完全に。


消えた。


静寂。


そして。


朝の光が。


世界を照らした。


「……終わった?」


カイが。


聞く。


「たぶん」


俺が。


答える。


ノアが。


俺の服を。


引っ張る。


『お兄ちゃん』


「ん?」


『お腹すいた』


「……」


俺は。


思わず。


笑った。


「そうだな」


「まずは」


「朝ご飯だ」


みんなが。


笑う。


ソアも。


リクも。


笑った。


新しい世界。


未完成の世界。


名前すら。


まだ。


決まっていない世界。


それでも。


俺たちは。


ここにいる。


そして。


歩き始める。


――その日の夕方。


俺は。


世界樹の下で。


一人。


空を見ていた。


すると。


足元に。


小さな紙が。


落ちていることに。


気づいた。


拾う。


そこには。


文字が。


一つだけ。


書かれていた。


『第零の門は、まだ閉じていない』


「……」


俺は。


顔を上げる。


世界樹。


空。


遠くの家。


笑い声。


全部。


いつも通り。


なのに。


胸の奥。


二つの光のさらに奥。


今まで。


誰にも。


見つけられなかった場所で。


何かが。


ゆっくり。


目を覚ました。


――カチッ。


鍵が。


回る音。


そして。


知らない声が。


俺の胸の中から。


聞こえた。


『次は』


『あなた自身の』


『名前を』


『選んで』


俺は。


息を止めた。


「……俺の?」


返事は。


なかった。


ただ。


胸の奥に。


新しい扉が。


一つ。


生まれていた。


その扉には。


こう書かれていた。


『レオン』

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