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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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75/132

第75話 生まれるということ

――パキッ。


世界樹の実に。


小さな亀裂が入った。


「……!」


俺たちは。


誰も動かなかった。


ただ。


その実を。


見つめていた。


七色の光が。


亀裂の隙間から。


漏れ出している。


まるで。


中にいる命が。


外の世界を。


覗いているようだった。


「レオン……」


アリアが。


俺の袖を。


そっと掴む。


「ああ」


俺は。


頷いた。


「大丈夫」


そう言った。


けれど。


本当は。


分からない。


何が起こるのか。


俺には。


何も。


分からなかった。


ただ。


一つだけ。


分かっている。


この子を。


俺たちの都合で。


決めてはいけない。


生まれてほしい。


生まれてほしくない。


どんな人生を。


歩んでほしい。


どんな性格で。


どんな未来を。


選んでほしい。


そんなことを。


俺たちが。


決めてしまったら。


結局。


今までと。


同じになる。


世界を。


一人の意思で。


決める。


そんな世界に。


戻ってしまう。


「……」


俺は。


実へ。


手を伸ばした。


触れる。


温かい。


そして。


声がした。


『お兄ちゃん』


「うん」


『聞こえる?』


「ああ」


『外って』


「うん」


『どんなところ?』


俺は。


少し考える。


「……騒がしい」


『騒がしい?』


「ああ」


「みんなが」


「いろんなことを言う」


「笑ったり」


「怒ったり」


「泣いたり」


「喧嘩したり」


「仲直りしたり」


「失敗したり」


「またやり直したり」


『……』


「でも」


俺は。


笑った。


「面白いぞ」


『そうなんだ』


「ああ」


『じゃあ』


声が。


少しだけ。


嬉しそうになる。


『行ってみたい』


「うん」


俺は。


頷く。


「待ってる」


その瞬間。


――パキッ。


亀裂が。


また一つ。


広がった。


「……!」


けれど。


突然。


世界が。


揺れた。


――ゴゴゴゴゴ……。


大地が。


震える。


空が。


暗くなる。


海が。


大きく波打つ。


「何だ!?」


カインが。


叫ぶ。


エレナが。


空を見上げる。


「世界構造が」


「崩れ始めてる!」


「どうして!?」


セリアが。


聞く。


エレナは。


首を振った。


「分からない!」


その時。


あの男が。


笑った。


「当然だ」


「……!」


俺は。


男を睨む。


「お前」


「何をした?」


「何もしていない」


「嘘だ」


「本当だ」


男は。


空を指差す。


「君たちが」


「選択したんだ」


「……?」


「未来を」


「一つにしない」


男の声が。


響く。


「つまり」


「この世界は」


「一つの未来では」


「定義できなくなった」


「……」


「世界が」


「未来を一つに」


「固定できない」


男は。


笑う。


「だから」


「世界そのものが」


「どの未来を」


「採用するか」


「決められず」


「揺れている」


「なら」


俺は。


言った。


「決めなくていい」


「……」


男が。


黙る。


「世界が」


「全部の未来を」


「持っていればいい」


「そんなことが」


「できると思うか?」


「できる」


俺は。


即答した。


「今までの世界には」


「できなかっただけだ」


俺の胸の光が。


輝く。


一つ。


二つ。


三つ。


そして。


その光に。


仲間たちの光が。


重なる。


アリア。


ユウト。


セリア。


ユナ。


エレナ。


ルナ。


ハル。


ミライ。


そして。


まだ。


世界に生まれていない。


小さな命。


「……」


男が。


目を細める。


「また」


「それか」


「何が?」


「一人で」


「全部背負う」


「違う」


俺は。


首を振る。


「今回は」


「俺一人じゃない」


俺の隣に。


ユウトが立つ。


「兄ちゃん」


「ああ」


「俺もいる」


アリアも。


並ぶ。


「私も」


セリア。


「私も」


ユナ。


「私も」


ルナ。


「私も!」


ハル。


「俺も」


エレナ。


「私も」


ミライ。


「私も」


一人。


また一人。


みんなが。


俺の隣に。


立つ。


観測者が。


最後に。


笑った。


「私も」


「……」


俺は。


思わず。


笑ってしまった。


「お前まで?」


「今さらだろう」


「……そうだな」


世界樹が。


輝く。


すると。


空に。


無数の光が。


現れた。


一つ。


二つ。


十。


百。


千。


いや。


数えきれない。


それぞれが。


違う未来を。


映している。


「……!」


俺たちは。


言葉を失った。


未来の中には。


笑っている俺がいる。


泣いている俺がいる。


年老いた俺がいる。


子供に戻った俺がいる。


ユウトと。


旅をしている未来。


家に住んでいる未来。


アリアと。


並んでいる未来。


仲間たちと。


別れている未来。


再会する未来。


そして。


まだ見たこともない。


未来。


「……全部」


ミライが。


呟く。


「これ」


「全部」


「私たちの未来?」


「ああ」


俺は。


答える。


「たぶん」


ミライは。


その光を。


見つめていた。


「じゃあ」


「うん?」


「私は」


「この中から」


「一つを」


「選ばないといけないの?」


俺は。


首を横に振る。


「違う」


「……?」


「選んでもいい」


「選ばなくてもいい」


「途中で変えてもいい」


「戻ってもいい」


「やり直してもいい」


「……」


「未来は」


「一回選んだら」


「絶対に変えられないものじゃない」


ミライの瞳が。


少し。


揺れる。


「……」


「だから」


俺は。


続ける。


「未来は」


「選ぶものじゃなくて」


「作っていくものなんだ」


その瞬間。


ミライの胸から。


光が生まれた。


「……!」


光は。


世界樹へ。


吸い込まれていく。


――ドクン。


――ドクン。


世界樹が。


大きく脈打つ。


すると。


無数の未来の光が。


一斉に。


世界へ。


降り始めた。


雨のように。


静かに。


優しく。


光が。


大地へ。


海へ。


空へ。


山へ。


降り注ぐ。


「何が起きてるの?」


アリアが。


尋ねる。


エレナが。


答える。


「未来が」


「世界に」


「固定されていない」


「……」


「全部」


「可能性として」


「存在している」


「じゃあ」


俺は。


空を見る。


「この世界は」


「これから」


「どうなる?」


エレナが。


微笑む。


「分からない」


「……」


「だから」


「新しい世界なんです」


その言葉に。


俺は。


笑った。


「そっか」


分からない。


だから。


面白い。


分からない。


だから。


選べる。


分からない。


だから。


生きていける。


俺は。


そう思った。


その時。


世界樹の実が。


大きく。


震えた。


――パキィン!


殻が。


割れる。


「……!」


光が。


爆発した。


眩しくて。


俺は。


目を閉じた。


「レオン!」


アリアの声。


俺は。


手を伸ばす。


アリアの手を。


掴む。


「大丈夫!」


光の中から。


何かが。


落ちてくる。


小さい。


柔らかい。


温かい。


俺は。


両腕で。


受け止めた。


「……」


腕の中。


そこには。


一人の赤ん坊が。


いた。


白い髪。


小さな手。


赤い瞳。


まだ。


生まれたばかり。


なのに。


その子は。


俺を見ると。


小さく。


笑った。


「……」


そして。


小さな手を。


伸ばす。


俺の頬に。


触れる。


「……」


「お兄ちゃん」


「……!」


声が。


聞こえた。


けれど。


口は。


動いていない。


心の中に。


直接。


響いた声。


『会いたかった』


俺の目から。


涙が。


落ちた。


「……俺も」


『ほんと?』


「ああ」


『ずっと?』


「ああ」


俺は。


赤ん坊を。


抱きしめた。


「ずっと」


その瞬間。


アリアが。


そっと。


赤ん坊の頭を。


撫でる。


「こんにちは」


赤ん坊が。


アリアを見る。


『……こんにちは』


アリアが。


目を丸くする。


「喋った……」


「心の中だけだけどな」


俺が。


笑う。


すると。


ユウトが。


近づいてくる。


「俺も」


赤ん坊が。


ユウトを見る。


『……お兄ちゃんの』


「うん?」


『お兄ちゃん?』


ユウトが。


一瞬。


固まった。


「……俺も」


「お兄ちゃんだな」


赤ん坊が。


笑う。


『お兄ちゃんが』


『二人』


「そうだ」


ユウトが。


笑った。


「俺たちは」


「兄弟だからな」


すると。


赤ん坊が。


不思議そうに。


尋ねた。


『名前』


「……」


「そうだった」


俺は。


赤ん坊を見る。


「君の名前」


「まだ」


「ないな」


『名前……』


「どんな名前が」


「いい?」


赤ん坊は。


少し。


考える。


『……』


そして。


俺たちの顔を。


順番に。


見る。


『みんなが』


『呼んでくれる名前が』


『いい』


「……」


アリアが。


微笑む。


「じゃあ」


「自分で決めよう」


「うん」


俺は。


頷く。


「君自身が」


「選んでいい」


赤ん坊は。


少しだけ。


目を閉じる。


そして。


――笑った。


『……ノア』


「……!」


ノアが。


固まる。


「俺?」


赤ん坊が。


ノアを見る。


『ノア』


『この名前』


『好き』


「……」


ノアは。


しばらく。


黙っていた。


そして。


小さく。


笑った。


「そっか」


「じゃあ」


「俺が」


「名前をもらったみたいだな」


カインが。


笑い出す。


「お前、赤ん坊に名前取られてんじゃん!」


「うるさい」


「でも」


カインが。


赤ん坊を見る。


「似合ってるな」


ノアも。


頷いた。


「うん」


こうして。


その子は。


ノアと呼ばれることになった。


――いや。


違う。


俺は。


すぐに。


気づいた。


「待って」


「……?」


みんなが。


俺を見る。


「この子の名前」


「ノアでいい」


「でも」


俺は。


赤ん坊を見る。


「この子自身が」


「決めた」


「……」


「だから」


「俺たちは」


「ノアって」


「呼ばせてもらうだけだ」


ミライが。


笑った。


「それが」


「この世界の」


「最初のルール」


エレナが。


驚く。


「ルール?」


ミライが。


世界樹を見る。


「誰かが」


「誰かの未来を」


「決めない」


「……」


「本人が」


「自分で」


「選ぶ」


ルナが。


嬉しそうに。


笑う。


「それなら」


「この世界は」


「大丈夫」


その瞬間。


空に。


新しい文字が。


浮かび上がった。


『第一原則――自己選択』


「……」


そして。


二つ目。


『第二原則――共存』


三つ目。


『第三原則――再選択』


四つ目。


『第四原則――未来の非固定』


俺は。


それを。


見上げる。


「……」


四つ。


今までの世界には。


なかったルール。


俺たちが。


自分たちで。


作った世界の。


最初の法律。


だけど。


その時。


空に。


赤い文字が。


一つ。


浮かび上がった。


俺は。


それを見て。


息を止める。


『第五原則――終焉』


「……」


アリアが。


小さく。


呟く。


「終焉……?」


さっきの男の言葉。


『この世界には』


『終わりが足りない』


俺は。


空を見る。


すると。


世界の果てに。


巨大な黒い線が。


現れた。


地平線。


その向こう。


何かが。


こちらへ。


近づいてくる。


「……あれ」


ユナが。


震える。


「何?」


「分からない」


観測者が。


目を細める。


「……私にも」


「見えない?」


「ああ」


「ありえない」


観測者が。


初めて。


本気で。


警戒する。


「私は」


「今まで」


「すべての世界を」


「見てきた」


「……」


「だが」


黒い線が。


少しずつ。


近づいてくる。


「これは」


「どの世界にも」


「存在しない」


「……」


俺は。


ノアを。


抱きしめる。


すると。


ノアが。


空を見る。


『……』


「どうした?」


『あれ』


「うん?」


『あれも』


『生まれたいって』


「……え?」


ノアが。


指を。


空へ向ける。


黒い線。


その向こう。


何かが。


いる。


巨大な何か。


世界よりも。


大きい。


けれど。


敵意は。


ない。


ただ。


こちらを。


見ている。


そして。


声が。


響いた。


『――私も』


『ここに』


『いても』


『いい?』


俺たちは。


言葉を失った。


「……」


ミライが。


空を見上げる。


「また……」


ルナが。


小さく。


呟く。


「新しい命……」


けれど。


原初は。


首を横に振った。


「違う」


「……?」


「これは」


原初の顔が。


青ざめる。


「命ではない」


「じゃあ」


「何?」


原初は。


答えた。


「世界の外にある」


「終わりそのものだ」


「……!」


その瞬間。


世界の空が。


真っ二つに。


割れた。


そして。


黒い巨大な瞳が。


こちらを。


見つめた。


『――私にも』


『名前を』


『ください』

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