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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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63/132

第63話 普通の朝

――朝。


鳥の声が聞こえた。


風が吹いている。


木々が揺れている。


暖かな日差しが、窓から差し込んでいた。


「……」


俺は目を開けた。


天井。


白い壁。


見慣れた部屋。


そして――。


「……戻ってきた」


思わず呟いた。


身体を起こす。


痛くない。


重くない。


何かに縛られている感じもしない。


胸に手を当てる。


そこには、もう十個の鍵はなかった。


ただ、小さな光だけがある。


一定の間隔で。


ゆっくりと。


明滅している。


「……普通だ」


俺は笑った。


「本当に……普通だ」


すると。


コンコン。


「レオン?」


扉の向こうから声がした。


アリアだ。


「起きてる?」


「ああ」


「入るよ」


扉が開く。


アリアが顔を出した。


「おはよう」


「おはよう」


「……」


「……」


二人で顔を見合わせる。


何故か。


どちらも笑ってしまった。


「何?」


「いや」


アリアが笑う。


「ちゃんと朝が来たなって」


「……ああ」


「世界が壊れてない」


「うん」


「誰も消えてない」


「……うん」


アリアが。


少しだけ目を細める。


「夢じゃないよね?」


俺は。


頬をつねった。


「痛っ」


「何してるの?」


「夢かと思って」


「ふふっ」


アリアが笑う。


その笑い声を聞いて。


俺は。


ようやく。


本当に帰ってきたんだと実感した。


――世界の外側。


百七十二の世界。


百七十三番目の世界。


原初。


観測者。


管理者。


選択。


可能性。


自由。


約束。


全部。


夢じゃない。


確かに。


俺たちは。


ここまで来た。


「レオン」


「ん?」


アリアが。


窓の外を見る。


「みんな、もう起きてるよ」


「早いな」


「朝ご飯だって」


「……」


「どうしたの?」


「いや」


俺は。


ベッドから降りる。


「行こう」


「うん」


扉を開ける。


その瞬間。


「遅い!」


「兄ちゃん遅すぎ!」


「レオン、寝坊?」


「お腹空いた……」


「……お前ら」


廊下には。


全員が揃っていた。


カイン。


ノア。


リナ。


セリア。


セレナ。


ミア。


ユナ。


そして。


もう一人。


「……」


エレナが。


少し離れた場所に立っている。


俺と目が合う。


「おはよう」


「おはよう、エレナ」


「……」


エレナは。


嬉しそうに笑った。


「おはよう」


その笑顔を見て。


俺は思った。


この子は。


もう管理者じゃない。


世界を管理する者でもない。


ただの。


一人の少女だ。


自分の未来を。


自分で選ぶ。


そんな存在だ。


「レオン」


「ん?」


ユナが。


俺の服を引っ張った。


「ご飯」


「ああ」


「早く」


「分かった分かった」


俺たちは。


食堂へ向かった。


――。


食卓には。


パン。


スープ。


卵。


焼いた肉。


そして。


大量の果物。


「……多くない?」


「だって」


ミアが言う。


「帰ってきたんだから」


「そうだよ」


セリアも笑う。


「今日はお祝い」


「何のお祝い?」


俺が聞くと。


全員が。


一斉に答えた。


「生還祝い」


「……」


俺は。


思わず笑った。


「大げさだな」


「大げさじゃない!」


リナが叫ぶ。


「何回死にそうになったと思ってるの!」


「……」


「世界も何回壊れかけたと思ってるの!」


「……」


「普通に考えたら!」


リナは。


指を一本立てる。


「もっと盛大に祝うべき!」


「分かったよ」


俺は。


パンを手に取った。


「じゃあ」


「乾杯しよう」


ノアが。


水の入った杯を持ち上げる。


「酒じゃないの?」


「朝から飲むな」


「ちぇっ」


全員が笑う。


杯を掲げる。


「それじゃあ」


俺が言った。


「帰ってきたことに」


「乾杯!」


「乾杯!」


杯がぶつかる。


小さな音が。


食卓に響いた。


その瞬間。


俺の胸の光が。


一度だけ。


強く輝いた。


「……?」


俺は胸元を見る。


「どうしたの?」


アリアが聞く。


「いや」


「何でもない」


光は。


すぐに消えた。


――。


朝食が終わったあと。


俺は。


外へ出た。


庭。


青い空。


雲。


風。


世界樹。


そして。


その根元に。


小さな花が咲いていた。


「……」


俺は。


花を見つめる。


すると。


後ろから。


声がした。


「ここにいたんだ」


振り返る。


ユウトだった。


「どうした?」


「兄ちゃんこそ」


「ちょっと」


俺は。


世界樹を見る。


「確認してた」


「何を?」


「世界が」


「ちゃんと続いてるか」


ユウトは。


少し黙った。


そして。


笑った。


「続いてるよ」


「……」


「俺たちが」


「こうして立ってる」


「それだけで」


「十分じゃない?」


俺は。


笑った。


「ああ」


二人で。


並んで立つ。


しばらく。


何も話さなかった。


でも。


その沈黙は。


嫌じゃなかった。


昔は。


ユウトを救わなければ。


何も始まらないと思っていた。


でも。


違った。


ユウトは。


もう。


誰かに救われるだけの存在じゃない。


俺と。


一緒に未来を選ぶ。


一人の人間だ。


「兄ちゃん」


「ん?」


「一つ」


「聞いていい?」


「何?」


ユウトが。


空を見上げる。


「俺たち」


「これから」


「何するの?」


「……」


俺は。


考えた。


世界を救った。


願いの仕組みも変えた。


管理者も。


世界の外側も。


乗り越えた。


だったら。


これから。


何をすればいい?


「……分からない」


俺は。


正直に答えた。


「え?」


「本当に分からない」


ユウトが。


笑う。


「兄ちゃんらしい」


「うるさい」


「だって」


「今までずっと」


「世界を救うことばっかり考えてたじゃん」


「……」


「だから」


ユウトは。


俺を見る。


「これからは」


「ゆっくり考えればいいよ」


「……ああ」


「明日決めなくても」


「いい」


「明後日でも」


「その次でも」


「……」


「それこそ」


ユウトが。


笑う。


「普通に生きればいい」


俺は。


空を見上げた。


青い空。


どこまでも続いている。


「……そうだな」


――普通に生きる。


それが。


俺自身の願いだった。


その時。


後ろから。


声がした。


「レオン」


「ん?」


アリアだった。


「ちょっと来て」


「何?」


「いいから」


「?」


俺とユウトは。


アリアについていく。


庭の向こう。


そこには。


みんなが集まっていた。


「何だ?」


カインが。


腕を組んでいる。


「これを見ろ」


「?」


指差した先。


そこには。


一本の道があった。


今まで。


存在しなかった道。


世界樹の根元から。


森の奥へ続いている。


「……新しい道?」


セリアが。


首を傾げる。


「昨日までは」


「なかったよね」


ノアが。


地面を調べる。


「魔力の痕跡がある」


「でも」


「敵意はない」


セレナが。


静かに言う。


「これは」


「世界の外側から」


「続いている道」


「……」


俺は。


道の先を見る。


そこには。


小さな光が。


浮かんでいた。


エレナが。


その光を見て。


呟いた。


「……あれ」


「知ってるのか?」


俺が聞く。


「うん」


エレナは。


少し困った顔をした。


「あれは」


「世界の管理者が」


「未来を記録するために使っていた場所」


「未来を?」


「うん」


「でも」


エレナは。


首を振る。


「今は」


「違う」


「何が?」


「誰も」


「未来を記録していない」


「……」


「だから」


「未来そのものが」


「ここに」


「流れてきてる」


俺は。


道を見る。


その先から。


無数の小さな光が。


ゆっくり。


こちらへ流れてくる。


一つ。


二つ。


十。


百。


その一つが。


俺の前で止まった。


光の中に。


映像が浮かぶ。


小さな村。


俺たちが。


歩いている。


次の光。


森。


俺たちが。


冒険している。


次の光。


大きな街。


祭り。


次の光。


海。


次の光。


雪。


次の光。


家。


そして。


次の光。


俺。


アリア。


ユウト。


みんな。


笑っている。


俺は。


息を呑んだ。


「……これ」


アリアも。


隣で。


見つめていた。


「未来……」


「そう」


エレナが言う。


「まだ決まっていない未来」


「でも」


「一つだけ」


エレナが。


俺を見る。


「未来には」


「必ず」


「選択がある」


「……」


「だから」


「この先は」


「あなたたちが」


「自分で決める」


俺は。


光を見る。


今までの旅とは。


違う。


誰かに命令されるわけじゃない。


世界に選ばされるわけでもない。


犠牲を要求されるわけでもない。


未来を。


自分たちで。


選ぶ。


俺は。


小さく笑った。


「……それなら」


「ん?」


「やってみるか」


アリアが。


笑う。


「何を?」


「冒険」


「また?」


「また」


リナが。


飛び跳ねる。


「賛成!」


カインも。


笑う。


「まあ」


「退屈よりはいい」


ノアが。


肩をすくめる。


「僕はもう少し静かな生活がしたいんだけど」


セリアが。


笑った。


「無理じゃない?」


「だよね……」


みんなが。


笑う。


俺も。


笑った。


その瞬間。


胸の中の小さな光が。


今度は。


少しだけ大きくなった。


――ドクン。


「……?」


俺は。


胸を押さえる。


すると。


光の中から。


一つの言葉が。


聞こえた。


『最初の未来を』


『選んでください』


「……」


俺は。


思わず。


笑った。


「未来って」


「本当に」


「終わらないんだな」


ユウトが。


隣に立つ。


「だから」


「面白いんじゃない?」


「ああ」


俺は。


道を見る。


世界樹の根元から。


知らない未来へ続く道。


俺たちは。


まだ。


何も決めていない。


どこへ行くのか。


何をするのか。


誰と出会うのか。


何を失うのか。


何を得るのか。


全部。


これからだ。


俺は。


一歩。


踏み出した。


「行こう」


「うん!」


みんなが。


続く。


その後ろで。


世界樹が。


大きく揺れた。


まるで。


見送るように。


そして。


誰も気づいていなかった。


世界樹の最も高い場所。


そこに。


一つだけ。


黒い実が。


実っていたことに。


その実の中には。


小さな光。


そして。


光の中心に。


見覚えのある文字が。


浮かんでいる。


――『第一の世界』


黒い実が。


ゆっくり。


脈打つ。


ドクン。


ドクン。


まるで。


誰かが。


まだ。


そこにいるかのように。


そして。


遠く。


世界の外側で。


誰にも聞こえない声が。


小さく。


呟いた。


『……終わっていない』


『まだ』


『最初の世界が』


『残っている』

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