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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第67話 世界を待つ者

――ザワッ。


風が止まった。


さっきまで吹いていた暖かな風が。


突然。


完全に消えた。


新しく生まれたばかりの世界。


青い空。


大地。


海。


森。


そして。


世界樹。


すべてが。


静まり返っていた。


俺は。


剣を握ったまま。


空を見上げる。


そこには。


一本の亀裂。


黒い。


いや。


黒というより。


何も存在しない。


「……」


亀裂の向こうから。


何かが。


こちらを見ている。


「レオン」


アリアが。


俺の隣に立つ。


「うん」


「何かいる」


「ああ」


「敵?」


「……まだ分からない」


観測者が。


目を細めた。


「私にも」


「正体が分からない」


「お前にも?」


「ああ」


観測者が。


初めて。


明確な警戒を見せていた。


「私が観測できない存在など」


「これまで」


「一度もなかった」


「……」


原初も。


黙っている。


エレナも。


ルナも。


空を見上げている。


「ルナ」


俺は。


少女に声をかける。


「何?」


「さっき」


「この世界を待っていたって」


「言ってたな」


「うん」


「何か知ってるのか?」


ルナは。


少し考えた。


「知ってる」


「でも」


「思い出せない」


「……」


「私が」


「まだ名前を持っていなかった頃」


「何もない場所で」


「ずっと」


「何かを見ていた」


「何を?」


「扉」


「扉?」


ルナが。


頷く。


「大きな扉」


「その向こうに」


「たくさんの声があった」


「声?」


「うん」


「泣いてる声」


「怒ってる声」


「笑ってる声」


「願ってる声」


「……」


「そして」


ルナが。


空の亀裂を見る。


「その全部の声を」


「聞いていた人がいた」


俺は。


眉を寄せる。


「誰?」


ルナは。


首を横に振った。


「分からない」


その時。


亀裂の向こうから。


声が響いた。


『――ルナ』


「……!」


ルナが。


震える。


「……私の名前」


『そう』


「どうして」


『私が』


『お前に』


『与えたものだから』


俺は。


一歩。


前に出る。


「お前は誰だ?」


『……』


返事は。


すぐには来なかった。


そして。


亀裂の向こうから。


ゆっくり。


一つの手が。


出てきた。


白い手。


細い指。


人間の手に見える。


だが。


その手には。


何もなかった。


傷も。


爪も。


血も。


ただ。


白い。


「……」


その手が。


亀裂の縁を掴む。


そして。


ゆっくり。


誰かが。


こちら側へ。


出てきた。


「――!」


俺たちは。


一斉に。


身構えた。


現れたのは。


一人の男だった。


銀色の髪。


白い服。


赤い瞳。


どこか。


観測者に似ている。


だが。


違う。


観測者は。


すぐに。


首を横に振った。


「……違う」


「何が?」


「似ているが」


「私とは」


「存在の構造が違う」


男は。


こちらを見る。


そして。


微笑んだ。


「久しぶりだ」


「……?」


「いや」


「初めまして」


「どっちだ?」


俺は。


剣を構えたまま。


聞く。


「名前は?」


男は。


少し考えた。


「名前」


「……」


「昔は」


「そういうものを」


「持っていた」


「今は?」


「必要ない」


「じゃあ」


「何て呼べばいい?」


男は。


俺を見る。


「好きに呼べばいい」


「……」


「だが」


男は。


ルナを見る。


「彼女だけは」


「違う」


ルナが。


俺の後ろに隠れる。


「私……?」


「ああ」


男が。


微笑む。


「彼女には」


「役割がある」


俺は。


剣を向ける。


「ルナに何をする?」


「何もしない」


「信じられると思うか?」


「思わない」


「……」


男は。


あっさり答えた。


「だから」


「説明する」


男が。


空を見る。


「この世界が」


「生まれる必要があった理由を」


俺たちは。


黙って聞いた。


「この世界は」


「今まで存在した世界とは」


「違う」


「……」


「過去の世界には」


「必ず」


「中心があった」


「中心?」


「世界を支えるもの」


「世界樹」


「世界核」


「願い」


「約束」


「自由」


「可能性」


「そして」


男が。


俺を見る。


「レオン」


「……」


「お前自身」


「……」


「お前たちは」


「何度も」


「世界の中心を」


「一つにしようとした」


「でも」


「それをやめた」


「そうだ」


俺が。


答える。


「一人に集めない」


「みんなで選ぶ」


「それが」


「俺たちの答えだ」


「そう」


男が。


頷く。


「だから」


「この世界は」


「中心を持たない」


「……?」


「正確には」


「全員が」


「中心だ」


「……!」


エレナが。


目を見開く。


「それって……」


「そう」


男は。


彼女を見る。


「この世界には」


「世界を支配する者が」


「存在しない」


「世界を管理する者も」


「存在しない」


「一つの願いで」


「未来を決める者も」


「存在しない」


「……」


「それが」


「この世界の」


「最大の特徴だ」


俺は。


少しだけ。


笑った。


「それなら」


「いい世界じゃないか」


「だが」


男の表情が。


変わる。


「だからこそ」


「危険なんだ」


「……?」


「中心がない世界は」


「外から」


「簡単に」


「干渉できる」


「……」


「誰か一人を」


「支配すれば」


「世界全体を」


「支配できる」


「でも」


俺は。


言う。


「誰か一人を」


「支配しなければいい」


「そう」


男は。


頷いた。


「だから」


「私は」


「別の方法を」


「用意した」


「別の方法?」


「外側から」


「この世界を」


「閉じる」


「……!」


空気が。


震えた。


「閉じるって」


「どういうこと?」


アリアが。


問いかける。


「この世界を」


「他の世界から」


「完全に切り離す」


「……」


「外部から」


「誰も」


「干渉できない」


「それなら」


「いいんじゃないか?」


俺が。


言う。


だが。


男は。


首を横に振る。


「代わりに」


「この世界の住人も」


「外の世界へ」


「行けなくなる」


「……」


「外の世界から」


「誰も来られない」


「この世界から」


「誰も出られない」


「つまり」


ユウトが。


呟く。


「閉じ込めるってこと?」


「ああ」


「……」


俺は。


考える。


確かに。


それなら。


世界を守れる。


でも。


それは。


自由なのか?


世界の外側から。


誰にも支配されない代わりに。


世界の外へ。


一歩も出られない。


「それは」


俺は。


男を見る。


「自由とは」


「言えない」


男は。


笑った。


「そうだ」


「だから」


「私は」


「お前たちに」


「選ばせる」


「……」


「この世界を」


「完全に閉じるか」


「それとも」


「開いたままにするか」


「……」


俺は。


黙る。


アリアも。


セリアも。


ユウトも。


みんな。


何も言わない。


すると。


男が。


手を伸ばした。


その手のひらに。


二つの光が現れる。


一つは。


白。


一つは。


黒。


「白を選べば」


「世界は閉じる」


「黒を選べば」


「世界は開く」


「……」


「簡単だろう?」


俺は。


二つの光を見る。


そして。


笑った。


「またか」


「……?」


「二択」


俺は。


首を振る。


「お前たち」


「本当に」


「それ好きだな」


男が。


黙る。


「閉じるか」


「開くか」


「どっちか」


「そうやって」


「また」


「二つしかないように見せる」


男の目が。


細くなる。


「……」


「でも」


俺は。


一歩。


前へ出る。


「俺たちは」


「もう」


「知ってる」


「何を?」


「未来は」


「二つじゃない」


「……」


「三つでも」


「十個でもない」


「無限にある」


俺の胸の。


二つの光が。


輝く。


一つ。


二つ。


そして。


三つ目の光が。


生まれた。


「……!」


エレナが。


息を呑む。


「可能性……」


「そう」


俺は。


頷く。


「だったら」


「閉じるでも」


「開くでもない」


「……」


「別の方法を探す」


男が。


初めて。


笑った。


「……やはり」


「そう言うと思った」


「……?」


男が。


指を鳴らす。


パチン。


その瞬間。


世界中に。


巨大な壁が。


現れた。


空。


海。


大地。


森。


すべての周囲を。


巨大な透明な壁が。


包み込む。


「――!」


「何だこれ!」


リナが。


叫ぶ。


「世界が」


「囲まれてる!」


俺は。


空を見る。


透明な壁の向こう。


そこには。


無数の世界が。


見えていた。


「……」


世界と。


世界の間。


その境界に。


壁がある。


そして。


その壁の中央に。


一つの扉が。


浮かんでいた。


「……扉?」


男が。


頷く。


「第三の方法だ」


「……」


「世界を」


「閉じない」


「開きっぱなしにも」


「しない」


「では」


「どうする?」


男が。


扉を見る。


「必要な時だけ」


「開く」


「……」


「誰かが」


「誰かを」


「求めた時」


「世界と世界を」


「繋ぐ」


「……」


「誰かが」


「助けを求めた時」


「扉を開く」


「誰かが」


「新しい世界へ」


「行きたいと願った時」


「扉を開く」


俺は。


その言葉を聞いて。


笑った。


「それなら」


「俺は賛成だ」


男が。


頷く。


「だが」


「一つ」


「条件がある」


「何?」


「扉を」


「開けるかどうか」


「決めるのは」


「誰か一人ではない」


「……」


「世界全体」


「つまり」


「みんなで?」


「ああ」


「誰か一人の判断で」


「未来を変えない」


「それが」


「この世界の」


「最初の約束だ」


俺は。


みんなを見る。


誰も。


反対しない。


「分かった」


俺は。


頷いた。


「その約束」


「受け入れる」


その瞬間。


透明な壁に。


文字が浮かんだ。


『世界間門――成立』


そして。


その下に。


もう一つ。


『第一の門――開放』


「……?」


俺は。


首を傾げる。


「第一の門?」


男が。


空を見る。


「そう」


「世界と世界を」


「繋ぐ最初の門だ」


「どこに繋がる?」


「それは」


男が。


笑った。


「お前が」


「決める」


「……俺が?」


「ああ」


俺は。


しばらく。


考える。


そして。


気づいた。


「まさか」


「……?」


「最初の世界?」


男は。


何も言わない。


俺は。


空を見上げる。


世界樹。


その根元。


そこに。


黒い実が。


一つ。


まだ残っている。


「……」


俺は。


歩き出した。


世界樹へ。


ユウトが。


隣に来る。


「兄ちゃん」


「ん?」


「行くんだね」


「ああ」


「最初の世界へ」


「……」


「今度は」


ユウトが。


笑う。


「ちゃんと」


「終わらせるために」


俺は。


頷いた。


だが。


その時。


世界樹の頂上から。


声が響いた。


『――待って』


「……!」


全員が。


空を見る。


そこには。


見覚えのある姿が。


浮かんでいた。


幼い俺。


幼いユウト。


そして。


その二人の後ろに。


もう一人。


少女がいる。


黒い髪。


赤い瞳。


そして。


その少女は。


俺たちを見て。


微笑んだ。


「……誰?」


アリアが。


呟く。


俺も。


分からない。


でも。


なぜか。


胸が痛かった。


少女が。


口を開く。


『私は』


『最初の願いが』


『叶う前に』


『消えた未来』


「……」


『ユウトでもない』


『レオンでもない』


『そして』


少女は。


笑う。


『誰にも』


『選ばれなかった』


『もう一人』


俺の胸の光が。


激しく輝く。


「……まさか」


少女が。


ゆっくり。


手を伸ばす。


『――私を』


『迎えに来て』


その瞬間。


世界樹の根元から。


巨大な扉が。


せり上がった。


扉には。


こう刻まれている。


『第二の門――未選択』


そして。


その扉の向こうから。


聞こえた。


赤ん坊の。


泣き声。


「……!」


俺たちは。


全員。


息を呑んだ。


俺は。


扉を見る。


そして。


確信した。


この世界には。


まだ。


俺たちが。


知らない未来がある。


俺たちが。


まだ。


迎えに行っていない。


誰かがいる。


俺は。


ゆっくり。


扉へ近づいた。


「……行こう」


ユウトが。


頷く。


「うん」


アリアも。


笑う。


「もちろん」


俺は。


扉に。


手を置いた。


そして。


ゆっくり。


開いた。

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