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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第77話 選ばれる者

――世界の外側。


そこに。


亀裂が走った。


音はない。


光もない。


ただ。


何もなかった場所に。


一本の線だけが。


生まれた。


そして。


その線の向こうから。


声がする。


『――選ばない世界など』


『認めない』


その声は。


低かった。


怒っているわけではない。


悲しんでいるわけでもない。


ただ。


「決まっている」。


そんな響きだった。


『世界とは』


『選択によって』


『形を得るもの』


『ならば』


『誰かが』


『選ばれなければならない』


『選ぶ者が』


『必要だ』


そして。


その存在は。


世界へ。


手を伸ばした。


――ズン。


世界が。


揺れた。


「……!」


俺は。


ノアを抱きしめる。


「何だ!?」


大地が。


大きく。


震える。


海が。


波打つ。


空が。


歪む。


「レオン!」


アリアが。


俺の横へ。


駆け寄る。


「上!」


俺は。


空を見る。


そこに。


巨大な手が。


あった。


いや。


手に見えるだけだった。


指も。


掌も。


はっきりとは。


存在しない。


世界そのものを。


掴もうとしている。


「……!」


ユラが。


震える。


「嫌……」


俺は。


ユラを見る。


「どうした?」


「私」


「終わりだから」


「分かる」


「……」


「この手」


ユラが。


空を見上げる。


「この手は」


「終わらせるための手じゃない」


「じゃあ」


「選ぶための手」


「……」


「何かを残して」


「何かを消す」


「そういう手」


俺は。


拳を握った。


「また」


「同じか」


「……」


「また」


「誰かを選んで」


「誰かを捨てるのか」


空の声が。


響いた。


『当然だ』


『世界とは』


『そういうものだ』


「違う」


俺は。


即答した。


『……』


「俺たちは」


「それを」


「もう」


「選ばない」


空の手が。


止まった。


『ならば』


『お前たちは』


『何を基準に』


『世界を作る?』


「……」


『全員の願いを』


『同時に叶えるのか?』


『不可能だ』


『全員が違う』


『望みも』


『考えも』


『未来も』


『必ず』


『ぶつかる』


「……」


『だから』


『選ぶ』


『優先する』


『決める』


『誰かの未来を』


『誰かより』


『重くする』


『それが』


『世界だ』


「……」


確かに。


そうなのかもしれない。


俺たちの願いは。


全部が。


同じじゃない。


アリアと。


俺の未来が。


いつでも。


完全に一致するとは。


限らない。


ユウトと。


俺だって。


違う道を。


選ぶ日が。


来るかもしれない。


ハルも。


ミライも。


エレナも。


ルナも。


それぞれ。


自分の未来を。


持っている。


だから。


「……」


俺は。


笑った。


「だからって」


「一人が」


「全部決める理由には」


「ならない」


『……』


「意見が違うなら」


「話せばいい」


「ぶつかったら」


「考えればいい」


「失敗したら」


「やり直せばいい」


「どうしても」


「一緒にできないなら」


「それぞれの道を」


「歩けばいい」


俺は。


空を睨む。


「それでも」


「相手の未来を」


「勝手に決める必要はない」


空の手が。


震えた。


『……甘い』


「そうかもな」


『世界は』


『そんなに』


『優しくない』


「ああ」


俺は。


頷いた。


「知ってる」


『ならば』


「でも」


俺は。


ノアを見る。


小さな手。


小さな指。


生まれたばかりの。


命。


「それでも」


「俺は」


「この世界を」


「そうしたい」


その瞬間。


ノアの身体から。


小さな光が。


生まれた。


『……お兄ちゃん』


「ん?」


『私』


『怖い』


「……」


『あの人』


『怖い』


「大丈夫」


俺は。


ノアを。


抱きしめる。


『……本当に?』


「ああ」


『どうして?』


「俺たちが」


「ここにいるから」


『……』


「一人じゃない」


『うん』


ノアが。


笑う。


その笑顔を見て。


俺の胸の中の光が。


強く輝いた。


――ドクン。


世界樹が。


呼応する。


「……!」


木の根が。


大地を走る。


一本。


二本。


無数の根が。


世界中へ。


伸びていく。


山へ。


海へ。


森へ。


まだ誰もいない土地へ。


そして。


その先々で。


小さな光が。


灯った。


「これは……」


エレナが。


目を見開く。


「新しい命?」


原初が。


首を振る。


「違う」


「じゃあ?」


「選択の種だ」


「……」


「まだ」


「誰のものでもない」


「まだ」


「何になるかも」


「決まっていない」


「……」


俺は。


その光を。


見つめた。


「じゃあ」


「この世界の」


「未来?」


「そうだ」


原初が。


答える。


「一人の未来ではない」


「世界全体が持つ」


「無数の可能性だ」


空の存在が。


初めて。


沈黙した。


『……』


俺は。


その沈黙を。


感じ取った。


「お前」


「知らなかったのか?」


『……』


「こんな世界を」


「見たことがない?」


『……ない』


その声に。


初めて。


感情が混じった。


驚き。


そして。


ほんの少し。


戸惑い。


『こんな』


『世界が』


『存在できるのか』


「今」


俺は。


笑った。


「作ってるところだ」


『……』


「だから」


「完成形なんて」


「ない」


『……』


「俺たちも」


「分からない」


「明日」


「何が起こるか」


「誰が」


「どんな未来を選ぶか」


「分からない」


「でも」


「それでいい」


「……」


空の手が。


ゆっくり。


引いていく。


アリアが。


驚いた。


「退いた……?」


「いや」


観測者が。


首を振る。


「まだだ」


「……」


「考えている」


その瞬間。


空から。


一滴の黒い雫が。


落ちてきた。


――ぽた。


地面に。


落ちる。


すると。


そこから。


一人の少年が。


生まれた。


「……!」


少年は。


ゆっくり。


立ち上がる。


黒い髪。


黒い瞳。


白い服。


さっき現れた。


「最初の敵」と名乗った少年。


だが。


今度は。


少し違う。


胸に。


黒い光が。


埋め込まれている。


少年は。


自分の胸を。


触る。


「……これ」


「何?」


俺が。


尋ねる。


少年は。


答えない。


その代わり。


空を見上げた。


「呼ばれてる」


「誰に?」


『私だ』


空の存在が。


答えた。


少年が。


目を閉じる。


「……」


そして。


俺を見る。


「僕」


「選ばれた」


「……」


「何?」


「この世界で」


「最初に」


「敵になる者として」


「……」


アリアが。


剣を抜く。


「待って」


俺は。


手を上げた。


「レオン?」


「まだ」


「決まってない」


少年を見る。


「お前」


「どうしたい?」


少年は。


黙る。


長い。


長い沈黙。


やがて。


口を開く。


「……分からない」


「それでいい」


「え?」


「分からないなら」


「今」


「決めなくていい」


少年が。


驚いた顔をする。


「……でも」


「空の奴は」


「僕を」


「選んだ」


「そうだな」


「だから」


「僕は」


「敵にならなきゃ」


「いけない」


「違う」


俺は。


首を横に振る。


「選ばれたことと」


「お前自身が」


「選んだことは」


「違う」


少年の目が。


揺れる。


「……」


「お前は」


「どうしたい?」


少年は。


胸に手を当てる。


「僕は……」


言葉が。


出てこない。


その時。


ノアが。


俺の腕の中から。


少年へ。


手を伸ばした。


『……怖くないよ』


少年が。


ノアを見る。


「……君は」


『私』


『ノア』


「ノア……」


『うん』


少年は。


少し。


笑った。


「僕」


「君を」


「知ってる」


俺は。


驚く。


「どういうことだ?」


少年は。


首を横に振る。


「分からない」


「でも」


「ずっと」


「知ってる気がする」


ノアが。


笑う。


『じゃあ』


『友達』


少年は。


固まった。


「……友達?」


『うん』


「僕」


「敵だよ?」


『まだ』


「……」


『決まってないんでしょ?』


「……!」


俺は。


思わず。


笑った。


「その通りだ」


少年は。


俯く。


肩が。


震えている。


そして。


一粒。


涙が。


落ちた。


「……」


「どうした?」


「嬉しい」


「……」


「初めて」


「誰かに」


「決められなかった」


その言葉に。


俺は。


胸を締め付けられた。


「……」


俺たちは。


今まで。


何度も。


未来を。


決められてきた。


誰かを。


犠牲にする未来。


世界を。


一つにする未来。


誰かを。


選ぶ未来。


そして。


今度は。


この少年だった。


「……名前」


俺が。


言う。


少年が。


顔を上げる。


「名前?」


「ああ」


「まだ」


「ないだろ?」


「うん」


「なら」


「自分で」


「決めてみろ」


少年は。


考える。


長い。


長い時間。


そして。


空を見た。


「……カイ」


「カイ?」


「うん」


「海の」


「カイ」


少年は。


世界に。


初めて生まれた海を見る。


「どこまでも」


「広いから」


「僕も」


「そうなりたい」


「……」


俺は。


笑った。


「いい名前だ」


カイ。


それが。


この世界で。


最初に。


「敵になるかもしれなかった存在」が。


自分自身で。


選んだ名前だった。


空の存在が。


初めて。


怒りを見せた。


『――違う』


空が。


震える。


『その者は』


『私が選んだ』


『私の意思に』


『従うべきだ』


カイが。


空を見る。


「……」


『戻れ』


『お前は』


『私の選択だ』


カイの身体が。


一瞬。


黒く光る。


「……っ!」


カイが。


胸を押さえる。


「痛い……」


「カイ!」


俺が。


駆け寄る。


空の存在が。


声を響かせる。


『選ばれた者は』


『選択者に』


『逆らえない』


「……!」


原初が。


叫ぶ。


「レオン!」


「何だ!」


「その少年の胸にあるものを」


「壊してはいけない!」


「……!」


「それは」


「この世界が」


「初めて作った」


「他者の選択から」


「独立するための核だ!」


「だったら」


「どうすればいい!?」


原初が。


答える。


「本人が」


「選ぶしかない!」


「……」


俺は。


カイを見る。


苦しそうに。


胸を押さえている。


「カイ!」


「……」


「聞こえるか!」


「うん……」


「俺たちは」


「お前を」


「助けられる」


「でも」


俺は。


一度。


言葉を切る。


「決めるのは」


「お前だ」


「……」


カイが。


俺を見る。


「僕が」


「選ぶ?」


「ああ」


「何を?」


「自分が」


「誰なのか」


「……」


「敵なのか」


「仲間なのか」


「どちらでもないのか」


「何をしたいのか」


「全部」


「お前が」


「選べ」


カイは。


苦しみながら。


目を閉じた。


そして。


小さく。


言った。


「……僕は」


「僕は」


黒い光が。


さらに。


強くなる。


「誰かに」


「選ばれるんじゃなくて」


「……」


「僕自身が」


「選びたい」


――ドンッ!


世界が。


揺れた。


世界樹が。


大きく。


光る。


カイの胸から。


黒い核が。


浮かび上がる。


空の存在が。


叫ぶ。


『やめろ!』


けれど。


カイは。


手を伸ばした。


そして。


自分の胸から。


黒い核を。


引き抜いた。


「――っ!」


血は。


出なかった。


代わりに。


黒い光が。


空へ。


飛んでいく。


空の巨大な手が。


それを掴もうとする。


しかし。


届かない。


黒い核は。


世界樹へ。


吸い込まれた。


――ドクン。


世界樹に。


新しい葉が。


一枚。


生まれる。


今度の葉は。


黒でも。


白でもない。


深い青。


海のような。


青。


カイは。


その場に。


膝をついた。


俺が。


支える。


「大丈夫か?」


「……うん」


カイは。


笑った。


「軽い」


「何が?」


「胸」


「……」


「今まで」


「何かに」


「引っ張られてた」


「でも」


カイは。


自分の胸を。


触る。


「今は」


「僕のもの」


「そうか」


「ああ」


俺も。


笑った。


その瞬間。


空の存在が。


静かに。


言った。


『……理解した』


「何を?」


『この世界は』


『私が』


『選ぶことができない』


「……」


『だから』


『お前たちは』


『私を』


『否定するのか』


「違う」


俺は。


空を見る。


「お前も」


「選べばいい」


『……』


「俺たちを」


「嫌いなら」


「嫌いでいい」


「この世界を」


「認めたくないなら」


「認めなくていい」


「でも」


「それも」


「お前自身が」


「選べ」


空が。


静かになる。


長い。


長い沈黙。


そして。


初めて。


その存在が。


小さく。


呟いた。


『……私自身が』


『選ぶ』


「うん」


『……』


「それが」


「この世界の」


「最初の約束だ」


空の巨大な瞳が。


ゆっくり。


閉じる。


『ならば』


『私は』


『一度』


『帰る』


「……」


『考える時間が』


『欲しい』


俺は。


頷いた。


「ああ」


『次に来る時』


『私は』


『私自身の』


『名前を』


『持ってくる』


「……!」


『その時』


『また』


『話そう』


そして。


巨大な亀裂が。


閉じていく。


世界が。


静かになる。


カイが。


空を見上げる。


「……また」


「来るかな」


「来るだろうな」


「怖い?」


「少し」


「僕も」


「じゃあ」


俺は。


カイの肩を。


軽く叩く。


「一緒に」


「怖がろう」


カイが。


笑う。


「うん」


その時。


ノアが。


俺の腕の中で。


眠り始めた。


『……』


小さな寝息。


俺は。


その顔を見る。


世界は。


まだ。


完成していない。


敵も。


味方も。


未来も。


終わりも。


全部。


これから。


決まっていく。


でも。


一つだけ。


もう。


決まっていることがある。


この世界では。


誰か一人が。


全てを決めることはない。


「……」


俺は。


空を見る。


「それでいい」


世界樹の葉が。


風に揺れる。


新しい世界の。


最初の朝。


太陽が。


少しずつ。


高くなる。


そして。


遠く。


まだ誰も知らない場所で。


一つの小さな光が。


生まれた。


それは。


命ではない。


願いでもない。


終わりでもない。


まして。


選択でもない。


ただ。


一つの。


問いだった。


『私は』


『何者?』


その問いから。


新しい存在が。


生まれようとしていた。


そして。


その存在こそが。


この世界で初めて。


「自分とは何か」を。


問い始める者になる。

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